これは報われない恋だ。

朝陽天満

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344、ユキヒラは運営じゃなかったんだ……

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 結果から言って、赤片喰さんは失敗した。でも一緒に入った一人はクリアしたらしい。

 もう一人どこかから引っ張り込んで4人で挑戦したのが良かったのか、最初の所で一人脱落で進み、闇スライムの所まで三人が残ったらしい。そこでまた闇スライムに一人が呑まれて、赤片喰さんともう一人の2人だけで最終の場所に行ったとか。でもって、最終の己との戦いで僅差で負けたとか。赤片喰さんの職業は『偵察兵スカウター』だそうで、その最終試練が、「絶対に何物にも見つかるな」という物だったらしい。HPMPは減らないものの、スタミナゲージが徐々に減っていって、最後は集中力が切れて魔物に見つかってしまったらしい。正直もう二度とあの試練を受けたくないくらい精神が削られたと言っていた。でもまた再度挑戦するらしい。

 途中俺たちが罠だなんだと苦労した道は、赤片喰さんの場合一人で進んでとりあえず隠密のスキルがひたすらレベルアップしたらしい。それくらい魔物が多くて、隠れるのが苦労した場所とか。いかに素早く見つからず、戦闘は最小限に進むっていうのが課題だったんだって。さすが偵察兵。本当は上級職もあったんだけど、そっちは辛そうだからとりあえず上級じゃない職をセットしていったって。色々考えて入ったんだね。

 というわけで、週末。神殿入り口下には今日神殿に入る人が集結していた。

 もちろんまだ検証状態だったので、今までの情報は共有。運営に携わっていないパーティーもちらほらいた。

 マッドライドは、フレンドのパーティーを誘って一緒に入ることにしたらしい。

 俺は。

 近場で出張薬師をやっている。

 隣には護衛のヴィデロさんがいるから、ちょっとした物見遊山って感じで来てみたんだけど。



「ユキヒラ。何でここにいるんだ?」

「駆り出されたんだよ……。もう少しでロミーナちゃんをデートに誘えるところだったかもしれないってのに」

「頑張ってたんだ……ロミーナちゃん口説き」



 苦々しいユキヒラの表情には、笑いしか出てこなかった。

 ロミーナちゃん、迷惑してないといいんだけど、とちょっとだけ心配になる。



「お前らは相変わらずでもう何も言うことねえよ畜生!」



 ユキヒラは俺とヴィデロさんが並んでいるのを見て、悪態をついた。えへへ、俺たちはラブラブだから。と、ちらっとヴィデロさんを見ると、ヴィデロさんも面白そうな顔をしていた。



「ユキヒラも入るんだろ。気を付けて入れよ」

「ああ。聖魔法もレベル上げて来たし、何とかなんだろ」

「ああ、『聖騎士パラディン』で入るんだ。苦労しそう……」



 赤片喰さんの話を思い出して遠い目をしていると、ユキヒラがバン、とヴィデロさんの背中を叩いた。



「でも幸運もクリアしたんだろ。じゃ、俺も頑張らないとな」

「どうしてそうなるんだ」

「だってお前は俺の好敵手だから」

「……なに?」



 ヴィデロさんが「ライバル」という言葉に反応する。違うよ。ユキヒラが俺を好きとかそういうわけじゃないよ。ユキヒラはロミーナちゃん一筋だから。

 眼光が増したことに気付いたユキヒラも、同じようなことに気付いて慌てて首を振った。



「ち、ちげえって。好敵手ってのは、マックを取り合うとかそういうのじゃなくて……」

「……わかってるって」



 焦っているユキヒラの態度に、ヴィデロさんは耐えられないとでもいう様に吹き出した。

 揶揄ってたらしい。笑った顔がすごく可愛かった。



「でも、上級職じゃない方でチャレンジしたほうが難易度下がりそうだけど」

「難易度とかの問題じゃねえんだよ。俺が『聖騎士パラディン』として試練を受けたいんだ。だからこれでいいの。それで失敗したらまだまだだったってだけだろ。それにな、聖魔法のレベルが上がってもまだ絶対に覚えてない魔法とかがあるんだよ。それを手に入れるきっかけになるかもしれねえし」

「って、結構本気で挑もうとしてるんだ。検証じゃなかったんだ」

「あのな。王宮で宰相さんの手伝いしてたりアリッサさんの所で手伝わされたりしてるけど、俺は別にそっちの人じゃねえから。ただのこっちの小間使いだぜ俺は」



 そうだったんだ。もしかしたらユキヒラも運営の一人かと思ったんだけど。

 そんな話をしている間に、マッドライドが近付いてきた。



「マックとユキヒラが仲いいなんて知らなかったぜ」

「俺もマックとハルポンが知り合いだなんて知らなかったぜ」

「俺ら、リア友だぜ?」



 ハルポンさんがニヤリと笑うけど、向こうで会ったのはゲームフェスタの一回だけですよね。

 後ろからヴィデロさんよりも背の高い乙さんがぬっとあらわれて、話の輪に入って来る。



「マック。今回は面白い話サンキュ。気合い入れてクリアしてくるから」

「あんたが気合い入れてもいまいち頼りないけどね」



 後ろからミネさんも混ざって来る。そして重そうな全身鎧とでっかい盾を持ったムコウダさんも合流した。その後ろには、今日一緒に入ることになった俺の知らないパーティーがいた。全員女性の三人パーティーだった。



