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703、前線ジョークついてけません
しおりを挟む「あー、やっぱいきなりは難しいか」
そんな声が聞こえてきて、俺たちは一斉に後ろを振り返った。
大きめの瓦礫の奥から、セイジさんがちらりと顔を出す。
そして近付いてきたと思ったら、そこからさらにサラさんとエミリさんと勇者が出てきた。
「俺たちが触れるのはまずいとは聞いていたが、本当にヤバそうだなこれは」
覗き込むようにさっきのプレートを見下ろす勇者は、何かを感じるのか、顔を顰めた。
「ブレイブ、どこに道が見える?」
「このプレートを挟んだ先……地面の方に伸びてる感じです」
「聞いたか、ユイ。魔法陣の転移場所の所に、『任意の開けた空間』『次元の先』の単語を組み込め。そうすれば、普段は行けない空間に潜れるようになる。そこからどの方向にどう伸びているかを見定めて、その先に行けるように転移魔法陣を完成させる。『超える』『跨ぐ』等の文字を入れ忘れるなよ。帰りも『次元の先』を忘れなければそこまで難しいことじゃない」
「はい。やってみます」
二人の返事に満足したのか、セイジさんはニヤリと笑った。
そして、俺たちを見回して、頷いた。
「俺らの後始末をまかせっきりで放置も後味悪くってよ。来てみた甲斐があったな」
あ、でもアルは絶対に触るなよ、とけん制された勇者の顔は、非常に険しかった。
「言われなくてもこんな物に触れようとも思わない。でもな、これにとてつもない嫌悪を示しているモノがあってな、さっきから煩いんだ」
そう言うと、勇者の手には『覇王の剣』と『覇王の盾』が現れた。あ、結局対で勇者が持つことになったのか。
『覇王の剣』は現れた瞬間から何かと共鳴するかのように金属音を鳴らしていて、それが不思議と心地いい気がした。金属音のはずなのに耳障りがいいというかなんというか。
ビリビリと震えながら勇者の手の中で暴れようとする剣に反応したのは、俺たちの他にもあった。
さっきまでは瓦礫にくっついた単なる紋章みたいな物だったそれが、金属音を聞いた瞬間淡い光を放ち始めたんだ。
「極上の餌に食いついたわね」
にこやかにそう言ったのはサラさん。
そういえば餌をぶら下げるとか言ってたもんね。餌って……うん。勇者を餌とか、人としての次元が違うよ。そしてそれを聞いて吹き出すセイジさんとエミリさんもきっと俺より一段も二段も上の次元で生息する人たちだよ。俺には恐れ多くてそんなこと出来ない。って、雄太たちも腹を抱えて笑ってる。そして勇者に拳骨を貰ってる。手加減されてないみたいで、雄太のHPは拳骨ひとつで約3分の1くらい減っていた。いまだに勇者は最強なのか。
じっと見ていると、じわじわと紋章から黒い塊が溢れてきて、周りの瓦礫を巻き込み始めた。
瓦礫が何かを形作っていく。長光さんがそれを見て目を輝かせた。
「すげえ、ゴーレム作ってやがる」
その呟きに目を輝かせたのは、雄太とドレインさん。
一気にテンションが上がったみたいだった。何でゴーレムでテンション上がるんだよ。
「大剣でブッ叩いたらばらばらにならねえかな!」
「っていうかどうやって瓦礫をゴーレムに出来るんだろ! あの黒いの魔素だよね! だったらそういう魔法もあるかもしれないってことだろ! ヤバい覚えたい!」
「ったくこいつらは……」
呆れた様に苦笑した月都さんは、剣を構えつつ、後ろの方にいる勇者に視線を向けた。
「アルさんは……戦っちゃダメなんだよな……」
ガードしようとする動きに、勇者は剣を構えたまま、「いや」とこともなげに答えた。
「別に戦うことは出来る。ただ、あの似非女神に触れなければいいだけの話だ。何が女神だ。女神というのはジャスミンの様な女のことを言うんだ。そんなどす黒い腹で女神を騙るな! 俺のジャスミンが穢れる!」
「うわあ勇者なんかヤバい発言してるよ。嫁至上発言聞くと和むー」
雄太のツッコミの方がだいぶヤバいと思うんだけど、と思いつつ俺の前にサッと身を挟むヴィデロさんを見上げる。
いつの間にか黒い鎧を着ているヴィデロさんはそれはそれはかっこよくて。インベントリから装備する方法で鎧を身に着けたらしい。これで羽根なんか生えた日には、天使かな? って錯覚する。好き。そういえばまだ背中を確認してなかった。工房に帰ったら見せてもらおうそうしよう。
「なかに入るやつらは……ブレイブとユイは外せねえから、『高橋と愉快な仲間たち』、それとユキヒラ。長光はゴーレム攻略に付き合え。俺らはここで、アルさんガードな。マックとヴィデロさんは……」
目の前の背中に見入っていたら、月都さんが的確な指示を出してきた。
俺たちはシークレットダンジョン的なところに行って、クエストを消化するらしい。そして、ガンツさんたち『白金の獅子』は外で『欠片の暴走阻止』をするんだって。
月都さんの言葉に、ヴィデロさんは首を少しだけ捻った。
「俺は中だな。『魔王の核となる物を確保』しないといけないらしいから」
「了解。じゃあ、マックも中な。聖魔法期待してるぜ。外はドレインに任せとけ」
「え、俺限定指名!?」
「頑張ってドレイン」
「待って! ユーリナ何俺一人に対ゴーレム戦させようとしてるんだよ!」
「だってゴーレム大好きなんでしょ。戦えるの嬉しいでしょ」
「嬉しくないよ! ゴーレムとか、魔法効きにくいじゃん!」
「そこを何とかしてこそ最高の魔法使いじゃん。ユイみたいに。この子魔法耐性強い魔物も一人で殲滅するんだから」
うん。ユイ怖い。素直に怖い。笑顔の裏側が怖い。そして笑顔でドレインさんの背中を押すユーリナさんも怖い。俺が怖がってる横で、雄太たちはそのやり取りに声を上げて笑ってる。ツワモノどもよ……もっと笑える冗談を言ってくれ。
「お、ドレイン。一人でやるのか。それは楽しみだな」
それに乗るようにして、勇者がニヤリと笑う。俺にはそれが本気の笑いに見えた。
やっぱり俺には前線は向いてないよ。このノリはついていけないから。
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