これは報われない恋だ。

朝陽天満

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180、総本山の裏の顔

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 ぎゃあああぐああああひいいいいという何とも汚らしい悲鳴を聞きながら、俺はその部屋を後にした。

 マッピングされた道をひたすら戻る。手には剣。でも俺の剣技じゃ脅すのがせいぜいだから、飾りのような物だ。ちらっと後ろを振り返ったけど、ローブを着た人だけじゃなくて、お綺麗に着飾っている人とかもいて、貴族にもかなり信者がいることに衝撃を受けた。貴族の場合沢山お金持ってそうだから、お布施とか取り放題だよな。セィの教会が廃れないわけだ。

 走りながらマップを見ると、またも人が集まってきた。

 仕方なく真横の廊下に逸れて、奥の部屋に飛び込んだ。



 ドアを閉めて部屋を見回すと、そこは小さな部屋だった。クローゼットのようなものが壁一面にしつらえられていて、奥に行く扉がある。

 ぞわ、と背筋を何かが走った。

 何だろう。変な感じがする。

 そっとクローゼットを開けると、そこには教会の人用のローブがぶら下がっていた。

 見る限り何の変哲もないローブだった。



「これを着たら、もっと動きやすくなるんじゃないかな」



 と思いついてローブを手に取った瞬間、手から何かが身体の中を駆け抜ける。

 え、今の感じ、呪いに掛かった時みたいだった。

 思わずインベントリからディスペルハイポーションを取り出して、ステータスを見る。

 そこには『魅了(呪い)』としっかりと書かれていた。

 呪いの文字に反応してすぐさま一気にディスペルハイポーションを呷る。

 すると、ステータス欄からすぐに呪いは消えた。



「えー、ローブに呪いが掛かってるってどんだけ……」



 鑑定を使ってみると『アドレラ教会総本山のローブ(呪い):アドレラ教総本山の信者に贈られるローブ とても名誉なローブ これを着ると呪いに掛かる』と表示されて、思わず吹き出した。



「ちょ、呪われる名誉なローブって。なにこれ怖い。呪われるのは勘弁かな。でもちょっと雄太に見せたい」



 好奇心で拾ってインベントリに突っ込む。触ると呪われるから、もう一度ディスペルハイポーションを飲んでから、改めてクロゼットに掛かった沢山のローブを見て唸る。

 これを着てあの部屋に近付こうと思ったのに着れないじゃん。

 何とかならないかな。



「呪いを解くアイテム……って、今飲んだばっかりじゃん」



 ふとそのことに気付き、そっとディスペルハイポーションを取り出してみる。やってみる価値はあるよな。

 目の前にぶら下がっているローブが全部呪いのアイテムであることを確認してから、瓶を構えた。

 勢いをつけて、ぶっかける!

 即座にディスペルハイポーションの掛かったローブを鑑定すると、『アドレラ教会総本山のローブ:アドレラ教総本山の信者に贈られるローブ とても名誉なローブ 防御力5アップ 魔力5アップ』となっていた。



「うわ、もしかして、ディスペルハイポーションって掛けても効果出るの……?」



 ローブに掛けて呪いが解けるっていうことは、そういうことだよな。もしかしたら麻痺の時、ヴィデロさんに口移しで飲ませてもらわなくてもよかったってことか……。気付いたのが今でよかった。役得役得。

 呪いの解けたローブを羽織り、しっかりとフードを被る。でもサイズが合わなく丈の長いローブがずるずる足元で引きずっているのが何とも辛い。もっと小さいのないのかな。仕方ない、ディスペルハイポーションの大盤振る舞いをしてやろう。

 半眼で乾いた笑いを零しながらクローゼットを開けまくる。端の方に、女性用と思われる小さめのローブを発見したので、またしてもディスペルハイポーションで呪いを解いて、着替え直した。今度は引きずらない。よし。……ちょっと悔しい。でも魔力アップはちょっと嬉しい。