「こっちのは『フラウリッター』。見ての通り全員女性パーティーだ。騎士道精神を説いてるくらいに真面目で強いお姉さま方のパーティーだから、ちょっかい出さない方がいいぜ」



 ハルポンさんに紹介されて、美人な鎧の三人組の女性に視線を向けた。騎士道精神の女性。聞いただけで強そうだ。

 よろしく、と手を差し出して来た人がリーダーのナイトさん。隣がクロスさんで反対側にいるのがダブルさんというらしい。



「君が噂のマック君か。よろしく。今日は特別なポーションを売ってくれると聞いたんだが」

「あ、はい。俺は入れないので、出張薬師です」



 それぞれが俺とヴィデロさんと握手をしたんだけど、ヴィデロさんはずっと俺に覆いかぶさるようにして俺の後ろから手を差し出していた。片手は常に俺の肩の上。その格好を見て、ユキヒラとマッドライドの人たちが大笑いしていたのは気のせい気のせい。

 無事皆にハイパーポーションと聖水を売りつけると、少し離れた場所から岩の上に登っていく先発隊を見上げた。



 山の上に消えていくハルポンさんたちを見送りながら、残された俺たちも撤収することにした。

 先発隊が戻ってきたら次に入る人たちがここに来るらしい。ということで、俺たちの役目も終わり。と、一緒に乗ってきた馬さんのもとへ2人で並んで歩いた。



「俺は、もう二度とあの試練を受けたくないと思う。でも、異邦人たちは失敗してもまた受けるんだろ。心が強いな」



 しみじみとヴィデロさんが呟く。

 でもそれは、多分試練の重みが違うんだよ。

 ヴィデロさんも、勇者たちも、心の奥底で望んでる力がすごく深くて重いものだから。

 プレイヤーたちはきっと「ひゃっはー! 限界突破!」っていう雄太と同じようなゲームのノリだったからそんな風に言えるんだよ。だからこそ、大事な人の顔を魔法で打ち抜けるんだよ……多分。アレがユイの隠れた本性だったらちょっと怖い。

 大人しく待っていてくれた馬さんの顔を撫でてから、俺とヴィデロさんは馬上の人となった。

 馬さんを考慮してか、ヴィデロさんは鎧は着ていない。鎧一式で何十キロっていう重さになりそうだから、きっとフル装備の人を乗せる馬さんは大変だよ。



 ゆっくりと馬を走らせながら、俺はヴィデロさんの素晴らしい胸筋に頭を預けた。



「そういえばマック。マックは気付いてたか?」



 耳元で囁くようにヴィデロさんが訊いてきた。

 何のことだろうと首を傾げると、ヴィデロさんの片手が俺の胸の上に重なった。



「マックのここの刺青、前よりもっと大きく赤くなっていて、何かの紋様みたいになってたんだ」

「え、ほんと?」



 ローブの上から胸元を撫でられて、俺は思わずヴィデロさんの腕を見下ろした。

 ヴィデロさんが見たってことは、鎧を出しに行った日愛し合ったときだよな。

 全然気付かなかった。俺の目はヴィデロさんの裸体に釘付けだったから。



「気付かなかった。変じゃない? 大きくなってたらいや?」

「いやじゃないし、変じゃない。そこに口付けたくて仕方なかった。でも腰の傷とその刺青に口付けるとマックがすぐに力尽きるから少しでも長く楽しみたくて出来なかったんだ」

「ヴィデロさん……今はもうスタミナポーション飲んだら復活できるから。だから……」



 ヴィデロさんの囁きに、胸が高鳴る。

 確かに、傷と刺青を弄られるとそこが性感帯みたいな感じになってすぐにイっちゃうから、前はそこまで愛し合えなかったけど、今は回復沢山出来るんだよ。ヴィデロさんがもうやめてっていうまで出来るんだよ俺。

 だから。



「たくさん、色んな所にキスして欲しいし、キスしたい」



 と本音を零して、俺の胸を押さえているヴィデロさんの手に、自分の手を重ねた。

 途端にぎゅうッと腕に力が込められて、筋肉に圧迫される。幸せ。



「じゃあ、今日……」



 誘うような声に、俺は後ろを振り向いて、目を合わせてから、しっかりと頷いた。

 でもこれから鎧を受け取りに行って、それからになるけどね。



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