これは報われない恋だ。

朝陽天満

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326、ちょっと先に進めたよ

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 三人ともすぐに受け取って呷り、目を見開いた。「すげえ」とかいう呟きが聞こえたから、ちゃんと解呪できたみたいだ。よかった。



「マジかよ……。一瞬で呪いが消えやがった」

「ほんとだ……複合呪い、消えたよ。複合呪いに掛かったら一番初めにやることは「諦めること」だって勇者に言われたのに」

「お、立てる。さすがマックだ」



 皆の言葉を聞いて安心しながら、セイジさんに抱きかかえられてるクラッシュにもディスペルハイポーションを掛ける。すると、クラッシュが身動ぎしてゆっくりと目を開けた。



「あれ、俺何でセイジさんに抱えられてるの……?」

「呪いは消えたか?」

「呪い……? あれ、呪いだったんですか……? 一瞬で目の前が真っ暗になって」

「しかも複合呪いだぜ……魔物が出るより本来だったら厄介だったはずだ」

「ふ……複合呪い……って、何で呪いが消えたんですか? ありえない」

「ありえねえよな。はは、普通はありえねえ。でもマックがいきなり解呪アイテム出してきやがった」



 セイジさんが笑いながら話すと、クラッシュは目を剥いてがばっと起き上がった。その勢いのまますぐ近くにいた俺をがしっと掴んで、「マック」とじっと顔を見つめる。

 言いたいことはわかった。どうしてうちの店にそういう物を持ってこないんだって言いたいんだろ。

 口を開く前に、俺はインベントリからディスペルハイポーションを二本取り出してクラッシュの手に握らせた。



「また何かあった時用にあげる。一本は自分用、一本は呪いで動けなくなった人用。クラッシュの店に卸してもいいけど、高濃度魔素の水で作ったランクS聖水を使ってるから、作れる人は殆どいないと思うよ」

「ありがとう……。いやいやいや、卸さなくていいよ。そんなの俺の店で売ったら教会に何言われるか」

「え、でも教会の立て直しが滞ってるからそこまで手が回らないんじゃないの?」

「逆だよ。こんなのが作れる人がいるなら、ぜひ教会にって監禁されそう。俺は作れないって言っても、今度は作れる人を連れて来いって拷問されそう」

「ああ……」



 なんかわかる。若い子は染まってるってエミリさんも言ってたし。

 よし、ランクSはここだけの秘密にしとこう。そう決心しながら俺は他の人たちにも二本ずつ渡した。うん、俺が「沈黙」に掛かりやすいの、わかった気がした……けど気のせい気のせい。



「んじゃ、最後の一つと行きますか。今度は呪いみたいなもんもガードする防御魔法陣にするか」



 どうするかな、なんて呟きながら魔法陣を構築するセイジさんは、その場で魔法陣を考えているようだった。一瞬で魔法陣構築を考えられるってホントすごい。俺も出来るようになるかな。ちょっと憧れる。

 セイジさんが飛ばした魔法陣は、最後のトラップである柱にぶつかると、光になって柱を包んだ。すかさずユーリナさんが弓を構え、射る。

 柱に矢が刺さった瞬間、キン、と金属がぶつかるような音がして、柱の中でさっきも聞いたピシピシという音が鳴った。



「え、嘘。リリースできた。やった、快挙! さっきのは失敗したから、今回も絶対無理と思ってたぁ」



 どうやら罠の解除に成功したらしい。

 すごい! とついつい拍手をすると、ありがとう、とユーリナさんが満面の笑みを浮かべた。



「しかも今のでがっつり経験値入ったみたい。レベル上がったよ。嬉しい」

『魔物がようやく消滅しやがった……』



 ユーリナさんの喜ぶ声にかぶさるように、勇者の声が聞こえてくる。



『おい、もう復活しねえよな。……っつうことはだ。進めるってことか。行くぞ』



 力の道も進めるようになったらしい。

 ヴィデロさん頑張ってるかな。勇者と雄太がいるからそこまで不安じゃないけど。

 勇者の声に安心して俺たちも前に進むことにした。

 全てのトラップをユーリナさんが解除してくれたからか、進むのは快適だった。トラップまみれの通路を抜けると、両開きのドアが一つだけ付いている壁で前面が遮られていた。

 早速近寄って行って、ユーリナさんがドアを観察する。



「ドアにはトラップはなし。向こうはどんな感じかな。ヴィルさん、なんかこの先変だとか感じない?」

「いや、大丈夫。でもたとえ感じても進まないといけないんだろ?」

「そうなんだけど心構えが違ってくるじゃない?」



 早速ヴィルさんの感知に慣れたユーリナさんがヴィルさんを探知機代わりに使い始めた。それに対してヴィルさんは苦笑するのみで文句は言わない。

 ヴィルさんの言葉を信じて、ユーリナさんが真っ先にドアノブを手にした。もう片方をヴィルさんが持つ。「女性を真っ先に危険にさらすのは男の沽券にかかわるからね」とかウインクしてるヴィルさんはどこをどう見ても遊び人にしか見えなかった。