 元通り扉を閉めて、気になる奥の扉をそっと開ける。

 覗き込むと、そこには見るからに人工的に砕かれた石が数個、宝石で飾り立てられて祭壇のような物の上に置いてあった。

 部屋は光が入らず、蝋燭の火が揺蕩っている。

 感知がその部屋に何かがある、と告げている。

 その数個の石に鑑定を掛けてみると。



『呪いの石像の一部:魅了の呪いが掛かる石 触ると呪われる』

『呪いの石像の一部:魔物寄せの呪いが掛かる石 触ると呪われる』

『呪いの石像の一部:盲目の呪いが掛かる石 触ると呪われる』



 鑑定結果を読んで、思わず顔を顰める。

 祭壇にはしっかりと『御神石』と書かれていて、胸がむかむかしてくる。

 何だよこの部屋。

 言いくるめてここに連れて来た人をこれに触らせて、素晴らしい教えとかそういうのをくどくど説いて、その後あなたも仲間です、なんてローブ着せたらもう妄信的信者出来上がりじゃん。

 最悪な教皇だな。

 ニコロさんみたいな人もいるのに、ここは腐ってる。

 顔を顰めて、俺はそっとその部屋を後にした。

 気持ち悪い……。

 石像の一部ってもしかして、ジャル・ガーさんみたいな人が他にも……なんてことを考えたら何も手に着かなくなりそうだから今は考えない。石像を砕いたらどうなるのかなんて考えたくない。もしかしたらその石像も生きてたのかも、なんて……。

