これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
184 / 744
連載

267、情報交換

しおりを挟む


「マック殿は今日は書庫に用事があって来たのですか?」

「はい」

「通行証を活用していただいて何よりです。何を調べておられたのか、と聞いたらダメでしょうか」



 宰相の人の言葉に、俺はちょっとだけ考えた。

 宰相の人はあの極秘書庫の本を網羅しているはずだ。そして、ほぼすべてを記憶してるみたいなことを言ってた。

 俺が読んだのは単なる一画だけだけど、それで2%しか増えなかったんだから、もしかしたらこの人から話を聞いたらちょっとは成功率が上がるかもしれない。でも、なんとなく最後の最後でこの人が信用ならないんだよなあ。自分の利益のある方に持って行こうとするイメージが常に付きまとって。

 さっきのハイパーポーションの件もあるしなあ。

 でもそうやって躊躇ってたら何も手に入らない。虎穴に入らずんば虎児を得ず。



「『蘇生薬』という物に興味があって、色々と探していました。やっぱりそういうの、薬師の憧れですよね」



 世間話のようにそう言ってみる。

 すると、宰相の人が「蘇生薬……」と呟いた。



「マック殿はそこを目標としているのですか。高みを目指しているのですね。素晴らしいことです」



 うんうん頷く宰相の人は「蘇生薬」に関する何らかの知識があるっぽかった。



「まだまだ手は届かないんですけど、何か知ってることとかありませんか? 助言とか頂けるととても助かるんですけど」

「知っていること……そうですね。私もほぼ伝承を本で読んだ程度なのですが、『その奇跡の薬は、引き離された肉体と精神を繋ぎ、命尽きようとしている者を生き返らせる。それが「蘇生薬」である』という一文が大陸の本に載っていたと記憶しています。私には肉体と精神が引き離されるということがどういうことなのかわかりませんが、もしそんな薬が出来たら、素晴らしいのと恐ろしいのが半々ですね。でもマック殿ならそのうちぽろっと作ってしまいそうな雰囲気があります。頑張ってください」

「ありがとうございます」



 なんかいい話が聞けた。ちらりとクエスト欄を開いて覗くと、成功率が今ので3%増えていた。有意義! 今回のお茶は有意義でした! ありがとう宰相の人!



「ちなみにその本がどの本なのか、覚えてますか? 俺も読んでみたいです」

「そうですね。入り口から入って左手の棚全体が大陸に伝わっていた伝承などが書かれている本を詰めた棚なのです。そこら辺を読むことをお奨めします」

「適当に詰めてるんじゃなかったんだ……変なところにレシピとか入ってるから適当に詰められてるのかと思った……」



 本棚の本を思い出してそう呟くと、宰相の人がはははと笑った。



「私もあまり古代魔道語が堪能ではないので、まとめられる物だけをまとめたような形になってしまいましたから。私もさすがに古い言い回しの言葉はとてもとても理解できません」



 宰相の人は残念ながら、と肩を竦めた。この人も出来ないことがあったんだなあ。なんて変なことを今更思う。なんでも出来そうな雰囲気があるんだもん。



「探してみます。今日は遅いから、また今度。今度はヴィデロさんと二人で来てもいいですか?」

「もちろんです。ぜひ顔を出してください。ヴィデロ殿も歓迎いたしますよ」



 そしたら、その時は極秘建造物に案内してくださいお願いします。と心の中で頭を下げた俺は、お礼とばかりにちょっとだけ情報を明かすことにした。



「そういえばさっき話に出ていたハイポーションより効くポーション、俺、一か所だけ契約して納品してるんですよ。もちろん、人族の元に」

「……それは」



 お礼代わりの情報は、宰相の人にとって驚愕の表情を浮かべるほどの内容みたいだった。



「どこに、と聞いてもよろしいですか? もし可能であれば、私どもの所にも、とお願いするのはいけないことなのでしょうか」

「あくまで、現状を見るにみかねて卸してるって感じなので、そこまで切羽詰まってないここに卸す気はありません」

「見るにみかねて……と言いますと」

「辺境騎士団です」



 辺境騎士団……と呟いたきり無表情になった宰相の人は、しばらく考え込んでいるようだった。



「辺境には十分な物資を届けているはずなのですが。見るにみかねてとは、どういう状況を指すのでしょうか」



 その一言で、宰相の人は辺境に届けられるものが粗悪品だということに気付いていなかったことがわかった。流石にあの仕事量じゃ、各騎士団の物資関連にまで手を出すことは出来ないよなあ。書類くらいは見るかもしれないけど。

 物資関連扱ってる人、ちゃんと仕事しろ。もしかして差額を横領してるのかな。うん、何も気付かなかったことにしたい。



「辺境に卸されるハイポーションは、あそこの魔物と戦うにはほぼ使えない粗悪品が届いてたので。さすがに怪我人も増えて、魔物と戦える騎士さんたちが減ってきたって勇者が困ってたんで、獣人さんに許可を貰って卸してるんです。あ、トレの門番さんたちの物資も最悪だって前に聞いたことがあるんですけど、そういう物資関連って低予算なんですか?」

