これは報われない恋だ。

朝陽天満

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591、クラスメイト的ADO人口

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「魔大陸、行ってきた」



 そう雄太から聞いたのは、自由登校が始まって最初の、週一の登校日。

 特に授業があるわけではなく、基本補習。まだ進路が決まっていなくて、真剣に頑張っている人は、実は今教室にはいない。特別教室で特別授業を受けていたりする。

 最後の詰めらしい。頑張れ。

 マフラーをカバンに詰め込みながら、俺は雄太に期待の視線を向けた。

 隣には増田も座っている。

 申し訳程度のプリントを配られて、俺らほんとに何しに来たの状態で教室に座らされているけれど、監視の担任もいない今、増田が果敢にも教室を抜けて来ていた。

 ちなみに俺は未だ貰った錬金レシピの素材を揃えられていない。どこで手に入るのかすらわからない。『浄玉石』って何だ。鉱石かそれとも魔物のドロップ品か。そこからすでにわからない。辺境から定期的に送られて来る謎素材の中にも入っていない。今度鉱石がある場所にでも行ってみようかなとか考えていたりする。長光さんなら場所知ってるかな。



「おい高橋、魔大陸ってなんだよ」

「魔大陸なんて、どうやって行くんだよ。俺も行きたいからって船探してるんだけど、船自体が見つからねえんだよな。俺、あの世界で海に出て、『大航海時代!』とかやってみてえのに」

「もしや辺境にいる海賊っぽいアバターはお前か」

「バレたか。高橋はまんまだから、いつでも笑いながら見てるぜ。今度会ったらフレ登録しねえ?」

「する」



 ADOの話をしていると、わらわらと皆が話しに加わってくる。

 でも、これだけこのクラスにADO人口がありながら、俺がマックだと指摘されたことはないし、教えてもいない。まあ、地味キャラだしね。そして、増田が海里だということも、実はバレていないらしい。ってか、本人から聞かない限りバレないか。海里の時は、本当に中の人が女性っぽいもん。



「増田もやってるんだろ。ジョブ何?」

「ジョブは魔法剣士ヘクスブレードだよ。結構レベルは高い方だと思う」



 増田の答えにフッと笑いそうになって口を押える。嘘は言ってないけど、肝心なことも言ってないよね。魔法剣士なんて結構いそうだし。



「俺は槍騎兵キャバリエランサーやってる。砂漠都市の衛兵の馬が可愛くてついつい可愛がってたら上位職に就けてさー。自分の馬を買って馬に乗りながら色々してる」

「俺は今クエスト中。これをクリアしたら上位職らしいからかなり気合入ってる」



 ただ黙って聞きながら、皆頑張ってるんだなあと口元を緩めた。でも誰が誰なのか、見当もつかないけど。



「健吾もやってるんだろ。今どこにいるんだ」

「俺、トレだけど」

「なんだ。まだトレかよ。ってことはパーソナルレベル30くらい?」



 俺がちんたらやってるんだと思ったらしいクラスメイトの言葉に、雄太がブフッと吹き出す。汚い。



「もう少し上かな」

「職業なんだよ」

「一応、薬師……?」

「ああ、お前も『薬師マック』に憧れた口か」



 バン、と雄太が机に突っ伏した。肩が揺れてる。はい、それ、俺本人です、とは言えない。っていうかこの状況で言いたくない。身バレノーセンキュー。



「薬師マックかあ。あのプレイヤーみたいにバンバンランク高いポーション作りてえって言って剣士から薬師にジョブチェンジしたやつ知ってるよ俺。結構そういうのいるんじゃねえ? 副業を薬師にしてみたりとか」

「ああ。俺のフレも一人調薬キット買ってる奴いた。自分で作ると節約になるじゃんって。でも不味くて飲むの辛いから傷に掛けるだけしか使ってねえみてえ。飲むのは別に買って飲んでるって」

「薬師マックのポーション、俺も飲んだけどうまいもんあれ」

「な。でも最近は他で買うポーションも大分味良くなってきたよな。っていうか街ごとにポーション類の味が違うとか、こだわりすぎだろ。俺的にはセィ城下街のポーションが桃ジュースみたいで好きだな」

「俺はやっぱ薬師マック作が好きだ。あれ、エナジードリンクみたいでガツンとくるんだよ」



 皆が薬師マックの話題で盛り上がり始め、俺はいたたまれず口を閉ざした。

 雄太は机で撃沈し、増田はニヤニヤしている。クソ。二人ともこの状況を楽しんでるな。

 すぐに次の話題に入るかと思いきや、思いのほか『薬師マック』は浸透していて、なかなか話題が移らない。そろそろ席移動しようかな、なんて思っていたら、教室のドアがガラッと開いた。



