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467、先見の者
しおりを挟む「だからせめて、この国が闇に閉ざされるまでは、私が王として民の命の責を負わねばと思った。あ奴は思慮の足りぬ愚息だが、せめて最後まで可愛がり、私の片腕となって動いて欲しいと思うのは最後の私の我が儘だ」
「ほう。未来に光は射していないと。それはどうしてそこまで確信しておられるのか、ぜひお聞かせ願いたい」
「闇しかなかったのだ。この眼で見たので、嘘偽りはない」
「え、王様も未来を見ることが出来るの!?」
王様の言葉に驚いて、俺は思わず声に出して言ってしまった。うわ、俺の声、今超響いたよ。
慌てて口を押えたけれど、もう遅い。
皆が俺に注目していた。
王様は俺を真っすぐに見ると、ゆっくりと首を横に振った。
「私の力ではない。先見の者の目を借りたことがあるのだ」
「先見の者……って」
王様は俺を見ていた。しっかり目が合ってるもん。
そして俺に話しかけて来たってことは、俺も話していいってことだよな、と勝手に納得して、口を開く。
「それっていつのことですか? 最近……じゃないですよね。暗闇のままの未来ってことは……6年以上前ってことかな。それ以降、その人の目を借りて未来を見た事あります? ちょっと王様情報が古いです」
だって、先見の者って、レガロさんでしょ。レガロさんはもう未来に光を見てるはずだから、王様の情報はかなり古いってことだよ。
だって、光が見えたの、アリッサさんが俺たちの世界に帰ってきてからだもん。ほんとに、数年前の話なんだよ。
「あ、もしかして」
王様は、未来が見えないからって自暴自棄になってるとか。まさかね。
「おいマック。何だその話は。詳しく聞かせて貰おうか」
考え込んでいると、勇者がドスを利かせた声で俺に話しかけて来た。
「詳しく……って言ってもちょっと難しいんですけど。俺が知ってるというか言える範囲でいいなら」
「構わない。どう転んでも、俺やこの盲目の呪いの掛かっている陛下よりは情報を持っていそうだからな」
「盲目の呪いって……期待に添えられるかはわからないんですけど」
勇者の軽口にちょっとだけ気が楽になると、とりあえずワンクッションを置いてから、俺は口を開いた。
「王様が言ってる未来が真っ暗っていうのは、6年前までの話で、今はちゃんと未来に光が射してるって、その先見の者と思われる人が言ってました。希望が見えたって。とある一人の女性が自分の世界に帰ったことで、暗闇に光が射し込んだって」
「6年前……ってADO発売と同じくらいだな」
雄太が呟いてニヤリと笑ったので、その顔に応えるように頷いておく。
「どうしてそんなことを知り得たんだ?」
「それは、俺が『諧調を司る者』だからだそうです。ってそんな大層なものじゃないと思いたいんですが、その先見の者が進んで巻き込まれてくれまして」
「うわ、胃腸薬師ってどんだけ凄かったんだよ……」
雄太雄太、その呟きバッチリ皆に聞こえてるからね。インカムからユキヒラの『胃腸薬師……?』という呟きも聞こえてくるし。胃腸じゃないから。諧調だから。
あの時はレガロさん、何て言ってたんだっけ。確かクエストでは、『時の傍観者』から『時の輔翼ほよく者』に変わるって書かれていたような。輔翼ってたしか補佐するとか助ける人って意味だったよな。ってことは、もうレガロさんはそっと見守ってる立場じゃなくなったってことか。傍観者の時から何かと手伝ってはくれてたけど。ってことは……。本人の了承があれば、巻き込まれてくれるかもしれないんだよな。
「本人に了承が得られたら、ここに来て貰えば一発で王様の間違いを正すことが出来るんじゃないですか? って、来てくれるかはわからないけど」
「まて、薬師よ。おぬしは先見の者を知っておるのか?」
「え、王様知らないんですか?」
目を借りて未来まで見せてもらったんなら、結構親しいのかと思ったけど。違ったのかな。
首を捻ると、全員が何とも言えない目で俺を見ていた。
どうしてそんな目で俺を見るんだよ。雄太たちだって知ってる人だよ。
王様は半眼で俺を見下ろした後、間を置いてから「先見の者に会えるのは、よほど運がいい時か、運命が動くときのみと伝承で伝えられている……」と答えた。その王様の答えに、思わず空笑いを漏らしてしまった。さすがレガロさん。徹底して傍観者してたんだなあ。関わりたくないって言ってるように聞こえる。
「まだ解散しないんなら、ここに来れるか聞いて来てもいいですか? 本人が嫌がったら連れてこれないですけど」
「……できることなら、頼む」
王様は、疲れ切ったような顔をして、ゆっくりと俺に頭を下げた。王様ってそんなに簡単に頭を下げてもいいのかな。
