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連載
504、師匠の釣り体験
しおりを挟むさすがにギルドから転移するのは目立つからと、俺はヨシューさんを伴って工房に帰ってきた。
工房の中を好奇心いっぱいの目できょろきょろするヨシューさんは見てて和む。
「なあなあ、ここマックの家か?」
「俺とヴィデロさんの家です」
「ここで釣りができるのか?」
いやいや、出来ないから。どれだけ釣りしたかったんですか。
今もヨシューさんは手にエミリさんにもらった中級釣り竿を持っている。
振り回しそうな勢いなので、とりあえず「引っかかって壊れたら俺直せないですよ」と注意すると、慌ててそっと持ち直したヨシューさんに苦笑する。
「あそこから釣り場に跳ぶと目立つのでこっちからと思って」
「そっか! 昨日ケインとヒイロが行った場所がいいなあ。なんかすっごく釣れたとか自慢されちまって。自慢する割に魚くれねえんだよ。けち臭いよなあ。自分で釣って来いよとかいうから来たんだ」
やっぱりそうなるのか。
なんていうか、ヒイロさんとヨシューさんって聞けば聞くほど俺と雄太的な関係っぽい気がする。仲良しだね。
「じゃあ、2人が昨日行った場所に行きますか」
「場所知ってんのか……?」
驚いた顔でこっちを見てくるヨシューさんに頷く。コースト村の釣り場ってのは掲示板でわかってるから。
すると、ヨシューさんがはー、と感心した様な声をあげた。
「流石だな。なんでもわかるんだなマック」
「何でもは全然わからないですけど。ある意味あの二人は注目されてますから。俺たち異邦人に」
「そうなのか。注目されてんのか。あのヒイロが」
ふーん、とか何気ない風を装いながら、なんかすごく羨まし気なのは気のせいかな。しかも「あの」っていう言葉に滅茶苦茶深い意味が込められてそう。
でも大丈夫。きっとヨシューさんの方が一気に注目株になったから。世の中猫好きは多いんだよ。
「じゃあ行きますか」
手を差し出すと、ヨシューさんは素直にちょこんと手を乗せてきた。可愛い。
魔法陣でコースト村まで跳んで、丁度見かけた村長さんにご挨拶をする。
村長さんは俺のことを覚えていてくれたらしく、笑顔で歓迎してくれた。
丁度村の人たちが釣り場まで荷馬車を出すらしいので、乗せてもらうことにした俺たち。
長閑な道をガタゴトと走る。
「俺荷馬車に乗るの初めてだ」
「そう言えば獣人の村には荷馬車ないですね」
「だいたいムキムキズたちが持って運んじまうから、そういうもんは使わねえんだ。しかも森から森にすぐ移動できるしな」
「なるほど」
身体的理由でいらないらしい。確かにね。
ヨシューさんはウキウキしながら「あいつらに荷馬車に乗ったんだって自慢してやろう」とか言ってるけど、手で口を押えてししししと笑うヨシューさんはいつも以上に楽しそうで、つられるように楽しくなってくる。
手にはずっと釣り竿を握りしめているし。どれだけ楽しみなんだよ。
少しの間揺られて、着いたところは、湖だった。
ヨシューさんの「うわああああああ」という声がこだまする。
途端に、釣りに興じていたプレイヤーたちが一斉にヨシューさんを振り返った。
そんな注目を全く意に介さないヨシューさんが、早速湖のほとりに走り寄っていく。
