これは報われない恋だ。

朝陽天満

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388、宰相さんのパスじゃ入れません

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 門を通してもらって、貴族街を抜けて、王宮前の門に着く。そこでパスを見せて中に入れてもらった俺は、王宮の入り口には向かわないで横道に逸れた。

 王宮の中から向かう道じゃなくて、王宮に入らないで横の庭から行ける道を通って教会に向かった俺は、途中ですれ違う近衛騎士団に、会うたびに会釈をして進んだ。

 王宮横の庭はとても綺麗で、足元もしっかりと整備されている。

 近衛騎士も等間隔で見回っていて、なかなかに壮観だった。バラ園にも負けない花の咲き誇る庭で今度お茶でもしたいなあと思いながら教会前に着くと、そこには騎士さんが槍を持って立っていた。

 俺が入り口前に立つと、サッと槍を出される。



「こちらに何用ですか」



 おお、警戒されている。

 前よりも仰々しくなった警備に、俺は門でも見せたパスを取り出して見せた。



「これでここを通ることはできません。アドレラ教巡回の方でしたら、街の方にある教会で祈りを捧げてください」

「え、これで通れないんですか?」

「はい。こちらは王宮内の手形になりますので、教会とは無関係になります」

「そうだったんですか……」



 前はすんなり中までは入れたんだけどなあ。と俺は足を止めたまま目の前の建物を見上げた。

 そして一歩下がってユキヒラに『入れないのでクエストは受諾できません』とメッセージを送った。

 槍は下げられたものの、警備の騎士さんはこの場所を動かない俺を警戒しているのがわかる。

 面倒だから帰っちゃおうかな、でもニコロさんに会いたいなあ、なんて思っていたら、内側からドアが開いて、ユキヒラが出てきた。



「お疲れさん。あのさ、こいつはニコロ導師の弟子だから、通してやってよ」



 騎士さんにそう声を掛けたユキヒラは、突っ立ったままだった俺に、「来いよ」と手招きした。



「しかしユキヒラ殿」

「ニコロ導師がそう言ってるんだよ。嘘だと思うなら本人に訊いてみろよ」

「はぁ……そこまで言うなら」

「んじゃ、引き続きよろしくな」



 ユキヒラの後について騎士さんに頭を下げながらドアを潜る。

 礼拝堂を通り抜けて、奥の扉に向かって歩きながら、人気のないそのガランとした空間を見回す。



「なんか前より警備が厳しいね」

「ああ、一度ニコロ導師が襲われたからな」

「え?!」



 あっさりと教えてくれたユキヒラの言葉に、俺は思わず声を上げた。



「それ、ニコロさん大丈夫だったの?! 怪我とか」

「それは大丈夫。丁度俺もいたし、即捕まったぜ。前教皇の野郎の子飼いの奴だったんだけど、なんか気持ち悪いくらい心酔しててな。お前のせいで教皇猊下は貶められたんだとかなんとか。怖い怖い」

「魅了に掛かったままだったんだ……」

「信者の姿でここまで来て、袖口に隠し持ってたナイフでニコロ導師を刺そうとしてきたから取り敢えず転ばして気絶させて近衛騎士団に突き出しといた。そん時丁度聖魔法を習っててさ」

「よかった……」



 ホッと胸をなでおろして、ユキヒラがここにいたことに感謝した俺。ニコロさんが無事でよかった。

 教皇の間に行く間にすれ違う信者の人が、ユキヒラを見ると小さく頭を下げていく。

 ユキヒラはこの短い時間の間に王宮内だけじゃなくてこの教会内でも馴染んでいた。

 顔パス状態なのはわかってたけど、これだけ中枢にいるプレイヤーってのもすごいな、なんて改めて思う。



「なんか信者の人たちユキヒラも拝みそうな勢いだよね。作業してても足を止めてお辞儀してる」

「ああ、ニコロ導師を救ったのが俺、ってなっちまったからな。ただナイフ構えて突っ込んできた奴の足引っ掛けてそのまま肘鉄食らわせて気絶させただけなんだけど」



 一連の流れが目に浮かぶようです。

 スムーズだったんだろうなあ。



「それよりマック。お前のパス、もしかしてここじゃ通じないやつか?」

「ああ、うん。王宮内だけって入り口の騎士さんに言われた」

「やっぱりか……」



 天井を仰ぐユキヒラは、溜め息を吐くと、「後でニコロ導師にフリーパスにしてもらえよ」と呆れたような視線を俺に向けた。

 そういうのはこっちから頼むもんじゃない気がするけど。





 教皇の間に入ると、ニコロさんは教皇の椅子ではなくて、横の方にある机に向かっていた。何か書類が山積みになっている。

 そして、俺と目が合うと、クマのある顔に笑みを浮かべた。

 え、疲れ切ってない? 教皇ってそんなに大変な仕事だったんだ。



「マックさん、お元気そうですね」

「はい! でもニコロさんはすごく疲れてませんか?」

「これは私事でこうなっているので、お気遣いなく。せめて後世に聖魔法や聖典を残さないと教会が廃れてしまいますから」



 もしかして、ずっと聖典を復元しようとしてたのかな。

 それは、大変なんじゃないかな。手書きが必須だろうし。聖典がどんな内容でどれだけの長さなのかは知らないけど、ニコロさんがこれだけクマを作ってるってことは、一日二日で出来上がる量じゃないはず。

