神様に愛された少女 ~生贄に捧げられましたが、なぜか溺愛されてます~

朝露ココア

文字の大きさ
19 / 33

家族のように

しおりを挟む
 現れた黒髪の人間に、シーラは戸惑った。
 えらく整った顔立ちをしている。 
 神の眷属か何かだろうか?

 男は濡れたフレーナに迷わず触れ、彼女の前髪を払いのける。

 「すみません……」
 「謝る必要はない。けがは?」
 「大丈夫です。お気になさらず」

 フレーナは気丈に振る舞い笑顔を浮かべる。
 シーラには、やけに二人の距離感が近いように見えた。

 男は頷き、立ち上がってシーラを見る。

 「お前が村から来たという村人か。俺が命神だ」
 「へ……? あなたが神様ですか?」
 「そうだが、不服か?」
 「い、いえ! とんでもございません!」

 慌ててシーラは跪く。
 神の姿が人間に近しいことは意外だった。
 しかしそれ以上に、神がフレーナを気遣っていることが驚愕で。

 「用件を述べろ」
 「はい。麓のシシロ村に、凶悪な魔物が現れました。王都にも応援を要請しましたが応答はなく……神様の御力をお借りしたいと」
 「わかった。村には力を貸そう」
 「……! ありがとうございます!」

 シーラは深々と頭を下げる。
 このまま魔物を放置していては、村の者が皆殺しにされてしまう。
 結界が弱まっているため、神に張り直してもらう必要があった。

 「それと話は別でさ。今、フレーナのドレスをわざと踏んだよな?」
 「……いえ、そのようなことは」

 シーラは正直に答えるべきか迷った。
 村ではフレーナなど当然のように差別される対象で、虐めたことを隠す必要すらない。

 だが、神はその事実を知らないかもしれない。
 外から客が来た時は、村人もフレーナに表立って虐めはしていなかった。

 「そうか。お前がそう言うのなら、そういうことにしておこう。
 だが、悪意は必ず返ってくる。ゆめゆめ忘れるな」
 「は、はい!」

 正直なところ、メアは苛立っていた。
 しかし個人的な感情で人間を誅することはできない。
 それが神という生物のルールだった。

 「夕刻になり次第、山を下りる。村人に伝えておけ」
 「はい、失礼いたします」

 再び深く礼をし、シーラは踵を返す。
 そしてゆっくりと神殿を出た。 

 山を少し下りたところで彼女は安堵した。

 「はぁ……緊張した。人間の姿でも、神は威圧感があったな。でも、フレーナがまるで神の家族みたいに……まあ、あいつのことなんて考えても仕方ないか」

 とにかく自分の役目は果たした。
 寒々とした空気に身を縮め、シーラは下山していく。

 ***

 フレーナは急いで風呂に入り、新しいドレスに着替えた。
 大広間ではメロアの怒声が響く。

 『むぅ……あるじ! どうして頼みを引き受けたのだ! フレーナをあんな目に遭わせたやつの村なんて、放っておけばいーのだ!』
 「ま、まあまあ……メロアさん。私としても魔物が暴れているのは怖いですし。いいじゃないですか」

 怒るメロアをフレーナが宥める。
 どうやらメロアは村を守ることに否定的らしい。

 フレーナとしても複雑な胸中だが、村のことは考えたくない。
 それよりも自分が生きていると知られたことの方が嫌だった。

 「仕方ないだろう。俺にも個人的な感情はあるさ。
 だが、神の役目は魔物や災害から世界を守ること。私情を挟んで動くことは許されない。お前も神の眷属なら理解できるだろ」
 『それはそうだけど……ムカつくのだ!』
 「勝手にムカついておけ。明日には怒りも鎮まってる」

 メアは鬱陶しそうにメロアを往なした。
 彼は怒る眷属には目もくれず、体を温めるフレーナに近づく。

 「そろそろ話すか。フレーナ、お前は麓の村で虐められてたんだな?」
 「え、えぇと……まあ、そうですね。事実だけ言えば、そうなります。両親が疫病を持ち込んだんじゃないかって噂が広がって、処刑されてから。両親が疫病を持ち込んだという事実はないのに、どんどん村人たちの差別は激しくなっていったんです」

 つらい思い出を想起しながらフレーナは語る。
 神の前で嘘を吐いても誤魔化せないだろう。
 だから正直に事実だけを述べた。

 「じゃあ、お前は村をどうしたい?
 別に俺が手を貸すわけじゃないが、お前の意見は聞いておきたい」
 「私は……」

 フレーナは迷う。
 長い間苦しめられていた。
 だが、幼少期は両親や友人と楽しく過ごした場所でもある。

 複雑な胸中だ。
 仕返しはしたいと思うが、それは違う。
 神様の力を借りて復讐などはしたくない。

 「私は別に、どうでもいいです。両親が殺されたから、自分が差別されたからといって……村人たちに復讐するつもりはありません」
 「……フレーナは優しいな」
 「いえ、優しくはないのです。ただ、自分がこれ以上嫌な思いをしたくないから。村とはもう関わりたくないのです」

 メアはフレーナの言葉に聴き入っていた。
 いつもは平坦な彼の声色に、優しさがそれとなく混じる。

 「たまにな、優しさは相手を許すことじゃなくて、然るべき処罰を与えることだという者がいる。それもひとつの意見だろう。だが、俺としては……人を傷つけることが嫌で、ただ幸福な生活を送りたいフレーナの心は優しいと思うよ」

 見透かされていた。
 そう、本当は村人たちを傷つけるのは気が進まなかったのだ。
 もちろん村と関わりたくないのも本当だけど。

 ……ふつうに。
 ふつうの、幸せな生活が送りたかったのだ。
 友人がいて、家族がいて。
 そんな暮らしが欲しかった。

 「痛みを知るお前だからこそ、他人が痛みを味わうのを恐怖する。俺はそんなお前の心に価値を見出した。もう怖がらなくていいんだ。フレーナ、お前は俺が守る。この神殿はお前の家だ」

 初めてフレーナと出会ったそのときから、メアは彼女の本質を見抜いていた。
 この少女は心に傷を負っている。
 そして同時に、他人の心を慮る人間だと。

 神を利用しようとする人間がいる。
 取り入ろうとする人間がいる。
 汚そうとする人間がいる。
 そんな人間たちを、メアは長い生で山ほど見てきたのだ。

 だからこそ言える。
 フレーナはメアが最も好きな心を持った人間だと。

 「メア、様……私……」
 「泣きたいときは泣けばいい。そして、泣いた後は立ち直ればいい。
 フレーナには俺もメロアもついてるからな」

 温かい抱擁の中、フレーナは涙を流した。
 幼い日に失ったぬくもり。
 まるで本当の家族のように、温かい。

 堰を切ったようにフレーナは泣いた。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...