これは報われない恋だ。

朝陽天満

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327、ウツボカズラもどきの欲しい物

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 魔物を倒しつつ、広い密林を進んでいく。もちろん少しずつ素材は集めていたりする。結構インベントリがいっぱいになってきたのがちょっと辛い。

 そろそろ中央付近かな、と大きな葉っぱを掻き分けて前に進むと、開けた場所が出てきた。

 天井は見えないのに、柱のような物が3本立っており、そこに蔓が巻き付いていて、巨大なウツボカズラみたいな植物がくっついていた。俺一人はゆうに入りそうな大きさのその植物は、閉じられた蓋のようなところを時折ほんの少し開けてはまた閉めてを繰り返している。

 柱には『奉納せよ』と描かれている。もしかして、このウツボカズラに何かを入れないといけないのかな。



「何を入れればいいんだろう」

「こういう場合、どこかに何かしらのヒントがあるはずなんだけど。ヴィルさん、何かピンとくる物とか場所とかない?」

「ははは、無茶を言う。特にはないな。それに、錬金の謎素材の方は俺はお手上げだ」



 ちょっと頑張ってよヴィルさんの感知、とユーリナさんに激励されて、ヴィルさんが肩を竦めている。本格的に探知機扱いになって来たなあ。

 でも確かに、ノーヒントってことはないと思うんだけど。

 周りに何かないかきょろきょろしていると、セイジさんがそっとウツボカズラに手を伸ばしていた。



「ちょっとこれを触ってみろよ。なんか言ってるぜ」



 表面に触れながら、セイジさんが声を上げた。何か言ってるって、ウツボカズラが?

 一斉に全員が手を伸ばす。

 俺は一番近くにあった左端に手を伸ばして、表面のちょっとだけ繊毛の生えたウツボカズラに触ってみた。俺一人まるまる入りそうなその植物は、触れた瞬間少しだけ蓋を浮き上がらせて、また閉まった。



『赤い実、青い石、緑の蔓草、茶の尻尾、温かいもの、赤い木に成るとてもキラキラした宝石』



 確かに何か言ってた。

 もしかしてこのウツボカズラって意志とか自我とかそういうのがあるのかな。それとも神殿のそういう仕様なのかな。ちょっと可愛いかも。

 結構皆も謎素材をゲットして進んできたから、この子が欲しがってる物に該当する素材もあるのかもしれない。

 俺はインベントリをざっと見て、赤い実と蔓草を取り出してみた。

 皆それぞれ取り出してるけど、セイジさんが出してるのは「黄色い葉」、右端を触っているヴィルさんは「黒い石」を取り出してたから、もしかしたら全部が違う物を要求してるのかもしれない。



「ちょっと入れてみるか」



 セイジさんがウツボカズラの蓋を開けて、中に黄色い葉を無造作に放り込む。

 すると、ウツボカズラの表面が少し波打ち始めた。

 しばらくして動きを止めたウツボカズラは、そっと蓋を開けて蔦のような物で黄色い葉を排出した。



「これじゃダメなのか? ってことは違う「黄色い葉」が必要ってことか?」

「もしくは言われた素材に手を加える、とか」



 ヴィルさんの呟きに、皆が「それだ」と声を上げた。

 ということで、謎素材を何とか出来るのは錬金釜。

 俺が錬金すればいいんだね。でも他の人がここに入った時もこんな風に錬金の試練が来るのかな。そしたら皆クリアできないよね。内容とか、入った人とか願ったことで変わっていったりするのかな。

