これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
564 / 744
連載

647、飲み直し

しおりを挟む

「フレンド登録してくれないか」



 さっき現状を教えてくれた人が、俺に声を掛けてきた。

 もちろん否やはない。

 フレンド登録が終わると、その人、レインさんは俺の手を取って「本当にありがとう。大事な仲間をなくしてしまうところだった」と涙目になった。



「高橋も、ありがとう。お前が機転を利かせてくれたおかげで助かった」

「いや、そんなのは当たり前だろ。俺はただマックを呼んだだけだから礼には及ばないよ」

「でも、それがなかったら……後で礼は必ずする」

「辻ヒールみたいなものだから気にしないでください」



 ああいうときは助け合いだよね、と雄太と顔を合わせて頷くと、レインさんは顔をくしゃっとした。

 そこへ、ヴィデロさんが声を掛けた。真剣な顔で。



「あの人の気持ちを、たくさん考えてくれ。出来れば、双方納得のいく形でこれから進んでいくことを、俺は願っている」

「あんた……」



 ヴィデロさんの握りしめられた拳に、レインさんは顔を引き締めて頷いた。

 難しいんだろうなあ、と思う。俺も胸が痛い。俺たちの場合は、俺が押し切ってヴィデロさんが渋々納得したような形で終わっちゃってるから余計に。だからと言って行くなって言われても俺は魔大陸に行くだろうし、行かなきゃいけないし、でもヴィデロさんは絶対に行けないし。難しい。



「ま、魔大陸なんて今は日帰りの場所だからさ。さっさと指名依頼をこなして帰って来るってのもアリだぜ」



 重くなった雰囲気を和らげるかの様に、雄太がことさら軽くそんなことを言う。

 そこにユイも便乗してきた。



「そうだね。だって魔法陣で移動だもんね。一瞬だよ。魔物10匹倒せとかだったら一時間くらいで帰って来れるし」



 さすがに魔大陸に行ったやつらの意見は違う、と周りから雄太たちに称賛の声が飛ぶ。魔大陸一瞬説すげえなんて声まで聞こえてきて、なんだか雰囲気が和らいだ気がした。ムードメーカーってこういうやつらのことを言うんだよなあ。

 それにしてもユイ、魔大陸の魔物10匹を1時間……いやいや、ユイなら20分くらいで行ける気がする。瞬殺してたし。あっちの大陸は魔法を使う人にとってかなりブーストかかるし。

 ヴィデロさんも肩の力が抜けたのか、フッと笑顔を見せた。

 そうだよ。魔大陸は日帰りなんだよ。まだ本格的に魔王を退治って話になってないからね。一人で挑んでいくような人は今の所いないし、拠点になる村も一つしかないから。……そのうち増やす計画とか立ててたりして。





 トレに帰って来ると、家に帰る予定だったクラッシュは変更してまたしてもヴィデロさんと飲み始めた。

 俺がつまみを用意していると、「それにしても」とクラッシュがため息とともに零した。



「実際この世界は壊れかけてるわけじゃん。それをさ、ここで生きてる俺たちじゃなくて、異邦人たちの方が何とかするっていうのは、なんか悔しいよね。ほんとは母さんたちが止めたはずだったのに」

「……そうだな。何も出来ないのはすごく、悔しい」

「俺の母さんも、ヴィデロの母さんもさ、色々やってるのに、俺、あっちで異邦人の手助けすることしかできないのかなあ」

「クラッシュは自分の手で魔王を倒したいのか?」

「そうかもしれない。セイジさんの手助けをして、サラさんを助け出したいし、母さんとアルさんのサポートをしたい。結果、皆が同じように助かるってことは、魔王をブッ倒すってことじゃん。異邦人だけで魔王を倒しちゃうのはなんか、俺、何も出来てないみたいでさ」



 無言でクラッシュの言葉を聞いていると、ヴィデロさんがクラッシュにデコピンをした。結構思いっきりいったらしく、クラッシュが「いたっ!」と涙目になっていた。



「出来てるだろ。最終的には魔王をブッ倒せばいいだけじゃないか。手助けでも全然違う。お前は頑張ってるよ」

「ヴィデロ……」



 おでこをさすりながら、クラッシュが感極まったようにヴィデロさんの名前を呼んだ。



「何より、マックを守ってやるって、言ってくれただろ。あれだけで、少なくとも俺は救われた。本当は俺がマックを最後まで守りたいから」

「……頑張るよ。マックが暴走しないように頑張る。ヴィデロの分もマックを支えるよ。ほんとは、ほんとはね……これを言ったら、ダメなのは知ってるけど」



 クラッシュは躊躇う様に言葉を止めて、ヴィデロさんをちらりと見た。



「ここだけの話にしておけばいいさ」



 くすっと笑ったヴィデロさんに背中を押されたのか、クラッシュは視線をグラスに落として、ぽつりと呟いた。



「ヴィデロが横で一緒にマックを守りながら魔王を倒すのが、俺の理想……ヴィデロ、誰より強いじゃん。アルさんに認められるくらいに強いじゃん。だから、たとえ他の人がいても、ヴィデロがいないのはちょっとだけ不安、かも」