 俺はそっと机に近付いて、スタミナポーションを大量に差し入れした。大量すぎて断られたけど、無理やり押し付けた。あって困るものじゃないでしょ。それにほんとは寝るのが一番なんだよ。







 ニコロさんが立ちあがって隣の応接室に案内してくれたので、ユキヒラと共に移動する。

 信者の人がお茶を淹れて、そこで祈りを上げてくれたので、出てきたのは聖水茶。うわあ、浸透してる。しかも目の前で本場の祈りが聞けるなんて。なんか教会! って感じがする。

 いただきます、とお茶を口にしてから、俺はユキヒラクエストを消化するべくインベントリから聖魔法の本を取り出した。



「中はすべて古代魔道語なんですね……」

「うわあ……なんだこの魔法。知らねえのがわんさか出てくる」

「私もです。これは初めて知る聖魔法ですね。効果は……精神作用のある聖魔法、ですか……もしかして、禁呪……?」



 二人ともスラスラと古代魔道語を読めているのに少しだけ驚いた。ええと、古代魔道語必須でしたっけ。ニコロさんはわからないでもないけど、ユキヒラまで。

 二人とも頭をくっつけるくらい顔を寄せて、真剣に本を覗き込んでいた。

 一通りのページを見終えると、2人は溜め息を吐いて頭を上げた。



「これ、俺が知らねえのかなり入ってるんだけど」

「昔禁呪とされた魔法まで書かれています」



 険しい顔でそんなことを言い始める二人に、見せない方がよかったのかな、と少しだけ後悔する。



「しかもこの文字、この古さは多分、魔大陸がまだ魔大陸じゃなかったころに渡ってきた書物でしょう。これは貴重なものだと思います」

「え、そんなに古かったんですか?! 師匠はボロボロで捨てる予定だったから欲しいならやる、みたいな気楽な感じでくれたんですけど!」

「そのマックさんのいう師匠という方がとても気になりますね。こんな貴重な物を持っているなんて、しかも、捨てようとしていたなんて……」



 ニコロさんは眉間に指をあててもみほぐしていた。深い溜め息が、どれだけヨシューさんが非常識なことをしようとしていたのかが分かった気がした。

 ここでニコロさんに師匠とは獣人さんです、なんて言ったらどう思うんだろう。さらに頭痛とかし始めるのかな。優しそうな顔が台無しになっちゃう。ユキヒラならふうん、の一言で終わりそうだけど。



「マックさんは、聖魔法を使えるようになったのですか?」



 本を俺に差し出しながら、ニコロさんが無理に笑顔を作ってそう訊いてくる。

 禁呪がどうのと言いつつもちゃんと返してくれるんだなあ、なんて思いながら受け取って手元に置くと、俺はつられるように引きつった笑顔を返した。

 普通では聖魔法は使えないです。ハイ。



「俺は、この短剣を手に持ってる時だけ使えるんです」



 そう言ってルミエールダガールーチェをお披露目する。

 二本目の聖剣だよ。短剣だからユキヒラの持っている剣ほど聖剣っぽくはないけど。

 聖短剣を目にした二人は、感嘆の声を上げた。



「うっわすげぇ細かいディテール、めっちゃ手が込んでる。キッレイだなぁ……ってこの石、まさか」



 花のレリーフを指でなぞって、ユキヒラがため息を吐く。その中にペールゴールドの石が包み込まれてる意匠はそれだけで一つの芸術みたいだから。

 ユキヒラは剣をテーブルに置くと、徐に自分の聖剣を引き抜いた。もしかして自分の剣の石と見比べようとしてるのかな。

 ユキヒラが聖剣を短剣の横に置く。

 途端に聖剣同士が共鳴し始めた。

 鈴の音のような涼やかな音が、部屋に響く。

 えええ、聖剣ってこんなこともできるんだ。

 なんて驚いていると、アイテム欄にびっくりマークがついていた。え、アイテム欄にもそんなものが付くんだ。

 初めてのことに驚きながらアイテム欄を開くと、放置していた白の宝玉にびっくりマークがついていた。



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