どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

文字の大きさ
8 / 41

第8話

しおりを挟む
 正式にギルを騎士に任命した。
 しかもただの騎士ではなく、王族を護る近衛騎士。
 近衛騎士は常に主の傍にいて、あらゆる敵から守る役割を担う。
 本来は交代制で二名以上を置くのが王都の規程だけれど、うちの国にそこまで多くの人材はいない。
 だから今も執務室にギルがいるのは当然のこと……のはずなのだけど。

「なにも部屋の中で素振りをしなくても」

 ギルは私の作った錬金術製の剣を使ってブンブンと素振りをしていた。しかもなぜか上半身裸で。
 正式に騎士と認められたのが、よっぽど嬉しかったのだろう。昨日の任命式が終わってからずっとこの調子。
 もちろん鍛錬も兼ねてというのはわかるけど、少々暑苦しくもある。
 少なくとも、素振りの音は執務中のBGMには馴染まない。

「仕方ないだろ。元の剣がベースとはいえ、新しい振り心地を身体に覚えさせるには数が必要なんだ。それに近衛になった以上、君から離れるわけにもいかない」
「だからって裸はどうかと思うけど」

 十五歳はまだ子ども、けれど体つきだけならもう大人に近い。
 しかもギルは服を着てると細身に見えるのに、曲がりなりにも剣士だけあってほどよく筋肉質でもある。
 ぶっちゃけ目に毒だ。

 しかし、そんな私の心中など露知らず、ギルは一定のリズムで刃を振り続ける。

「少しでも早く、もっと強くなりたいんだ。君を守る最強の騎士になるために。そのためには、聖十字騎士団の部隊長とだって渡り合えるように……いや、勝てるようにならないと」
「マジメね」
「俺の取り柄だからな」

 皮肉半分で投げた言葉が、当然のように受け止められてしまう。
 やれやれ、これは筋金入り。昔から素直すぎて天然気味だったけれど、ちっとも変わっていない。
 でも、同時にすごく頼もしいとも思う。
 この年でローム帝国の聖十字騎士団に名を連ねる人材は、金で買える類の“戦力”ではない。
 それでいて実直で忠に厚いのなら尚更だ。

「ところで、その剣はどう? 使いやすい?」
「ああ、最高だよ。強すぎて敵に申し訳なく感じるくらいだ。俺はスピードで圧倒するって言ったけど、これなら相手が宝剣でも使ってない限り、剣も鎧も関係なく斬り伏せられる」
「申し訳ないからって、手加減はダメよ」
「当たり前だろ。君の敵なら容赦はしない」

 ふっ。やっぱり頼もしい。
 特殊な金属であるオリハルコン、そこに錬金術で術式を付与した剣の切れ味はもはや常軌を逸していると言っても過言じゃない。
 それゆえ逆に扱いも難しいはずだけど、ギルならきっと使いこなしてくれるでしょう。

「さて、となると問題なく計画に移れるわね」
「お、そろそろ出発か?」

 書類を閉じながら呟いた私に、ギルが素振りの手を止める。
 ――今日はかねてよりずっと欲しかった資源を手に入れるため、元からとある場所へ向かうつもりだった。
 ギルも近衛として正式に同行できるようになったし、条件は整っている。

「ええ。午前の執務も終わったし、そろそろ城を出る支度をしましょう」

 しかし、私がそう言って立ち上がろうとしたところで――。

「やあ、妹よ。今日も執務に精が出るね。午後は畑仕事かい? 相変わらず人気取りに忙しいようだね」

 ギルの素振りの熱気を逃がすために開け放っていた扉。
 そこに背を預けて立っていた一人の人物。

「リヒテル兄様……」

 第二王子リヒテル。
 アストリア王家の次男にして、国の外交を一手に担う“政治の鬼”。
 穏やかな笑みを浮かべながらも、その目は一瞬たりとも相手を見逃さない。
 この国のような小国が隣国や帝国に呑まれず生き残れているのは、彼の頭脳あってのことだ。
 ……そして、私を毛嫌いしている節がある。
 そんな兄がわざわざ私の執務室まで来るなんて、きっとろくな話ではない。

「思えば昔からお前はそうだったね。王女でありながら開拓を手伝ったり、身分を隠して街に出て医者の真似事をしたり。次はいったい何をしでかそうとしているんだい?」

 兄の声は柔らかいが、奥に冷えた刃がある。

「……なにを、と言いますと?」
「とぼけてもムダさ。僕の情報網を甘く見ないでくれよ。最近、街の農業組合と接触しているようだね。コソコソ動いているようだけど、あれで出し抜けるとでも?」
「!」

 ……やれやれ、さすがね。
 おそらくリヒテル兄様が言っているのは稲と肥料の流通準備について――つまり、私が密かに進めていた新しい農業計画のことでしょう。
 もっとも、この口ぶりだとさすがに錬金術そのものにまで辿り着いてはいないはず。
 もしそうだとしたら、もっと直接的に糾弾してきたはずだから。

「出し抜くだなんて。リヒテル兄様、それは誤解です。密かに動いているのは、ただ時期を待っているだけ。私の想いはこの国を豊かにしたい――それだけです」
「どうだかね。お前は僕やグロウ兄さんを押しのけて、この国を手に入れるつもりなんじゃないか?」
「いいえ、お兄様。誓って私にそんな気などありません。人には向き不向きがありますもの。私は政治ではリヒテル兄様の足元にも及びませんわ。むしろ王になるべきはお兄様だと思っています」
「ふうん、それは光栄だね」
「けれど、状況によっては武力で民を導ける強い王が必要でしょう。そのときは軍略に長けたグロウ兄様がふさわしいと思います」

