これは報われない恋だ。

朝陽天満

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579、師匠助けて

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 門番さんたちが固まっている。

 それはそうだよね。新しい教皇が目の前にいるんだから。

 今まさに時の人で、一番尊い人なんだから。ニコロさんはそれを自覚してるのかな。



「マックさんがここにいると聞いて、私でも力になれるかと、来てしまいました。幸いにも、『完璧治癒パーフェクトヒーリング』は習得済みですし」



 フットワーク軽いなニコロさん。



「ありがたいですけど、忙しいんじゃないんですか?」

「私が日々追われていることは、後日に回しても差し支えない物ばかりです。それよりも、病で苦しむ方を助けるほうが大事だと、私は思います」

「ニコロさん……」

「なあなあマック。こっちのやつも聖魔導士か? 俺はマックの聖魔法の師匠のヨシューだ」

「マックさんのお師匠様ですか。私はニコロと申します。もしかして、あの本の持ち主の方では? 私も見せていただいてしまいました。とても参考になりました。ですが、元の持ち主であるあなたの許可を得ずに見てしまったこと、もしご立腹でしたら、咎は私が受けますので、どうかマックさんを叱ることは勘弁してください」

「いや、あの本はもう覚えたしいらねえ奴だったから、誰が見てもいいんだけど。それにしてもあんた、滅茶苦茶心の性質がいいな。いい聖職者だろ」

「とんでもない。私なんかまだまだです」

「取り敢えず、長話はあとでってことにしといて、この親子を何とかするか」

「そうですね」



 和やかに話をしていたヨシューさんとニコロさんは、微笑み合うとフランさんたちの方に向き直った。



「至高の神よ、その気高き御心の輝きで、病める者たちを完璧に癒し給え」

「最上にして最高の神よ、その気高き聖なる御心の輝きで、ここに苦しむ者たちに最高の癒しを与え給え」



 二人が口々に詠唱する。

 そして、まるで合わせたかのように、声をそろえた。



完璧治癒パーフェクトヒーリング



 唱えた瞬間、部屋中に優しい光が満ちて、俺たちを包み込んでいく。

 さすが師匠ズ。二人だけじゃなくて、絶対にこの部屋の人全員を回復させたよ。

 しばらくの間その光は部屋の中に満ちていて、心なしか温かい物に包み込まれたような気持ちを味わう。

 ちゃんと病は治っているのか、とレディアちゃんを鑑定眼で見てみると、しっかりと健康体になっていた。あああ、よかったああああ。

 ついつい大声で「よかったあああ治ったあああ」と叫ぶと、ロイさん夫婦や周りの人たちも一様に安堵の表情になった。

 皆でロイさんたちを祝福していると、バタン、と奥のドアが開く音がした。



「ニコロ殿……いえ、猊下……」



 視線をドアに向けると、奥からここの団長のソルブさんが顔を出したらしく、食堂にいる人物に驚いていた。

 ソルブさんは、にっこりと微笑み頭を下げるニコロさんに、慌てて最敬礼をすると、まだ光の漂っている部屋の中を進んできた。



「奥の部屋が光に染まったので、何事かと思って出てきてみれば……」



 ソルブさんはニコロさんからヨシューさんヒイロさんケインさんに視線を移し、ロイさん親子を見下ろしてから、ヴィデロさんと俺に視線を向けた。

 ようやく光が落ち着いて来ると、今度は外からのドアも開いて、外に立っていた門番さんが顔を出した。



「なあ! ここいら一帯なんか光に包まれたんだけど、ヤバくねえか!? 猊下がいるのに!」



 焦ったような門番さんの言葉に、皆がうわあ、という顔をする。

 どれだけ凄い効果の魔法を使ったんだ。効果範囲ってどれくらいなんだろう。

 ドキドキしながら二人を見ると、2人とも門番さんの言葉に驚いたような顔をしていた。



「なああんた、範囲指定したか?」

「いいえ、私の魔法の効果範囲はせいぜい部屋一つ分くらいのはずですが」

「俺もなんだけど。ここいら一帯って……聖水茶が犯人か?」

「ありえますね。最近はお茶をたしなむ場合、聖水茶じゃないと飲んだ気がしないほど贅沢になってしまいまして」



 二人は視線をこっちに向けた。

 え、俺のせい?