「お前ら、プリント終わったかー。集めるぞー。でもって解散。雪降って来てるから気を付けて帰れよー」



 そう言って、救いの神担任が入ってきた。

 皆がわらわらと解散していく。

 そしてカバンを背負ってプリント提出するために教壇の方に向かっていく中、担任が「あんまりゲームしすぎるなよー」とおざなりに注意していた。

 ってか結局魔大陸の事、ほぼ聞けないで終わったよ。



「あー……やべえ楽しすぎて学校好き」



 突っ伏してプルプルしていた雄太が顔を上げてそんなことを呟いた。





 詳しい魔大陸の話を聞くために帰り道にファーストフード店に拉致られることになった俺。っていうかそこでユイとブレイブと待ち合わせをしているらしい。ほんと仲いいね君たち。俺お邪魔虫。

 三人で雪がちらつく中ファーストフード店に向かうと、店の前で私服姿の二人が立っていた。

 フワっとしたピンクのコートを着てモコモコとマフラーに埋もれたユイは、俺がみても庇護欲をそそる幼さでちょっとびっくりした。あれ、同じ歳だよね。あれ。

 その感想はちょっとだけ口から洩れていたらしい。雄太が呆れたような視線を俺に向けて一言。



「健吾も全く同じ状態だということを知れ」

「二人並んじゃったらどこの中学生かなってちょっと思うよね」



 悪気ない笑顔でそんなことを言う増田に体当たりをかました俺は、ユイの開口一番の一言で撃沈した。



「なんか健吾君って二人のお兄ちゃんにかまわれる弟って感じだね」



 待って。皆同じ歳でしょ。っていうかユイ。君が言うか。特大ブーメランが返ってきたよ痛い。

 そしてブレイブからの圧が凄い。



「健吾君はあれかな。私に挑戦しようとしてるのかな?」

「挑戦なんてそんなごめんなさい。増田に体当たりしてごめんなさい」

「俺は全然気にしないよー。なんか小さい子がじゃれてるなって気分だったし」



 なんていうか、何気一番酷いよね増田。さすが海里。容赦ねえ。お邪魔虫のはずが、皆に弄られて俺は即死だよ。



「健吾君、大丈夫だよ。男の子は二十歳過ぎまで身長伸びるってよく言うでしょ」

「ユイ……止めといてやれ。健吾の身長、一年で1センチしか伸びてねえんだ……」

「あ……ええと、あの、1センチも伸びるの凄いね。私、147センチで止まっちゃったもん。健吾君は160超えてるでしょ。ちょっと羨ましいかな」



 一生懸命フォローしてくれるユイの身長は150未満だったらしい。道理でブレイブと並んでも理想の恋人的身長差のはずだ。

 女の子は小さくても可愛いから全然オッケーだと思う。でも、男の子は可愛いって言われるのがあんまり名誉じゃない気がする。

 かっこいいって言われたいお年頃なんだよ。





 4人に弄られつつファーストフード店に入る。

 ゲームでは万年金欠の雄太君は、しっかりとユイに奢ってあげていた。さすがに現実には鎧と大剣ないからね。

 増田もブレイブに奢ってあげていて、俺もヴィデロさんに奢ってあげたいな、なんてちょっと思った。ログインしたら沢山奢ろう。食べ物でも鎧でも何でも。でもヴィデロさん何も欲しいって言わないんだよなあ。



 席に着いて人心地つくと、ようやく魔大陸の話題になった。



「転移魔法陣周辺の村何個かは、村に魔物が入れなくなってた。ヴィルさんが言った通りだったから、そこの教会を休憩場所にして周りを探索してみたけど、魔物が強いのと人がいないのと、歩いててHPが減ってくのとMPの回復が異常なくらい速いの以外はこっちとあんまり変わりねえよ。道もあるし。素材とかあったけど、なんか採る気にならないくらい黒いからあんまり持ってきてねえ」

「私はちょっと持ってきたよ。でもね、触ると穢れるからって、前に健吾君にたくさんもらった聖水大分使っちゃった。まだインベントリに入ってるけど、いる?」

「いる。っていうか、村全体を浄化したら村全体が休める場所になるのかな」

「なるんじゃねえか? 今度一緒に行くか?」

「行ってみたい。けど、鉱石類が手に入る場所にも行ってみたい。どこかわからないんだ」

「鉱石類だったら、あの中央山脈の近くで結構出る場所あるって話だよ。でも俺たちもあんまり鉱石は集めてないからなあ」

「魔大陸の岩場にもありそうだよな。山道とか普通にあるし」

「だね。ただし穢れてるけど」

「魔物素材自体は健吾君特製聖水で綺麗になるんだけど。面白い物が沢山出て来たし、謎素材も結構出てきたから、そのままギルドに納品してきたよ」

「ありがとう」



 そんな感じで和やかに情報交換は終わり、俺もエルフの里での出来事を教えて、解散となった。

 ユイは雄太の家に遊びに行って、増田はブレイブの家に行くんだそうだ。お家デート楽しんでくれ。



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