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連載
705、『神の御使いの取り扱い』
しおりを挟むサクサクと進んだ先にあったのは、あの紋章と同じ女神が描かれた豪華な扉。
見ただけでボス部屋だってわかる。
周りにいた魔物は倒した後なので今の所周囲に気配はなかったからと、俺はひたすら聖魔法で皆を強化した。ついでに魔法陣魔法もふんだんに使う。
でもやっぱりいまいち補正効いてないんだよなあ。
一応ホーリーハイポーションも重ね飲みしてるけど、いつもなら結構な補正が付くはずのステータスは辛うじて1上がったくらい。
「補助魔法はない物と思った方がいいわね」
「魔素が濃いから攻撃魔法は効果上がるのにね」
腕を組んで溜息をつく海里と、首を傾げるユイに、俺も同意する。
「ここのダンジョンは、聖魔法が効果半減って感じだな。流石は神の欠片ってところか」
ユキヒラも険しい表情で唸る。
「一応、曲がりなりにも『神』と名のつくものだからな。聖魔法はむしろ自身の属性なんだろ。やりにくいったらねえぜ」
「そういうもんなのか、ユキヒラ」
「ああ。教会の聖典ではそんな感じのことが載ってた。だから、たとえ魔神だろうと『神』とつくモノに聖属性は相性が悪いんだと。ここにいるのが堕天系の神でもそれは当て嵌まる。だから、聖魔法も聖属性系アイテムも効きが悪いんだ」
「なるほど」
ユキヒラの説明に、皆が納得する。ずっとそれを検証しながらここまで来たらしい。途中から聖魔法使わなくなったのはそのせいか。
「『神の御使いの欠片』かあ。どんなもんが現れるんだか」
「どっちにしろ壊せばいいんだろ」
気合いを入れる二人の言葉を聞いて、俺は慌ててストップをかけた。
「壊しちゃダメ! ……だったはず」
俺のクエストには「力を削げ」しか書かれてなかったけれど、ヴィデロさんのクエストはあるべき容に直せだったんじゃなかったっけ。ってことは、壊すのは最悪最終手段だよね。
雄太たちのクエストにも、『神の御使いの欠片』を壊せとはなってない筈。
雄太たちは思案顔のまま宙に指を這わせて、視線を上に向ける。
「なあ、ちょっと皆のクエストおさらいしようぜ」
雄太の提案に、俺たちは一も二もなく頷いた。
クエスト内容は、皆少しずつ違っていた。
俺は『神の御使いの欠片』の力を削ぎ新たなる魔王誕生を阻止せよ、という内容。
ヴィデロさんは魔王の核を確保して『神の御使いの欠片』をあるべき容かたちへと導け、という内容。
『高橋と愉快な仲間たち』は『神の御使いの欠片』の力が溜まって暴走するのを防ぐこと。周りにいる魔物を出来る限り融合させないこと、という内容。
ユキヒラは、『神の御使いの欠片』を正しく浄化し、本来の姿に戻せ、という内容。
俺と雄太たちのクエストがちょっと似ていて、ヴィデロさんとユキヒラのクエスト内容がほぼ被る、って感じかな。
「メインはユキヒラとヴィデロさんか。んで俺らは害虫駆除」
「害虫……違うだろ。いや、似たようなものか?」
そうなるよね。でも待って。俺、ここら辺の魔物と戦えないんだけど。頼みの綱の聖魔法はダメージ半減されちゃうし、バフがけもほぼ聞かない状態で。俺は一体何をすればいいんだ。
「そういえばマック、ニコロ導師から借り受けた本、読んだか?」
悩んでいると、ふと思い出したようにユキヒラが声をかけてきた。
「え、何で借りたこと知ってるの?」
「ニコロ導師に聞いたからに決まってるだろ。心配してたぞ。力になるといいんだけどって」
「そっか。読んだよ。でも、なんか終始壮大な物語が綴られてるだけで、ヒントは見当たらなかった」
「え、マジか……あの本、俺もチラッと見せてもらったことがあったんだけど、裏表紙の辺りに遊び紙的な薄い紙があってそこに何かギミックがあったろ」
「え? 知らない。最後のページを読んで閉じちゃったから」
「気付いてなかったのか……マックなら気付いてると思ったんだけど。今持ってるか?」
「うん。大事な物入れのインベントリに入ってる」
ユキヒラの言葉が気になって、俺はその場でニコロさんに借りた大陸の本を取り出した。
借り受けた時と変わりない本の背表紙を上に向ける。
分厚い裏表紙を捲ると、そこには確かに遊び紙の様な一枚の薄い紙があった。そして。
「MP入れれる……」
「あ、やっぱりか。前そこが気になってたんだけど、ニコロさんの物だからって何も出来なかったんだ」
いつの間にやら、俺とユキヒラの周りに皆が集まって、俺たちの手元を見ていた。