 俺のせいなの? 今の魔法のヤバいくらいの効果範囲。

 二人に視線を向けられてたじたじになっていた俺に、ソルブさんも更なる視線を向けた。



「こちらの方たちは? タタンとガレンの知り合いか? それに、猊下も。説明してもらってもよろしいか?」



 どうして俺に訊くんですか、とちょっと問いたくなったけど、俺は聖職者二人の視線から逃げるように目を逸らして口を開いた。



「こちらが俺の薬師の師匠、ヒイロさん。そして、こちらが俺の聖魔法の師匠ヨシューさんです。今日は、ロイさんのレディアちゃんが『コウマ病』を発症していたので、治せる人を連れてきました。ニコロさ……猊下も、その話を聞いて駆けつけてくれまして」

「はい。私でも力になれると思い、跳んできてしまいました。マックさんのとても優秀なお師匠様方がいらっしゃっていたのでどうやら余計なことだったようですが、この幼い子の命を助けられたこと、とても誇りに思います」

「ロイの子が……この様子では全快したのか……『コウマ病』が」



 話を聞いたソルブさんは、呆然とレディアちゃんを見下ろした。

 ご機嫌になったレディアちゃんは、ロイさんを見上げては可愛い声を上げている。そして手を伸ばしてロイさんの顎に触れては笑っている。

 ロイさんはそんなレディアちゃんをじっと見下ろして固まっていた。



「なあマック……ほんとにレディアは、病が消えたのか……?」

「もう健康体だよ。よかった。ほんとよかった」

「ほんとか……? 再発とか、したり」

「しないよ。俺、根源を消しに行ってくるから」

「頼んでいいか……? また、フランとレディアが『コウマ病』になんかかかったら、俺、生きて行けねえ気がする」

「任せといて」



 ホントはちゃんとできるかちょっと不安だったけど、俺は胸を張ってそう答えた。

 ロイさんは顔を上げて、俺と目が合うと、くしゃっと顔を歪めた。

 そして、腕の中のレディアちゃんの柔らかそうなお腹に顔を埋めた。



「マックの師匠たち、猊下……恩に着ます」



 くぐもった震える声で、ロイさんが呟く。

 それを見たヨシューさんたちは、いいってことよ、と笑った。







 あとで教えてもらったんだけど、2人が唱えた魔法の範囲は、門に近い表通りにある防具屋さん付近まで届いていたらしい。

 どんだけ範囲広いんだよ。と思わず突っ込みたくなった俺。

 でも二人ともほんとはそこまでの範囲を癒すことは出来ないらしい。

 ヨシューさんが首を傾げてその後もう一度同じ魔法を唱えてたけど、今度は食堂内だけだった。ドアを隔てると光はとおらないような状態だった。っていうかそんな簡単にバンバン唱えていい魔法なのかな。ありがたみというものがなくなりそうだよ。ありがたいけど。

 今の魔法で魔力が枯渇しそうになっていたニコロさんは、ヒイロさんお手製のマジックハイパーポーションを貰って、回復していた。

 今家に帰るのはよくない、ということで、ソルブさんは奥の空き部屋をロイさん一家に貸すことにして、すぐにトレ街居住区に非常事態宣言を出していた。



「潜在的にまだ初期段階のやつとかいそうだよなあ」

「でもデカいのだったら薬でも何とかなんだろ。あんた、ニコロだっけ。偉い人なんだよな。あんたの権限でもし病気のやつが出てきたらこれ飲ましてやってくれ」



 ヒイロさんは、自分のカバンから大量にシックポーションを取り出した。ランクが一番高いやつ。

 ドン、とそれをテーブルの上に置いて「使ってくれ」なんて言われても、多分全員困ってるよ師匠。

 せめて対価を言ってくれないと。



『【NEW】病の根源を消し去れ



 北東に病を振りまくものが現れた

 そのものを消し去り、脅威をなくせ



 掃討率:0%



 クリア報酬:???

 クエスト失敗:病の根源を消し去ることが出来なかった トレ、ウノ居住区減少隔離 魔の力上昇』

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