「ほらほらマック! どうやって釣りするのか教えてくれよ! これ飛ばせばいいのか? なあなあ」
手を振るヨシューさんに近付いていくと、近くにいたプレイヤーが「なんだ初めてか」と飛ばし方をレクチャーしてくれた。あ、あの手さばきはリアル釣り人だ。
それを真似て糸を飛ばしてみるけれど、飛距離が全然違い、ヨシューさんが「釣りって難しいなあ」と首をかしげている。
「まずは持ち方からだな。このリールがくっついているところ握るだろ。そうすると巻き取りするときにすごく安定するんだ。それで針と糸。いいのついてるな。ルアーがあると重さで楽なんだが、こっちでは何もつけなくても釣れるから仕方ねえ。投げ入れる時は、アンダーで。見てろよ、こんな感じで」
プレイヤーが丁寧に湖面に糸を垂らすところを見せてくれる。俺も一緒になって説明を聞き入ってしまった。
やってみろよ、の声でヨシューさんが勢いよく糸を振る。その糸が振り子のように後ろに跳んできて。
「マック釣った」
針が俺の服に引っかかり、ぐいっと前に引っ張られた。
お約束である。
「薬師マックを釣ったのか。大漁だな」
「俺は弟子を釣る趣味はねえよ。魚を釣りてえんだ」
プレイヤーの冗談にヨシューさんが真顔で返したことで、周りが笑いに包まれた。
気を取り直したヨシューさんは、今度こそ教えられた通りに湖面に糸を垂らすことに成功した。
そして15秒後。
「まだ釣れねえの?」
「堪え性ねえのかよ! さすが猫だな!」
教えてくれたプレイヤーさんに突っ込まれて、ヨシューさんが「悪いかよ」と返す。
俺もヨシューさんの横で釣り糸を垂らして、待ちの態勢に入った。
だってこの釣り竿、小さい魚ってほとんどかからないんだもん。大物専用みたいな感じになってるから、他の人よりも待ち時間が長いんだよ。
石を使って地面に突き立て、ぼーっと座りながらレシピを覗いていると、隣からヨシューさんの「なんかぐいってした!」という声が聞こえてきた。
「よし、そのままゆっくりリールを回せ! 焦るなよ。糸が切れたら終わりだからな」
「わかった! どれくらい回せばいいんだ?」
「魚の動きに合わせて緩急つけろ。引きが弱くなったらリールを回せ!」
「今か!」
「まだだ!」
コントかよ! という周りからの突っ込みも何のその、ヨシューさんは初ヒットの魚と必死で戦っていた。
「デカいな。もう少しだ頑張れ」
「わかった。お、竿のしなりがなくなった。今だな!」
ヨシューさんは必死で糸を巻き、近付いてくる魚に集中している。尻尾がピーンと立ってるのが可愛い。
ザバァッ! という盛大な水音と共に、とうとうヨシューさんは魚を初ゲットすることに成功した。
他の人が釣ってる魚より大分大きなそれは、ヨシューさんの腰付近まである魚だった。前にヴィデロさんが釣った魚と同じくらいの大きさだ。
「おめでとう。記念にスクショ撮らせてくれないか?」
「すくしょ? 何だそりゃ。記念になるなら全然いいぞ。すっげええええ! よし、マック! 暇そうだからこれ料理してくれ!」
「師匠、俺まだ釣り最中なんですけど」
「だって全然釣れねえだろ?」
「うぐ……」
痛いところを突いてくる。これは魔魚が釣れるか全然釣れないか、その境界線なんだ。前もそうだったから。だから、だから、あとで超大物釣ってやるんだから!