 耐えられなくて、俺は顔を手で覆った。





 少しの間ローブのあるクローゼットの部屋で立ち尽くしてた俺は、外の喧騒で覆っていた手を外した。

 顔が隠れるようにフードを手で引っ張り、そっと扉を出る。今度は堂々と歩いて進むと、前から足早にやってきた同じローブの人が手を組んで頭を下げた。

 祈りの組み方だったので、俺も手を組んで頭を下げる。

 よし、今度はバレなそうだ。

 マップに載っている道を進み、教皇の所を目指す。

 慌ただしく走っている信者はきっと俺を探してる人だろうと思う。スルーされてるから、全然気付かれてないんだ。



「下の階に近衛騎士団が来たそうです」

「なんですと」

「何でも、首座大司教が異邦人を拉致したとか」

「首座大司教がそんなことするはずないじゃありませんか」

「そうですよね。何かの間違いだと思います。あの方はとても我々のことを考えてくださる素晴らしい人格者ですから」



 その人格者は闇魔法の使い手です。

 ゆったり歩く人同士が会話しているのをすれ違いざまに聞いてしまい、思わず心の中で突っ込む。

 俺を連れて来たのは首座大司教っていうのか。なんか偉い人みたいな身分だな。教皇に直接御目通り出来るから偉い人なんだろうけど。

 静かに歩きながら溜め息が洩れそうになるのを何とか堪える。

 でも、近衛騎士団って。団ってことは、近衛騎士一人じゃなくて、集団で来たってことかな。よかった、ヴィデロさん単独で動かなくて。

 引っ切り無しに廊下を走る信者とすれ違うけれど、誰も俺を気に掛けもしない。これは楽チン。





 もうすぐ教皇の間にたどり着くというところで、背後が騒がしくなった。

 マップにはたくさんのNPCマークが入り乱れ、その中に一人だけ、プレイヤーが混じっていた。

 驚いて振り返ると、向こうから走ってくるのは、ヴィデロさんの身に着けていた鎧を着た騎士の集団と、ユキヒラ。



「マック! 無事だったのか!」



 迷いなくユキヒラが俺に声を掛けてくる。

 一瞬驚いたけれど、俺も前を向いたままユキヒラが来たことに気付いたんだった。

 ユキヒラのマップにも俺がプレイヤー表記されてるから一発でわかるんだよな。

 足を止めると、一人の近衛騎士が他の集団を置いて飛び出してきた。

 勢いのまま掬い上げるように俺を抱き上げ、痛いくらいに抱き締めてくる。

 面の間から見える深い緑色の綺麗な瞳が泣きそうに揺れているのが見えて、胸がきゅっと締め付けられた。

 心配かけてごめん。



「とりあえずそのまま連れて教皇の間に突入するぞ!」



 ユキヒラの指示で、一緒に来た近衛騎士団が教皇の間の扉を蹴破る。

 俺はヴィデロさんに抱き上げられたまま集団の仲間入りを果たした。



 部屋に突入すると、立派な椅子に座った初老の人が冷たい目で俺たちを見ていた。

 部屋の横には数人の老人がローブを羽織って立っている。

 この立っている人の中に首座大司教っていう人もいるのかな。



「ヴィデロさん、あの中に闇魔法の使い手がいるから気を付けて」

「わかった。どいつだかわかるか?」

「喋ればわかるかもしれないけど、顔は見てないんだ。眠らされちゃって」

「そうか。わかったら教えてくれ」



 ヴィデロさんの言葉に頷いた後、え、わかったら何をする気なんだろう、とちょっと不安になる。一刀両断とか、しないよね、うん、しないはず。ははは。



「教皇! 異邦人拉致の罪で一緒に来てもらおう!」



 騎士団の先頭に立った人が高らかに宣言する。でも教皇と呼ばれた人は顔色も変えずにただまっすぐその騎士団の人を見ていた。



「異邦人拉致など。ありもしない罪を擦り付け、今の近衛は何を考えているのだ。嘆かわしい」

「嘆かわしいのはどっちだ。この通り拉致された異邦人は保護した。そいつの口から真実を語ってもらおう」



 ユキヒラがこっちを見ながら教皇に向かって言い放った。待ってユキヒラ。打ち合わせしてないんだけど。とちょっと焦っていると。

 教皇は俺の姿を見た瞬間、ふん、と少しだけ笑った。

 俺がこのローブを着てるから、魅了の呪いに掛かってると思ってるのかな。だからこその強気の姿勢だったら残念でした。



「その者は我らアドレラ教の信者であろう。拉致されてきたのではなく、自らこの門戸を叩いた者ではないのか?」



 勝ち誇ったような顔をした教皇が、俺を見て「真実を話せ」と圧力をかけてきた。

 俺は「ちょっと下ろしてもらっていい?」とそっとヴィデロさんに囁いて、渋るヴィデロさんの腕から降りた。

 っていうかこの短時間で近衛騎士団まで動かすユキヒラって、どんだけ王宮に居着いてるんだよ。

 ちらりとユキヒラを見てから、まっすぐ教皇に視線を向けた。



「このローブを着ているのは、成り行きと言いますか一張羅を剥ぎ取られたので仕方なくです。それに安心してください。すでにこのローブの呪いは解いておきましたから。だから俺から「自らの足でこの教会にやってきました」なんて言葉は期待しない方がいいです」



 俺がはっきりとそう答えると、教皇が微かに瞠目した。

 頭からさっきのヴィデロさんの瞳が離れないんだ。



「さっき身ぐるみはがされたので、インナーでここを歩くのが恥ずかしくて、ちょっとだけローブをお借りしたんです。呪いは消えてしまったのですが、返すのは呪いのないこのローブでもいいですか? それと、ここで剥ぎ取られた俺の荷物とローブを返してください。大事な物なんです」

「なぜ……」



 横に立っている人の口からそんな呟きが聞こえてくる。その声が、すぐ耳元で聞こえていた声と一致して、俺はそっちに目を向けた。



「ユキヒラ、ヴィデロさん、あの人が闇魔法の使い手だから気を……」



 俺が言葉を言い終わる前に、止める間もなくヴィデロさんが剣を抜いてその男の腕を切り上げていた。



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