496 / 744
連載
579、師匠助けて
しおりを挟む門番さんたちが固まっている。
それはそうだよね。新しい教皇が目の前にいるんだから。
今まさに時の人で、一番尊い人なんだから。ニコロさんはそれを自覚してるのかな。
「マックさんがここにいると聞いて、私でも力になれるかと、来てしまいました。幸いにも、『完璧治癒』は習得済みですし」
フットワーク軽いなニコロさん。
「ありがたいですけど、忙しいんじゃないんですか?」
「私が日々追われていることは、後日に回しても差し支えない物ばかりです。それよりも、病で苦しむ方を助けるほうが大事だと、私は思います」
「ニコロさん……」
「なあなあマック。こっちのやつも聖魔導士か? 俺はマックの聖魔法の師匠のヨシューだ」
「マックさんのお師匠様ですか。私はニコロと申します。もしかして、あの本の持ち主の方では? 私も見せていただいてしまいました。とても参考になりました。ですが、元の持ち主であるあなたの許可を得ずに見てしまったこと、もしご立腹でしたら、咎は私が受けますので、どうかマックさんを叱ることは勘弁してください」
「いや、あの本はもう覚えたしいらねえ奴だったから、誰が見てもいいんだけど。それにしてもあんた、滅茶苦茶心の性質がいいな。いい聖職者だろ」
「とんでもない。私なんかまだまだです」
「取り敢えず、長話はあとでってことにしといて、この親子を何とかするか」
「そうですね」
和やかに話をしていたヨシューさんとニコロさんは、微笑み合うとフランさんたちの方に向き直った。
「至高の神よ、その気高き御心の輝きで、病める者たちを完璧に癒し給え」
「最上にして最高の神よ、その気高き聖なる御心の輝きで、ここに苦しむ者たちに最高の癒しを与え給え」
二人が口々に詠唱する。
そして、まるで合わせたかのように、声をそろえた。
「完璧治癒」
唱えた瞬間、部屋中に優しい光が満ちて、俺たちを包み込んでいく。
さすが師匠ズ。二人だけじゃなくて、絶対にこの部屋の人全員を回復させたよ。
しばらくの間その光は部屋の中に満ちていて、心なしか温かい物に包み込まれたような気持ちを味わう。
ちゃんと病は治っているのか、とレディアちゃんを鑑定眼で見てみると、しっかりと健康体になっていた。あああ、よかったああああ。
ついつい大声で「よかったあああ治ったあああ」と叫ぶと、ロイさん夫婦や周りの人たちも一様に安堵の表情になった。
皆でロイさんたちを祝福していると、バタン、と奥のドアが開く音がした。
「ニコロ殿……いえ、猊下……」
視線をドアに向けると、奥からここの団長のソルブさんが顔を出したらしく、食堂にいる人物に驚いていた。
ソルブさんは、にっこりと微笑み頭を下げるニコロさんに、慌てて最敬礼をすると、まだ光の漂っている部屋の中を進んできた。
「奥の部屋が光に染まったので、何事かと思って出てきてみれば……」
ソルブさんはニコロさんからヨシューさんヒイロさんケインさんに視線を移し、ロイさん親子を見下ろしてから、ヴィデロさんと俺に視線を向けた。
ようやく光が落ち着いて来ると、今度は外からのドアも開いて、外に立っていた門番さんが顔を出した。
「なあ! ここいら一帯なんか光に包まれたんだけど、ヤバくねえか!? 猊下がいるのに!」
焦ったような門番さんの言葉に、皆がうわあ、という顔をする。
どれだけ凄い効果の魔法を使ったんだ。効果範囲ってどれくらいなんだろう。
ドキドキしながら二人を見ると、2人とも門番さんの言葉に驚いたような顔をしていた。
「なああんた、範囲指定したか?」
「いいえ、私の魔法の効果範囲はせいぜい部屋一つ分くらいのはずですが」
「俺もなんだけど。ここいら一帯って……聖水茶が犯人か?」
「ありえますね。最近はお茶をたしなむ場合、聖水茶じゃないと飲んだ気がしないほど贅沢になってしまいまして」
二人は視線をこっちに向けた。
え、俺のせい?