さらに5分ほど粘っても竿はうんともすんとも言わないので、諦めて魚を捌くことにした俺。鮮度大事。
ヨシューさんは気を良くしたのか、鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気でまた湖面に向かった。
手には、自分の釣り竿と俺の釣り竿を持っている。二刀流でやってやるんだそうだ。だから俺は安心して魚を捌いていいんだそうだ。え、なんか違う気がするんだけど。
デカい魚を前にすると、さっきヨシューさんに釣りを教えてくれた人が近付いてきた。
「俺捌こうか? 慣れてるからすぐできるぜ」
「ほんとですか? 小さいのなら捌けるんですけど、ここまで大きいのってやったことなくて」
「任せろ」
いい笑顔で腕まくりをしたプレイヤーは、生粋の釣り人だった。もしかしてこの人、レベル上げそっちのけで釣り三昧になったりして。
慣れた手つきで大物を捌いていくその姿は、まるで板前のようだった。カッコいい。
すぐに三枚におろされたデカい魚は、綺麗にブロックに切り取られて、目の前に積み上げられて行く。
ここからは俺の出番かな。と調理器具を取り出していく。
「師匠、焼くのと煮るのと生とどれがいいですか?」
「美味いやつ」
「全部美味いです」
「じゃあ全部」
油で揚げるのもうまそうだな、と赤身の刺身のような魚の身を見ながら、下ごしらえを開始する。ちゃんと調味料はインベントリにまとめて持ち歩くのがポイント。
塩を塗り込んで小麦粉を周りにまぶして、油で炒める。いい音といい香りが辺りに充満していく。
魚をさばいてくれた人も、目を輝かせてこっちを見ていた。
できていく料理を次々皿に並べて行く間に、ヨシューさんはもう一匹中くらいの魚を釣っていた。
さすがにメートル超えの魚を全て料理すると、山のような魚料理が出来上がる。今の魚はマグロみたいな味で、やっぱりどれも美味しかった。フルーツソース添えもまたヨシューさんに好評で、皿まで舐めそうな勢いだった。
ついでに周りの人たちが魚を提供してくれたので、大魚料理祭り状態になっていた。あっちこっちで釣った魚の調理がなされていて、好きな物を好きなように食べる、みたいな流れになった。ヨシューさんの「流石に俺こんなに食えねえから食いたい奴食っていいよ」っていう掛け声と共にだったけど。皆歓声をあげて寄って来たもんなあ。串刺しにして塩を振って焼いた魚をほおばるヨシューさんを、皆そっとスクショしていたみたいだった。目を細めて幸せそうにモグモグしてたヨシューさんはすごく和む。
ちなみに、この間俺の釣り竿はうんともすんとも言わなかったのは言うまでもない。
腹ごしらえをしたらまた釣りするぞ、と意気込んだヨシューさんと共に釣り竿の所に戻ると、皆もぞろぞろと持ち場に戻っていった。
欠伸をしながら釣り竿を握り、横目でレシピを覗いていると、手元の竿がピクッと反応した。
急いで竿を握り直し、腰を据える。
しかし、その後の反応がない。
「あれ、今掛かったような気がしたのに」
「気のせいじゃねえか?」
ヨシューさんの言葉にそうなのかな、なんてまた気を抜こうして、ふと思い立ったように感知を使ってみる。
この間の釣りの時のようなゾクッという感覚が背中を駆け上がった。
うわこれ、もしかして、来た?
ドキドキしながら深呼吸して、足を踏ん張り易くするため立ち上がった瞬間、ぐいっと思いっきり強い力で引っ張られた。
「うわわわ! 力つよ! 師匠! きました!」
つんのめりそうになりながら必死で耐えていると、ヨシューさんが俺の横に立って竿に手を掛けた。
そして、「どっせーい!」と気合を入れて引っ張る。すると、いきなり湖面が跳ねて、前よりもちょっと小さめで赤い身体の魔魚が釣れた。師匠見かけによらず力持ち! さすが獣人。
周りからどよめきが聞こえて来ることも構わずに、俺は長光さん作の刀を手に魔魚と対峙した。
赤黒く光っている鱗が何とも気味悪く、焦点のあっていないような黒い目がちょっと怖い。
ヨシューさんも楽しそうに目を光らせて、爪を出している。やる気満々だ。でも師匠、師匠は聖魔導士でしょ。前衛じゃないよね。すっごい構えて爪を光らせてるけど。聖魔導士(物理)なの?
フーッとか威嚇してるのがとても可愛いです。
ということで、俺と師匠の対魔魚戦が始まった。
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⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
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