 リヒテル兄様の眉がわずかに動く。
 けれど、私の言葉は全て本心だ。

 そもそも錬金術の力とは、あくまで“創造”にある。
 王位に着いて内政だの外交だので人付き合いに時間を奪われるより、国を豊かにする上で役立つ何かを作るほうがよっぽど貢献できる。
 私は元から裏方に徹するつもりだった。

 だいたい、うちの国に限らずこの世界は基本的に男尊女卑。
 女性が王位を継いだケースなど聞いたことがない。
 それに私自身、性に合ってないとも思う。
 前世のときからずっとそう。人前に立つのは正直苦手だ。

「……まあ、信じてあげるよ。この国が最後の一線で持っているのは、シルフィーナ姉さんとフェルトのおかげだしね。最近のことだけじゃない。お前が三年前からいろいろやっているのは知っている。僕の目は節穴じゃない」

 意外だった。
 兄が「私のおかげ」などと口にする日が来るとは思わなかった。

 シルフィーナ姉さんについては、言わずもがな政略結婚の条件として引き出した農作物などの援助のこと。
 一方で私の方は錬金術の副産物を市井に流し、道具や肥料の小さな改良で家事や畑仕事をわずかに楽にしていた。
 さらに魔力持ちであることを活かした開拓作業での活躍もあり、自分で言うのもなんだが市民からの人気は高い。

「ありがとうございます。まさかリヒテル兄様に褒めてもられるなんて思っていませんでしたわ」
「フッ、別に褒めたつもりはないよ。ただ事実を述べただけだ。勘違いしてもらっては困る」
「あら、そうですか。それは失礼いたしました」

 ……相変わらずね。まあわかっていたけど。

 昔からリヒテル兄様はこうだった。グロウ兄様も。
 はっきり言うと、二人の王子は私を好いていない。
 理由はたぶん、私だけ血筋が違うから。二人の兄と姉、そしてもう一人、歳の離れた弟は王妃である正妻の子。
 けれど私は違う。
 父がある日、どこかから連れ帰って自分の子だと主張した。そのせいで、一時期は本当に血を分けた子なのかと疑う者すらいた。

 実際、私もその辺の事情は詳しく知らない。
 確認しようにも、肝心の父は病で床に伏したまま。真実は霧の向こう。
 ただ、母が違うというのは事実なのだろう。
 その証拠に五人いる兄妹の中で私だけがアストリア王家の特徴である金髪じゃなく、真っ黒な髪色をしている。

 だからこそ、兄たちにとって私は面白くない存在でしかない。
 本当の妹かも怪しい少女が民から人気を得ている――立場を脅かす芽、と見えるのも分かる。

「それで、結局お兄様はなぜここへ? 雑談をしに来たわけではないでしょう」
「なに、ちょっとした人材登用さ」
「人材登用?」

 リヒテル兄様は口元に笑みを浮かべ、視線を私の隣へ向けた。

「ねぇ、そっちのローム帝国で修行してたっていう君」
「え、俺ですか?」

 突然話を振られ、ギルが驚いたように姿勢を正す。

「悪いことは言わない。今からでも僕のほうに乗り換えない? フェルトよりはずっといい待遇を用意できるよ。その歳で聖十字騎士団入りなんてすごいじゃないか。君ならいずれグロウ兄様にだって対抗できるようになるかもしれない。どうだい?」

 ――なるほど。
 どうやらリヒテル兄様の狙いはギルの勧誘だったみたいね。
 グロウ兄様と違って、リヒテル兄様は武闘派ではない。この人にしてみれば、優秀な人材を確保することこそ最大の戦略。私の配下で燻らせておくのは惜しい、そう思っているのだろう。

 問題は、これにギルがどう返すかだけど……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

碧天のノアズアーク

世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。 あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。 かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。 病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。 幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。 両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。 一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。 Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。 自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。 俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。 強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。 性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして…… ※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。 ※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。 ※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。 ※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。

『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。 しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。 ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。 死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。 「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」 化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。 これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

分析能力で旅をする ~転生した理由を探すためにレインは世界を回る

しき
ファンタジー
ある日、目を覚ましたレインは、別世界へ転生していた。 そこで出会った魔女:シェーラの元でこの世界のことを知る。 しかし、この世界へ転生した理由はレイン自身もシェーラもわからず、何故この世界に来てしまったのか、その理由を探す旅に出る。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀
ファンタジー
 交通事故で死んだ筈の私は、地球ではない星の一室にいた。ここは地球からみて異世界で、人口不足の為に他世界から移民を求めており、私も移民として転移させられたらしい。ただし移民だから言葉は通じないし生活習慣も違う。だから正式居住までの1年間、寮がある施設で勉強することになるようだ。  突然何もかも変わって、身体まで若返ってしまった私の、異世界居住の為の日々が始まった。  チートなし、戦闘なし、魔物無し、貴族や国王なし、恋愛たぶんなしというお話です。魔法だけはありますが、ファンタジーという意味では微妙な存在だったりします。基本的に異世界での日常生活+α程度のお話です。  なお、カクヨムでも同じタイトルで投稿しています。

ある平凡な女、転生する

眼鏡から鱗
ファンタジー
平々凡々な暮らしをしていた私。 しかし、会社帰りに事故ってお陀仏。 次に、気がついたらとっても良い部屋でした。 えっ、なんで? ※ゆる〜く、頭空っぽにして読んで下さい(笑) ※大変更新が遅いので申し訳ないですが、気長にお待ちください。 ★作品の中にある画像は、全てAI生成にて貼り付けたものとなります。イメージですので顔や服装については、皆様のご想像で脳内変換を宜しくお願いします。★

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

処理中です...