 首を傾げつつ、他のウツボカズラの欲しい物もチェックして、それぞれ望まれた物に該当する素材を取り出して並べてみた。



 錬金と言えば、と俺はインベントリからサラさんのレシピを取り出した。

 セイジさんが俺の手のレシピを見て、息を呑む。

 少しだけ掠れたような微かな声で、ぽつりと零した。



「……そうか。然るべき者の手に……って、ちょっと考えりゃわかるよな」



 俺の手元に視線を落としながら、セイジさんは片手で顔を覆った。

 肩を揺すって声を出して笑ってるセイジさんは、何だか泣いてるような気がしてならなかった。実際には涙は出てなかったけど。

 もしかしてセイジさんは一発でこれがサラさんの物だって気付いたのかな。



 セイジさんを気にしつつ、俺はレシピを開いた。このウツボカズラの欲しがってる物を合わせたレシピがないか探そうと思って。

 ページを繰って行くと、これかな、と思うレシピが出てきた。

 赤い実『寒層果実』、青い石『冷斬石』、緑の蔓草『粘着蔓』、茶の尻尾『岩蜥蜴の残滓』、暖かいもの『炎火魔石』。

 多分これだ。取り出した素材の名前が一致する。でも最後の赤い木に成るキラキラした宝石っていう物がわからない。レシピにはまだ空きがあるから、手に入れてない物だ。

 他の二つのウツボカズラの欲しい物も調べて、それもレシピを探す。

 真ん中のウツボカズラは『青い木に成るキラキラした宝石』となっていて、やっぱり手に入れてなかった。右端は『黄色い木に成るキラキラした宝石』。



「ちょっとここら辺を探したほうがいいのかもしれない」

「ないのは、「黒い皮」とキラキラした宝石類か。よし、ちょっと探索するぞ」

「多分「黒い皮」っていうのは魔物素材で、錬金術師の時じゃないと入ってこないから、片っ端から魔物をやっつけてったらその内手に入ると思います」

「魔物素材ってのは、錬金術師しか手に入らねえのか?」



 俺とセイジさんの会話に、ユーリナさんが「あたしも前にゲットしたことあるよ」と口を挟んだ。



「前にさ、辺境に魔大陸の魔物が出てきた時あったじゃん。あの時倒した魔物は謎素材を結構落としたよ。もしかしたらあたしたちもゲットできるんじゃないかな」

「さっきまでに倒した魔物から出た素材は?」

「あたしのは「キラービーの針」「極上の毛皮」「狼の最上肉」「茶熊ブラウンベアーの爪」……ないね。マック君のは?」

「俺のは「岩蜥蜴の残滓」「幼虫蜂の魔核」「菌素材の温床」とかです」

「うわあ、全然響きが違うわ。ごめん、あたしじゃ取れないのかも」

「でも高橋も前にゲットしたって言って俺にくれたんで、ゲットできないことはないんだと思います。ただ、それが魔大陸の魔物だからなのかもしれないし、たまたま運がよかったのかもしれない。そこらへんは全く分からないけど」



 素材の名前を挙げて行く度ヴィルさんの目が輝いていくのは気のせいとして、と俺たちは早速残りの素材を探しに行くことにした。

 魔物を倒しつつ、赤い木青い木黄色い木を探すことにする。



「ちょっとマック君から貰ったやつ使いそびれてたから使ってみていい?」



 ユーリナさんは、渡してから初めて『感覚機能破壊薬』を取り出した。

 まだ魔物が遠いのをいいことに、ユーリナさんは矢の先にブツをぶら下げて弓を構えた。

 無造作に射たように見えた矢は、まっすぐに遠くの魔物に命中し、その時に例のブツが魔物にヒット。

 魔物はものすごい咆哮、というか悲鳴を上げて、地面に横倒しになり苦しみ始めた。苦しんでる間にクラッシュとヴィルさんの剣でさっさと光と化してしまう。うわあ、魔物がそんなに強くないせいか、オーバーキル気味だ、ブツは。

 その様子を見ていたユーリナさんも、しばし絶句した後、そっと呟いた。



「……めっちゃ強い魔物が出てきた時に使わせてもらうね……なんか、なんて恐ろしい物を作るんだろうこの子は……」



 その時のユーリナさんが俺を見る目は、今までとちょっと違っているような気がしてならなかった。





 無事「黒い皮」だと思われる『獣墨革』もゲットして、さらにぐるりと回っていると。



「向こうじゃないか、赤い木」



 ヴィルさんが指さしたほうに、一部だけ赤い葉っぱが沢山落ちている場所があった。赤い木はまだ見えない。そっちに足を向けてみると、緑の木々に隠れるようにして、赤っぽい幹が現れた。その木は、葉を一枚もつけていなかった。足元の葉を見るに、全部の葉が落ちてしまってるって感じだった。



「『炎の聖樹』か。どうも魔物が存在するせいで木が機能していないみたいだな」



 セイジさんが鑑定をしてそんなことを言う。でもそんな炎の魔物なんてまだ会ってない。ここら辺のどこかに、この木を使えなくしてる魔物がいるってことかな。強いんだよね……。

 ドキドキしていると、セイジさんは宙に指を上げた。



「さっき、こっちのトラップを解除したらアルが進めるようになったって言っただろ。時間経過か何かかと思ったけど、なんか」



 サッと遠話の魔法陣を描いて「アル、エミリ」と声を掛けた。



『わりい今手が空かねえ。やべえのが一匹いるんだ』

「アルでもてこずってんのかよ」

『物理攻撃が全く効かねえんだよ。俺の魔力は魔法を使える類のもんじゃねえからなあ。ガンツがなけなしの弱っちい魔法で何とか削ってるんだがよ、まったく手ごたえがねえっぽいな』

「物理攻撃が効かねえって……やべえんじゃねえの」

『ああ。でも雷系の魔物だからヴィデロが全部魔法を吸収してくれてるおかげで今の所被害はねえ。が、膠着状態、って感じか』



 聞いていてぞっとした。だって勇者と一緒に向かった人たち、物理特化の人たちじゃん。ヴィデロさん大丈夫かな。雷吸収タイプの鎧でよかった。今、どれくらい輝いてるのかな。

 ドキドキしながら聞いていると、今度はエミリさんの声が聞こえた。



『返事遅くなってごめん。今ちょっと戦ってて。でも今ようやくフレアタイガーを倒したわ。でも先に進む道がないの』



 エミリさんたちは苦戦することなく魔物を倒していたらしい。

 その声に呼応するように、目の前で足元に落ちていた赤い葉がキラキラと赤い光に変わり始めた。

 その光が宙に浮きあがり、赤い幹を包み込む。



「多分、道を作るのはマックだな……」



 その幻想的な光景を目に映しながら、セイジさんが呟いた。

 キラキラと宙を舞った光が、葉に変わり、その葉の間から赤い大きな花が咲き、目の前でみるみる花が実に変化していった。

 まるで動画を早回しした様なその光景に見入っていると、どんどんと熟れていった実が、ぽとりと地面に落ちた。

 実が割れ、中から綺麗な宝石が現れる。



「これだ……」



 俺はその宝石を拾って、鑑定した。



『紅聖樹の核:炎の力をため込んだ聖なる木の核。錬金用素材』



「ってことは、ヴィデロさんたちが魔物を倒すと、今度は雷だから黄色の木が実を落とすってこと、かな。じゃあ、青の魔物は……」

「まあ、十中八九、ここだろうな」



 セイジさんが苦笑しながら答えてくれる。

 ああ、うん。やっぱり。でも否定して欲しかった。

 赤い宝石を握りしめながら、俺は溜め息を呑み込んだ。



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