 二人で一気にドアを開く。

 するとそこは、別世界だった。





 比喩的表現じゃなくて、洞窟の中のはずなのに、そこは密林の様に木が生い茂り、広いマップが展開されていた。所々に赤い点があるってことは、魔物が生息しているってことだ。俺たちだけで倒せる魔物ならいいんだけど。

 と周りを見ていて目に留まった、素材。



「素材の宝庫だ……!」



 足を踏み出した俺は、木の幹、そこから生えている葉っぱ、蔦、実に至るまですべて素材、足元に転がっている石すら鉱石という名が付く素材であることに気付き、動きを止めた。

 何ですか、ここは天国でしたかそうですか。



「なんだここは……」



 セイジさんがジャングルを見つめ、眉間にしわを寄せる。クラッシュもユーリナさんもヴィルさんもぎっちり鑑定を使っているらしく、感嘆の声を上げていた。



「謎素材って……あいつが一緒に来たら大はしゃぎしそうな場所だな……」

「セイジさんも鑑定出来ないんですね。ってことはマックに鑑定してもらうしか手がないかな」

「え、マック君この謎素材鑑定出来るの? うっそ。あたし結構持ってる。今度変なアイテムとトレードしない? マック君の作るものって色々規格外で面白いんだもん」

「これをマックが鑑定出来るのか。どうやったら鑑定できるようになるのか教えてくれないか?」



 っていうか横から魔物が近付いているけど大丈夫? 鑑定ならいくらでもするよ。でもなんでこんなところに錬金素材があるんだろ。

 おのおのの声をほぼ聞き流しながら、俺は首と目をせわしなく動かした。鑑定もガンガン使うよ。MP回復用アイテムならまだたーんとあるからね!

 ワクワクしながら鑑定しまくり、そしてふと思う。



 錬金釜はほぼ処分されたのに、どうしてこんなに各地から錬金用素材が出てくるんだろう。

 実は昔は錬金ってそこまで秘匿された物じゃなかったのかな。あ、でもそうでもない限り、農園で出てきたレシピが錬金アイテム用レシピだったっていう説明がつかないか。

 昔々はポピュラーだった錬金釜で魔王が誕生しちゃってから、本当は釜は危ない物だったんだと気付いた獣人さんとエルフが次々処分していった、っていう仮説が一番しっくりくるような気がする。多分。

 それの取りこぼしをサラさんが手にして、そして俺に流れてきた、的な感じなんだろうな。



 それにしてもここ、サラさんと二人で来たらきっと俺たち数日はここから離れられないよ。

 涎を垂らす勢いで素材を鑑定しまくってる俺の後ろでは、ヴィルさんとクラッシュが剣を手に構えた。

 2人は迫ってきた魔物に向かって走っていき、同時に魔物に攻撃を開始した。スピードの速いクラッシュが足を狙い、態勢の崩れた魔物の首をヴィルさんが狙う。いつの間にやら俺なんか足元にも及ばないくらい剣の腕を上げていたらしいヴィルさんが、危なげなく魔物の攻撃を避けながら魔物を切り裂いていく。

 そこまで強い魔物ではなかったらしく、最後ユーリナさんの矢を眉間に受けて、魔物は光となって消えていった。

 クラッシュもいつの間にやら前よりも剣が上達してる気がする。俺だけやっぱり戦力外だった。でも戦うよりも生産したいお年頃なんだよ俺は。



「それにしてもこれ、錬金素材だろ。すげえな。エルフの里みたいだ」

「俺もそれは思いました。宝の山です。……サラさんに見せてあげたいですね、ここ」

「マックお前……」



 俺の呟きに言葉をなくしたセイジさんは、上、正面、そして足元、と視線を動かしていった。

 俯いたままセイジさんが言葉を絞り出すように呟いた。



「連れてこれるわけねえよ……」



 まさか、諦めてるわけじゃないよね。と今の一言でドキッとする。だって、サラさんを助けるために毎回ボロボロになりながらクリアオーブを集めてるんだよね。こんなところまで来たのは、今度こそサラさんをしっかりと助けるためだよね。

 ドキドキしながら次の言葉を待つと、セイジさんは顔を上げて、フッと笑った。



「やっぱりだめだ。連れてこれねえ、絶対にだ。だってあいつをこんなところに連れてきてみろ。いくら先に進むぞって言っても『行かない、帰らない、ここにいて素材集めまくる!』とか言っててこでも動かなくなる。そんなんなったら最悪だ。引き摺って連れ帰ろうものなら俺は半殺しの目に合うな。ダメだ、怖くて連れてこれねえ」



 笑いながらすごく愛しい人を思う目をして呟くセイジさんに、俺は安心してしまって思わず深い息を吐いてしまった。

 よかった。もう無理だからとかそういうことを言われないで。よかった。

 言うはずないのはわかってたけど、緊張していた俺は、一気に脱力した。

 そして、サラさんの人となりを想像して、今度は笑いがこみ上げてきた。

 クラッシュを振り回して、セイジさんを振り回す。あのエミリさんの親友にして、魔王を自分の中に取り込んでしまう豪の人。



「会ってみたいなあ……」

「会えんだろ、その内」



 思わず零れた俺の言葉に、軽くセイジさんが答えたその言葉がなぜだかすごく嬉しくて、俺はにやける顔を引き締めることが出来なかった。



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