「じゃあとりあえず、クワットロに行ってくるね」
俺は皆にそう言い置くと、早速魔法陣を描いて、レガロさんの店の前に跳んだ。
ドアベルを鳴らすと、すぐにレガロさんが店のドアを開けてくれた。いつ見ても趣のある店構えで、目に入るだけでワクワクするのは、レガロさんがそれを狙ってるからなんだろうな。
「お待ちしておりました、マック君」
「待ってたんですか? じゃあもしかして、俺がどこから跳んできたのかも分かってますか?」
「もちろん。そして今日はヴィデロ君と行動を共にしていないということもわかっております」
「え!? あ、もしかして、トレの門でヴィデロさんを見かけました……? 俺、今日は顔を見てなくて。依頼の時間が迫ってたからって」
いいなあ、と心の中で思うと、レガロさんはくすくすと笑った。
「違いますよ。つい先ほど、ヴィデロ君がここに来まして。今度あなたと婚姻の儀を受けに行くのに、何か心に刻める物はないかと相談を受けたんですよ」
「ほんとに!? うわあ、ちょ、なに、ヴィデロさん一人で何してんの……! 一緒に来て一緒に探したいのにそういうのは! えと、何か買って行ったんですか?」
「はい。ですが買った物は秘密です。楽しみが減ってしまうでしょう?」
「じゃあ、じゃあ、俺も、何か一つヴィデロさんを守れるような物をください……! 俺もプレゼントしたいので。ほんとにいつもヴィデロさんには貰ってばっかりで、全然スマートに出来ないんです」
「『蘇生薬』を大量に貰って、マジックバッグにして貰ってしまったとヴィデロ君はおっしゃっておりましたよ」
「そんなの、いつでも作れるのでいつでも渡せます。もっとランクが上がったらまた大量にカバンに投入する予定なので、プレゼントでも何でもないです。でも、あの、何か記念になるような、ヴィデロさんが肌身離さず持っていても全然苦にならないような、それでいてちゃんとその身を守ってくれるような……ってこんな大事な話は片手間にしちゃダメだった。レガロさんに聞きたいこととお願いがあって」
ヴィデロさんの話になると我を忘れるよ。
本来の目的を思い出した俺は、今すぐにヴィデロさんのプレゼント探しを始めようとする脳みそを無理やり宥めて、レガロさんに向きなおった。レガロさんはすごく楽しそうな顔で俺を見ていた。
「聞きたいことと、お願いとは」
「レガロさんって、『先見の者』として、王様にあったことはありますか? ええと6年前以前に」
「ありますよ」
俺の質問に、レガロさんはなんてことないようにそう答えた。
「じゃあ、王様にその目を貸したことは?」
「この眼を簡単に貸すことは出来ません」
ス……とレガロさんの目が細くなる。
なんとなく、雰囲気がワンランク低くなったというか、さっきのくすくす笑いがかき消されて、店の温度が少し下がった、という感覚が身体を襲う。
「しかし、あまりにも傲慢に夢を語る為政者がおりましたので、当時私が抱えていた未来の闇と絶望をその目に見せたことはあります。ちょっとした腹いせですね。何せ私に『専属の先見になれ』と言い、断ると不敬だとへそを曲げたので。あろうことか、私の力で国民のためになるのはとても名誉なことだろうと報酬もなく私を使おうと・・・・しましたので。私はそれほど尻の軽い者ではないのですよ。もちろん、王が魅力的な報酬を目の前に差しだせば、王のためにこの目を使うこともやぶさかではありませんでしたが。それに正直な話、その為政者はそこまで魅力的な人族ではなかったし、どちらかというとエルフの血の濃かった私が人族の掟に縛られる義理はありませんでしたしね」
「……それは」
使う、って。一番やっちゃダメなやつだよ。エッジラックと一緒だよ。でも、王様として長くこの国を統治していたから、そうなってもおかしくはないのかな。昔は賢王って呼ばれてたくらいだし、ええと、何年かわからないけど、魔王の脅威にさらされながらも国をまとめて来てたっていう自負も実績もあるだろうし。
「人族は、少しでも権力の欲に負けると、途端に魅力を失ってしまいます。私達にはそれがどうしても理解できない。あなたが最近仲良くなり始めた獣人たちも、エルフたちも、立場があがるとその責任も比例して大きくなるということをしっかりと心で理解しています。しかし人族だけは欲に負け、理解していたはずの心をその場に置いて進んでしまいます。マック君は幸い、自身の立ち位置に全く欲を持っていないようですね。もし、あなたがとある欲に負けたら、一瞬で描いていた未来は消えてなくなりますので、これからもそのまままっすぐ進んでくださいね」
作り笑いのような顔でにっこりされて、俺はビシッと固まった。
とある欲って。
俺、ごく一部の欲に負けっぱなしだよ。ってことは、このままだと未来が消えてなくなる……?
