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連載
645、ヴィデロさんの贈り物
しおりを挟むとうとう魔大陸進出が実装された。
って言っても俺は皆とは一緒に行かなかったけど。
雄太たちはちゃっかり皆と一緒に「わー魔大陸だー」と騒いでいたらしい。白々しくてとても良い。
魔大陸だけに実装する物は、ホーリーハイポーション、ハイパーポーション、そして、蘇生薬ランクC。
蘇生薬の出元は俺と、前のリルの実撲滅運動で活躍した草花薬師プレイヤー二人。その人たちとはほぼ面識がないんだけど、ヒイロさんに師事して何とかCまでなら作れるようになったとか。ハイパーポーションは大分作れる人が増えたらしい。皆、ヒイロさんの所で覚えたんだって。ゲームフェスタ以降、ヒイロさんの所には行き詰った薬師がフラフラと現れるんだとか。俺の弟弟子がいっぱい? 輪廻以外ほぼ薬師と面識ないけど。俺あれだけ苦労してパーセンテージ伸ばしたのになあ。でもあれがなかったらこんな風にヒイロさんに教えてもらうこともなかったかもしれないし、こんな風にこの国中を歩くこともなかったかもしれないから、結果オーライなのかな? サラさんを助けられるかもしれないランクの蘇生薬も一つだけ成功したし。あのクエスト、まだクリアになってないからね。
そして今、トレのクラッシュの店では、エミリさんの部下の一人が店番をしている。
クラッシュはとうとう魔大陸に出張したらしい。その部下の人が言うには、エミリさんも行ってみているらしい。あの親子ほんとアグレッシブすぎだろ。あの村にいるだけなら、魔素にやられることもないだろうから大丈夫だとは思うけど。今度からクラッシュの顔を見る度に『ヴァイスブロフ』かけまくろうそうしよう。
いつも通りにハイポーションを買い取って貰った俺は、部下さんからそんな事情を聞いて店を出た。クラッシュの店に他の人が立っているのが違和感しかなかったけど、仕方ないんだろうなあ。
工房に帰って来ると、ヴィデロさんが剣の手入れをしていた。お父さんの形見の剣は、今日も綺麗に輝いている。
「クラッシュ、すでに魔大陸に行っちゃってるんだって。そのうち様子見て来るね」
「そうか……きっと、魔大陸でぼったくってるんだろうな……」
ヴィデロさんは、盛大な溜め息と共にそんなことを呟いた。
なんでも、数日前に騎士団の使いでクラッシュの店に行ったとき、クラッシュが値札を作ってるのを見てしまったんだとか。
そこには、『魔大陸限定アイテム ハイパーポーション 一人限定10個まで 5000ガル』とか書いてあったらしい。ヴィデロさんに見られて、クラッシュはいい笑顔でサムズアップしたらしい。出張してもしっかり稼いでくるよ、って。呆れてものが言えなかったとはヴィデロさん談。わかる。きっと俺もその札見たら同じ気持ちになる。
今度値段も含めてしっかりと確認しに行かないと。
「マックはこれから何か予定あるのか?」
ヴィデロさんが手入れを終えた剣を鞘にしまって腰に装備してから、俺に訊いてきた。
今日は納品したらあとは手が空くから、錬金とか調薬とかしたりスイーツを作ったりしようかなと思ってたんだけど。
「特にないよ」
「じゃあ、クワットロの呪術屋に行かないか? とあるやつに贈る物を探したくて」
まさかの買い物デートのお誘いでした。もちろん否やはないよ。誰に何を贈りたいのかはちょっと気になるけど。
手を繋いで魔法陣で呪術屋の前まで行くと、ヴィデロさんがノックした。
すると、すぐに扉が開いて、「どうぞ」とレガロさんが迎え入れてくれた。
「身を守れるような物を探していたんだ」
「でしたら」
すぐさまヴィデロさんの言葉に答えたレガロさんは、すぐに商品の中から小さな物一つを手にした。
「これなんかはいかがでしょう。この魔石の中には一度だけ自身の周りに守りの魔法を張り巡らせることが出来る魔法が入っているアミュレットです。見た目も可愛らしくていいと思いますよ」
差し出してきたのは、シンプルな銀の板に小さな魔石が埋め込まれたキーホルダーみたいな物だった。どこに引っ掛けてもいいらしく、例えばボタンとかポケットとか胸元とか他のアクセサリーと共に、とか。でも身に着けないと守りは発動しないからおすすめは他の首周りのアクセサリーに一緒に下げることなんだってさ。一番胸元に近いからとか。魔石の色は白だった。真っ白で、大理石を削ったような感じだった。光属性の魔法だから白なんだって。
「じゃあそれを」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げたレガロさんは、失礼します、と一度奥に入って行ってしまった。
