神様に愛された少女 ~生贄に捧げられましたが、なぜか溺愛されてます~

朝露ココア

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濁った空気

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 その夜、クレースは宿の一室で風に当たっていた。
 自分が成長したからだろうか。
 子どものころは賑わっていた村が、どこか活気のないように見えた。

 先刻メアから忠言を受けたクレースは、厩舎の様子を確認してみた。
 曰く、厩舎の動物たちを世話してやってくれ……と。
 動物たちはどこか元気のない様子だったので、彼は一通り世話をしておいた。

 「どうしたの、クレース?」

 何食わぬ顔でトリナが尋ねる。
 トリナはクレースが帰郷して以来、ずっと彼の傍にいた。

 小さいころはよく一緒に遊んでいた仲だが、今はなんだか噛み合わない。
 シーラとも話をしてみたものの、クレースはどこか違和感を覚えている。

 「いや。シシロ村は……成長しているのか?」
 「成長? 何言ってんのよ?」
 「すまん、変なことを聞いたな。王都を知って俺も価値観が変わったのかもしれない。
 何というか……昔より衰退している気がして」
 「それは仕方ないわね。高齢化してるし、ろくに外の人も移住してこないし。こんな田舎、誰が興味持つっていうのよ」

 トリナはそう語った。
 だが、クレースは人口的な側面から言及しているのではない。

 雰囲気が暗いのだ。
 あくまで肌で感じ取った根拠のない空気だが。

 「そういえば、フレーナはどうしてるんだ? 一度も姿を見ていないが」
 「え……フレーナねぇ……」

 どう説明したものか。
 トリナは逡巡した。
 長らく村に滞在するつもりのないクレースに、そのまま事実を説明しても仕方ない。

 それにクレースの心象を悪くしたくない、というのがトリナの本心だった。
 要するにトリナはクレースを狙っていたのだ。
 富も名誉も手に入れた王都の英雄。
 幼馴染がそんな英雄になって帰ってきたのだから。

 「あいつは引っ越したわ。一家ごと」
 「……? だが、命神様はフレーナの名を出していたぞ」
 「へ、へぇ……神様のことだし、なんでもお見通しなんじゃない?
 とにかく、もう村にいないフレーナの名前を出しても仕方ないわよ。それよりもワイン飲まない? さっきお父さんが持ってきたの」
 「……そうだな」

 やはり違和感があった。
 長らく村を離れていたクレースに、今のシシロ村の状況はわからない。
 この休暇中にどれくらい村の現状を知れるだろうか。

 彼は悩みつつ夜を明かした。

 ***

 朝方。
 トリナはそっと家を抜け出し、シーラの家を訪ねた。

 シーラの部屋の窓を叩く。
 すると寝ぼけまなこでシーラが顔を出した。

 「……トリナ。なに」
 「ねえねえ。昨日の話、詳しく聞きたいんだけど。フレーナの件」
 「それ、朝方にしなきゃならん話?」

 昨夜は宴をしただけあって、村人はみな昏睡中。
 シーラとて例外ではなかった。

 だが、そんな事情などトリナにとっては些事。
 どうしても早急に確認したいことがあったのだ。

 「フレーナってさ、すごいドレス着てたんでしょ?」
 「んー……すごいって感じの派手さじゃないけど。落ち着きがあるけど高そうな……貴族が着てそうなドレスだったよ。で、髪留めとかも純金製のやつだった。
 神様に買ってもらったのかな」

 その情報を聞き、トリナは胸が躍った。
 彼女は今この瞬間、可憐で優雅なドレスを欲していたのだ。

 なぜならばクレースに美しい姿を見せたいから。
 今のうちにクレースの心を射止めることができれば、自分も王都に連れて行ってもらえるかもしれない。
 そのためには美しさに磨きをかける必要がある。

 「フレーナ、神殿にいたんだっけ? でも神殿に入るのはさすがに駄目よね……」

 トリナは思案する。
 フレーナの所有物は村の所有物。
 ひいては村長の娘である自分の所有物になる。

 それがトリナの思考回路だった。

 「あー……トリナの考えること読めたわ。私もあいつの指輪貰おうとしたけど、失敗したんだよね。絶対高く売れるって、アレ」
 「そうね。でも、どうしてフレーナは食われずにドレスなんて買ってもらったのかしら?」
 「愛玩動物的な感じじゃない?」

 二人のあらぬ予想はどんどん進んで行く。
 誤った方向に。

 フレーナの所有物を奪い、自分を着飾るための戦略。
 トリナはどうすればクレースの心を射抜けるか執心していた。
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