 消え入る様な声を出したクラッシュは、でもその次の瞬間にはパッと顔を上げてニッと笑った。



「でもその代わりヴィルがいるから寂しくはないかな。同じ顔だし」

「顔だけな。あいつの方が……知識は豊富だから、上手く皆を誘導していけると思う。でも」

「うん……?」

「俺は」



 ヴィデロさんはその後の言葉を止めた。そしてグラスの中の酒を一気飲みして、もう一杯自らグラスに酒を並々と注いだ。

 それも一気に飲む。そして、空になったグラスを見つめるようにして、「……から」と、隣に座っていても聞こえないくらいの声で何かを呟いた。兎耳フードのローブを着てたら聞こえてたのかな。



 次の日、昨日フレンド登録したレインさんからチャットが届いていた。

 その内容は。



『昨日はありがとう。君がいてくれなかったら俺たちは大切な仲間を一人失うところだった。
いつでも一緒に壁の向こうで魔物狩りをしてレベル上げをしていたせいか、軽く考えてた。浅はかだったよ。
そんな中の門番さんの言葉が、とても心に響いた。そして、昨日の助言、とても助かった。
皆でパーティーを組んだ頃の様にギルドの修練所で手合わせをしたけれど、あれがなかったらどこかを破壊していたかもしれないと、あいつが言っていた。
門番さんの実感がこもった言葉に、君たちも同じ道を通って来たんだということがわかった。
本当は明かしちゃいけないんだろうが、俺たちの緊急依頼の内容は、魔大陸に行って魔大陸の薬草を規定数納品しろという、魔物退治とはまた違った依頼だったんだ。
主力が向こうに行けないからという考慮かもしれない。
昨日の夜、手合わせの後話し合った内容は、あいつを治してくれた君にだけは教えたいと思う。
一緒に獣人の村までは行って、そこであいつは獣人たち相手に修行をすることになった。
俺たちだけが強くなるのはずるい、と笑っていたけれど、本心は全然違うと思う。
あいつはきっと、門番さんと同じくらい重い気持ちを呑み込んでそう言ってくれたんだと思うと、依頼を無下にすることもできないから、さっさと行ってさっさと薬草を納品することにしたよ。
ここまで決心できたのは、君と門番さんのお陰だ。

ありがとう』



 こんなことを昨日フレンドになったばっかりの俺に報告していいのかな、なんて思いながらも、文字を追っていて鼻がツンとした。

 相手のために諦めるとか、離れるとか、そういう選択もあったのに。でも俺が選べなかったみたいに、あの人たちにもそれを選ぶことはできなかったんだろうな、とこのチャットを読んでいてよくわかった。

 仕事に行く用意をしているヴィデロさんをちらりと見ながら、ちょっと鼻をすする。

 すると、ヴィデロさんが振り返って、怪訝な顔をしながら近寄って来た。



「どうしたんだ。何かあったのか?」



 俺の身体をギュッとしながら心配そうに聞いてくるヴィデロさんに首を振って見せる。

 ついでにヴィデロさんの身体に腕を回して堪能してから、残っていた文に目を向けた。



『最上級のお礼がどういうのがいいか高橋に助言を貰ったので、壁の向こうで狩った魔物の素材を感謝の気持ちを込めて贈るから、あとでギルドから受け取ってくれると嬉しい。門番さんにもよろしく頼む』



 最後の一文にフッと顔が綻んで、俺は笑顔でヴィデロさんを見上げた。



「昨日のあのレインさんからお礼メッセージが届いててさ。ヴィデロさんのお陰で落ち着いたって。よろしくって言ってたよ」

「そうか、落ち着いたのか。よかった……さすがに、マックがしてくれた発散方法を教えるわけにはいかなかったけどな」

「あの時はヴィデロさんがいつもよりワイルドで滅茶苦茶かっこよかったよ」

「言うなよ……自分で律せなくてちょっと後悔したんだから」



 照れたような顔をしたヴィデロさんに、俺はぐりぐりと頭をくっつけた。





しおりを挟む
感想 537

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。