待っている間にヴィデロさんと二人で店の中を見て回る。
ふと、俺の視界ギリギリの高さの棚に置いてあるものに気付いた。
手を伸ばしてそれに触れてみると、思ったよりも冷たくなかった。
向こうが透けそうなくらい透明なガラスの欠片みたいな物だったんだけど、まるで氷に見えて、冷たい想像をしちゃったんだ。
形は水晶みたいな六角柱。ガラス……? ではない気がする。
透かして見ると、ヴィデロさんがしっかりと見えた。
「それは純度の高いクリスタルです。そこまでの物はなかなか手に入らないんですよ。素材として、というより、クリスタルは魔素とも魔法とも相性が良いので、アクセサリとして加工する場合がほとんどです。そのクリスタルの場合は中に癒しの魔力が閉じ込められているので、身に着けているだけで少しずつ体力が回復します」
「あ、加工お願いします。ヴィデロさんが身に着けていても邪魔にならない、ヴィデロさんに最高に似合うスタイルでお願いします」
「ふふ、はい、そのスタイルで承りました。ですがこの大きさですと、もう一つくらいなら十分作れますよ。どうですか、おそろいは」
「ぜひ」
キリッと頷くと、レガロさんだけじゃなくてなぜかヴィデロさんも笑いを堪えていた。え、俺笑うようなことを言ってないよね。
おそろいのアクセサリーは後日出来上がるということなので、後日また二人で来る約束をした。
笑いを収めたレガロさんは、手にしていたヴィデロさんの注文品をヴィデロさんに渡した。
チラリと見ると、空いてたスペースになんか文字が彫ってある。
「これは、なんと?」
古代魔道語だったせいか、ヴィデロさんは読めなかったらしい。
でも、俺には読むことが出来た。
そこには『我が友の安泰を願う』と書かれていた。
レガロさんは、目を細めてヴィデロさんを見た。
「これには特別な呪文が刻まれています。大丈夫お渡しする方はこれが読めますから」
ね、とレガロさんは俺に向かってウインクした。
我が友、の所で、これをヴィデロさんが贈りたい人がわかってしまった。さすがのレガロさんは、最初からヴィデロさんが誰に贈りたい物かわかっていたらしい。でも焼きもちなんて妬けない。
だって、これを渡したい相手は、すでにかなり危険な場所に乗り込んで行ってしまってるから。
ヴィデロさんがお礼を言って、それをカバンにしまう。
その横顔から見える笑顔が、なんだか寂しそうに見えた。
その日の夜、工房に来客があった。
「何、用事って。俺からの用事ならよくあるけど、ヴィデロからなんて珍しいね」
笑顔でクラッシュが入ってくると、ヴィデロさんはチラリとこっちを見た。そして、フッと破顔してから、クラッシュに椅子を勧めていた。
「たまにはここで飲むのもいいだろ?」
「そうだね。でもヴィデロ、前は居候状態だからここに人を呼ぶのは躊躇ってたのに、ちゃんと自分の家になってるんだね。この際だから、もっとしっかり増築したら?」
いそいそと椅子に座りながら、クラッシュがニヤニヤとヴィデロさんをからかう。ヴィデロさんはこれで事足りるから問題ないって返しているけど、でもどうせならヴィデロさんの私的スペースはもっと取りたいよね。居候とか思わないくらい、ヴィデロさんの居場所を作りたい。そのためなら増築もいいな。ヴィデロさんが欲しい家具をそろえるのもいいよね。そして、毎日違う部屋でくつろぐとかも楽しそう。鎧置き場も作りたいなあ。
そんなことを考えていたら、ヴィデロさんは昼に買ったアミュレットが入った袋を無造作にほい、とクラッシュに渡していた。
「それ、新店のお祝いってことでもらってくれるか」
「え? ホントにいいの? マック妬かない?」
「妬かないよ。一緒に買いに行ったんだもん。でも、それはヴィデロさん一人からの贈り物だからね」
驚いた顔をしたクラッシュは、俺とヴィデロさんを交互に見て、そして、ふふ、と嬉しそうに笑った。
「開けてみていい?」
「ああ」
ヴィデロさんのそっけない返事に、クラッシュが早速アミュレットを取り出す。
その表面の文字を見て、目を見開いた。
何かを言おうとして口を開きかけ、そして閉じて、目を細める。
クラッシュはそれを大事そうに腰の剣帯に装着すると、ヴィデロさんが用意していた酒に手を伸ばした。
そして、一口飲んでから、照れ隠しの様に口を開いた。
「とりあえずデザインが気に入ったからつけとこうかな」
でもクラッシュ、さっきの手つき、絶対とりあえずなんて扱いじゃなかったよ。大事そうだったよ。
ヴィデロさんも何やら照れているらしく、2人ともしばらくはぶっきらぼうな口調で言葉少なに飲んでいた。なんていうか、見てるこっちが恥ずかしくなるんだけど。
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