「いえ、魔物の脅威は私共もよくわかっているので、そういうことはないのですが……そうですか。そのようなことが。わかりました。ありがとうございます」



 真顔だった宰相の人は、今度は目をきらっと光らせて、獰猛に笑った。

 え、俺、何か宰相の人のスイッチ入れちゃった? さっきまでと雰囲気が全然違うんだけど。でもまあ宰相の人が本気を出したら、物資関連も円滑になるってことかな。よ、よしとしよう。宰相の人、倒れないでね。頼みの綱だから。

 俺は、カバンからスタミナポーションを取り出して、そっと宰相の人に渡した。これ飲んで元気に頑張ってね。この人が倒れたら、ここにログインするのも危うくなりそうだからさ。



 スタミナポーションを一気飲みした宰相の人は、剣呑な雰囲気を和らげて、お菓子を一つ抓んだ。



「マック殿のおかげで、一つ仕事が増えてしまいました。ありがたい悲鳴ですが、また一つ、この国に巣食う病魔を取り除くことが出来そうです」



 朗らかに笑う宰相の人の言葉は、全然朗らかじゃない雰囲気を醸し出していた。

 頑張って病巣摘出してください。そうしたら辺境で亡くなる人も減るから。悲しむ人も減るから。

 あの時見た『高橋と愉快な仲間たち』の悲しそうな顔を思い出しながら、宰相の人に「頑張ってください」とエールを送る俺だった。





 もう遅いから、と王宮を辞した俺は、王宮から農園の方に足を進めた。

 トレアムさんを連れてきてから結構な時間が経っている。こんな夜中にお邪魔してたのか俺。ちょっとだけ悪いことをしたかな、と思いつつ街灯のついた明るい道を歩いていると、見回りの騎士さんたちとすれ違う。

 前に馬を貸してくれた人かな。でも鎧を被ってるから誰が誰だかわからない。

 すれ違う騎士さん集団を見送りながら、前にヴィデロさんもあの鎧を着てたんだよなあ、と思い出す。すごく似合っていてかっこよかった。白い近衛騎士の鎧もかっこよかったし、もちろんトレの門番さんたちの鎧もかっこいい。

 でも鎧を着るとあの胸筋とかが隠れちゃうのが勿体ない。やっぱり素肌がいちばんかなあ。

 いけないいけない。だんだんとヴィデロさんを脱がせたくなってきちゃった。こういう時パンツが張り付いてるのは正直助かる。だって想像しただけで勃っちゃうお年頃だし。俺ももちろん例外じゃないから。



 夜風はひんやりしていて、綺麗に整備された道が街灯に照らされてシーンとしている。こんな時間に出歩く人なんていないのかな。

 辺りには見回りの騎士さんくらいしか見かけない。けれど見回りの間隔に隙は無く、人の気配がなくなったら即転移してトレに帰ろうと思ってたのに常にマップには人のマークがあって跳ぶことは出来なかった。

 もしかしなくてもこんなところを一人で歩く俺って不審者かも。職質されないのが不思議なレベルだよ。って、元から不審者はこの貴族街には入れないんだけど。

 農園を目指しながら、すれ違う騎士さんたちに「お疲れ様です」と頭を下げる。騎士さんも同じように挨拶をしてくれるけど、やっぱり「よう!」なんて気楽に声を掛けてくれるトレの門番さんたちが一番な気がする。



 特に捕まるわけでもなく無事農園に辿り着いた俺は、モントさんに挨拶するため母屋を訪ねた。

 トレアムさんは一足先に帰ったみたいで、もう少し待てばあいつもすぐ帰れたのにな、なんてモントさんに笑われた。タイミングが合えば送ってったのに。



「まあでも、後日同居人と共に馬を返しに来ると言ってたから、それも楽しみなんだろうよ。あれだろ。マックの友人なんだろ」

「輪廻ですか? 友達です。同じ「草花薬師」ですよ」

「そうか。トレアムの所のも「草花薬師」になったのか。いいこと訊いた。ありがとな」

「こう言うのって農園で情報共有するんですか?」

「ああ。ただなあ。トレアムは必要最低限しか話さねえだろ。まだ俺らにその同居人が「草花薬師」っての、あいつ伝えやがらねえ。出し惜しみかよ」



 チッと舌打ちするモントさんに、「もしかしたら隠しておきたいのかも。恋人っぽいし」とついポロっと零したら、モントさんは楽しそうにニヤリと笑って俺の頭をポンポン手でたたいた。

 今度来た時揶揄うんだって。トレアムさん今までそういう浮名を流したことがなかったからって。俺もその揶揄い風景見たいなあ。

 そんなことを考えながら、モントさんに挨拶してトレに戻ったのだった。



しおりを挟む
感想 537

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。