俺は青くなって、レガロさんに内心を告白した。
「俺、欲まみれなんですけど……! だって、ヴィデロさんを前にして欲を持たないなんて、ほんと無理……! レガロさん、どうしたら、俺、ヴィデロさんを前に欲を抑えて理性的でいることが出来ますか……! ちゃんと言い値で情報報酬を支払わせてもらうので、この欲求を抑える薬のレシピください……! でも抑えられても、ヴィデロさんから求められたらきっと俺、断れない!」
顔を覆って苦悩していると、レガロさんの方から、イケメン執事にあるまじき吹き出し音が聞こえた。顔を覆っていて見えなかったけど、今のもしかして、レガロさん……?
ちらりとレガロさんを見ると、レガロさんは俺から顔を背けて、口元を手で覆って、肩を震わせていた。
「ま、待ってください、マック君……そう来るとは、流石の私も思いませんでした……っ」
こほん、と咳ばらいをしたレガロさんは、ようやく笑いを引っ込めてから、「失礼いたしました」と優雅に頭を下げた。いいえ、失礼なんかされてないです。
「大丈夫ですよ。マック君は、そのままヴィデロ君をずっと愛していて下さい。もちろん、そういう欲はしっかりとヴィデロ君と共に発散し、さらに愛を深めるとより素晴らしい関係になれると思います」
「そうですか……! 安心しました。よかったああ」
心底ほっとした俺にまたも肩を震わせたレガロさんは、「それで」と口を開いた。
「お願いというのは」
「王様に今の光が射した未来のことを見せてとまでは言わないけれど、教えてあげることは出来ませんか」
「それはまた、どうして」
「だって王様、未来が闇に包まれてるって頑なに信じてるから。なんかちょっと雰囲気ヤバいんです」
「雰囲気がヤバい、とは」
「なんていうか」
俺はさっき王様になんとなく感じたことを、そのまま口に乗せた。
「国を巻き込んで消極的自殺をしようとしてるみたいな。どうせ死ぬんだから死ぬまではまあ何とか俺がご飯を出すから適当に食いつなごうか、みたいな感じに見えるような。ああ、なんかちょっと違う? ええと、もうすぐここには住めなくなるんだから追い出されるまでは適当に最善を尽くそうとか……よくわからないたとえですよねすいません」
「いえ、なんとなくはわかりますから大丈夫です。つまりあれですね。あの為政者は責任を持って国を滅ぼしたいと」
「いやいやいや、そんなことは言ってないですけど!」
「では言い直しましょう。せっかく4人の若者の命で助かると思った自分の国が、それだけじゃ救えなかったからもういらない、と」
「だんだん酷くなってる!? ってかニュアンスが」
「ですが、その様に感じたのでしょう、マック君は」
いい笑顔で王様をこき下ろすレガロさんに、俺は真顔で口を閉じた。
確かに、あの遠くを見る目が、民のためとかなんとか言いながら全然最善を尽くしてないあの行動が、そんな風に感じたのは事実だった。
「では、私を王宮に連れて行ってくださいますか、マック君。報酬は、先ほどの情報と交換ということで」
サッと白い手袋をはめた手を差し出してきたので、俺はレガロさんをばっと見上げた。
「違います。俺が王宮に来てくれって頼みに来たので、情報の報酬に上乗せでお願いします!」
「違いますよ。私が、王宮に、行きたいのです。マック君はまだ「王宮に出向いてくれ」とは口に出して言ってはおりませんから」
「レガロさん……」
「とりあえず、報酬はあの為政者からふんだくりましょう」
ニヤリと笑ったレガロさんのらしくない言葉に思わず口元を緩めながら、俺はレガロさんの手を取って、魔法陣を描いた。
‐・‐・‐・‐
インカム=on
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⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
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