でも俺の視線は手元の本に釘付け。
これは、もしかして。
「文字が組み変わる本……」
前に図書館で見たことのある仕掛けだった。一番最後に、まるで隠すようにギミックを設置しているっていうのが、何か重要なことが書かれてる気がする。
っていうかなんでこれに気付かなかった俺。さっと読んで、いまいちだったなあ、って最後パタッと閉じちゃったんだよ。もう一枚捲ってればこれに気付いてたのに。くそお。
溜め息を吐きながら、図書館でのことを必死で思い出す。
「たしか、文字が変わる長さは入れるMPによって変わるはず……」
すべてをつぎ込んでもいいかな、と操作しようとすると、ユイがにこやかに「はーい」と手を挙げた。
「私が全MPを入れようか?」
ユイの全MPって、俺のMPの何倍も多いよな。MPが多いからって内容が変わるとは思わないけど、でも。
ユイの渡りに船の様な申し出に、俺はお願いします、と頭を下げてユイに本とマジックハイパーポーションを差し出した。
「入れるね」
宣言と共に、ユイが本に指を添える。
すると、薄暗い中、本がいきなり光り出した。
そして、宙に浮きあがる。
ページが、まるで強風にあおられたようにバラバラバラ……と捲られていき、そこから光の文字が躍り出した。
何度見ても幻想的な光景だな、と見惚れる。皆も何も言わずに見惚れている。
ユイはMP枯渇で力が抜けたのか、雄太に支えられながらも踊る文字を見て目を輝かせていた。
しばしその文字のダンスを堪能していると、文字はゆっくりと本の中に戻っていった。
そして、宙にあった本がユイの手の中に戻ってくる。
すっかりマジックハイパーポーションを飲みほしてMPを回復していたユイは、その本をしっかりと抱きとめると、にこやかに「はい」と俺に差し出してきた。
「ありがとうユイ。一本じゃ全回復してないでしょ」
本を受け取った俺は、代わりにと追加でマジックハイパーポーションをごっそりとユイに渡した。ユイも笑顔でそれを受け取り、早速一本ふたを開けていた。
俺は戻って来た本を開いて、中の文章を確認した。
神の神話のはずだったそれは、『神の御使いの取り扱い』に変わっていた。
なんだよ、当たりは俺の手の中にあったのか……!
もっと早くに気付いてれば色々と用意も出来たかもしれないのに!
悔やみながら内容を食い入るように読み耽る。
待っててくれる人たちは、出てくる魔物を消しつつ、決して俺を急かそうとはしない。ありがたい。
「『神の御使い』は本来は純粋なるものを作り出す器。静かなる心で、澄んだ眼で、……をもって……をせよ。ってか何この古代魔道語! ここまで来て読めない単語来た!」
「マック、落ち着いて。古代魔道語は私もユイも習得してるから。ユキヒラもでしょ」
「ああ、まあな。でも俺もマックが読めなかった単語は意味わかんねえ」
「ええと……それ確か、『壮大』とか『大志』とかそういう意味の単語だったような気がする。静かなる心で、澄んだ眼で、大志をもって、ええとなんだっけ海里、この単語。見たことある気がする」
「これ、確か古代魔道語レベルかなり高くないと読めなかった単語じゃない? 大きい、大きな、多い、願い、みたいな感じだった気が」
「あ、それだ! 『大願』だよ! さすが海里! マック君! これ、『大志をもって大願せよ』って書いてあるんだよ!」
さすが仲間は頼りになる。ありがたくて、心の中で拍手を送った。実際には本を持ってるからできないけど。
海里とユイが頭を捻ってくれるのがとても助かる。古代魔道語読める人が沢山いてよかった。
「ええとね、『神の御使いの欠片』が本来の力を発揮できるのは固体? であること。そして、力となる物があること。その物の力を吸い込んで、新たな力を作る。個々にある状態では力を失うため、それを補おうと周りの力を喰う。全てを一つにし、力を振るうこと。って書いてある。直訳だからあんまり意味は解らないけど」
「こういうことかしら。バラバラの欠片を集めて、澄んだ瞳で静かな心で大志をもって錬金。バラバラのままだと力が減ってるから周りから魔素を取り込もうとする、って感じね。私たちはこの魔素を取り込ませないようにするのが仕事ね」
直訳翻訳お疲れ様。女性陣(?)さっきから活躍しまくりだな。
それにしても、いつの間にやらユイと海里に古代魔道語のスキルレベル追い抜かれてたよ……。
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