俺のせいなの? 今の魔法のヤバいくらいの効果範囲。
二人に視線を向けられてたじたじになっていた俺に、ソルブさんも更なる視線を向けた。
「こちらの方たちは? タタンとガレンの知り合いか? それに、猊下も。説明してもらってもよろしいか?」
どうして俺に訊くんですか、とちょっと問いたくなったけど、俺は聖職者二人の視線から逃げるように目を逸らして口を開いた。
「こちらが俺の薬師の師匠、ヒイロさん。そして、こちらが俺の聖魔法の師匠ヨシューさんです。今日は、ロイさんのレディアちゃんが『コウマ病』を発症していたので、治せる人を連れてきました。ニコロさ……猊下も、その話を聞いて駆けつけてくれまして」
「はい。私でも力になれると思い、跳んできてしまいました。マックさんのとても優秀なお師匠様方がいらっしゃっていたのでどうやら余計なことだったようですが、この幼い子の命を助けられたこと、とても誇りに思います」
「ロイの子が……この様子では全快したのか……『コウマ病』が」
話を聞いたソルブさんは、呆然とレディアちゃんを見下ろした。
ご機嫌になったレディアちゃんは、ロイさんを見上げては可愛い声を上げている。そして手を伸ばしてロイさんの顎に触れては笑っている。
ロイさんはそんなレディアちゃんをじっと見下ろして固まっていた。
「なあマック……ほんとにレディアは、病が消えたのか……?」
「もう健康体だよ。よかった。ほんとよかった」
「ほんとか……? 再発とか、したり」
「しないよ。俺、根源を消しに行ってくるから」
「頼んでいいか……? また、フランとレディアが『コウマ病』になんかかかったら、俺、生きて行けねえ気がする」
「任せといて」
ホントはちゃんとできるかちょっと不安だったけど、俺は胸を張ってそう答えた。
ロイさんは顔を上げて、俺と目が合うと、くしゃっと顔を歪めた。
そして、腕の中のレディアちゃんの柔らかそうなお腹に顔を埋めた。
「マックの師匠たち、猊下……恩に着ます」
くぐもった震える声で、ロイさんが呟く。
それを見たヨシューさんたちは、いいってことよ、と笑った。
あとで教えてもらったんだけど、2人が唱えた魔法の範囲は、門に近い表通りにある防具屋さん付近まで届いていたらしい。
どんだけ範囲広いんだよ。と思わず突っ込みたくなった俺。
でも二人ともほんとはそこまでの範囲を癒すことは出来ないらしい。
ヨシューさんが首を傾げてその後もう一度同じ魔法を唱えてたけど、今度は食堂内だけだった。ドアを隔てると光はとおらないような状態だった。っていうかそんな簡単にバンバン唱えていい魔法なのかな。ありがたみというものがなくなりそうだよ。ありがたいけど。
今の魔法で魔力が枯渇しそうになっていたニコロさんは、ヒイロさんお手製のマジックハイパーポーションを貰って、回復していた。
今家に帰るのはよくない、ということで、ソルブさんは奥の空き部屋をロイさん一家に貸すことにして、すぐにトレ街居住区に非常事態宣言を出していた。
「潜在的にまだ初期段階のやつとかいそうだよなあ」
「でもデカいのだったら薬でも何とかなんだろ。あんた、ニコロだっけ。偉い人なんだよな。あんたの権限でもし病気のやつが出てきたらこれ飲ましてやってくれ」
ヒイロさんは、自分のカバンから大量にシックポーションを取り出した。ランクが一番高いやつ。
ドン、とそれをテーブルの上に置いて「使ってくれ」なんて言われても、多分全員困ってるよ師匠。
せめて対価を言ってくれないと。
『【NEW】病の根源を消し去れ
北東に病を振りまくものが現れた
そのものを消し去り、脅威をなくせ
掃討率:0%
クリア報酬:???
クエスト失敗:病の根源を消し去ることが出来なかった トレ、ウノ居住区減少隔離 魔の力上昇』
2,369
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。