どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第32話

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 説得から数日後、開拓が終わったことでいよいよ田植えが始まった。

 私も先頭に立ち、肥料の使い方や効率的な植え方を一人ずつに指導していく。
 その甲斐あってみんな飲み込み早く作業を進めていく。
 うんうん、やっぱり何事も行動で示すのが一番ね。

 もっとも、そうは言っても私がずっと現場に立ち続けるわけにもいかない。
 だから今年は「見本の年」。
 私がやり方を見せ、来年からは今年経験した人たちが各地で指導役となる。
 そうして農民同士が教え合い、技術を広げていく――そういう仕組みにした。

 とはいえ一度見ただけでは覚えきれない人も多い。
 だからちゃんと資料も用意してある。
 全員が文字を読めるわけではないので、なるべくイラストをふんだんに使用してわかりやすくなるよう工夫したもの。
 いわば「絵で見る農法入門」とでもいうべき冊子だ。

「よし、今日の作業はここまでね」

 私が声を上げると、皆が一斉に顔を上げた。

「フェルト王女、お疲れ様でした!」
「今日はかなり進んだなぁ!」
「にしても、田植えってのは思った以上に腰にくるもんだな!」
「そうね。私も腰がパンパンよ」

 思わず苦笑いしながら背伸びをする。
 水を張った田んぼの中を一歩進むだけでも、足に泥がまとわりつく。
 稲作の作業は想像以上に過酷だった。

「けどもフェルト王女がくれた長靴のおかげで大助かりだよ」
「んだんだ、こいつがなけりゃあ今頃もっと泥まみれだべ!」
「不思議な素材だなぁ。ぐにょぐにょしてるのに、しっかりしてる!」
「そう? よかった、そう言ってもらえると用意した甲斐があるわ」

 錬金術で作った特製の長靴。
 天然のゴムの木なんてこの国には存在しないけど、別の植物の樹脂から代用品を作ることに成功した。
 柔らかく、それでいて水を通さない。
 おかげでみんなの足元が泥まみれにならずに済んでいる。

「ともかく、あとはフェルト王女が言うとおりちゃんと育つのを祈るばかりだな」
「安心してちょうだい。この稲は、冷たい風になんか負けやしないわ」

 アストリアでは、痩せた土地と凍てつく風が作物を何度も枯らしてきた。
 だからこそ、私は冷害に強い品種を目指して改良したのだ。
 この稲なら、きっと冬の訪れまでに黄金の穂を実らせてくれるはず。

 日が傾き始めたころ、今日の作業を終えて城に戻る準備を整えた。
 ここ数日の生活はさすがに体に堪える。

 朝から昼まではトンネル掘り。
 昼過ぎから夕方までは農作業。
 夜はギルの新装備の調整。
 合間に事務仕事。

 ……我ながら、よく倒れないものだと思う。
 でも、不思議とぜんぜん苦じゃなかった。
 トンネルは着実に延び、田んぼは少しずつ広がり、ギルの装備も改良を重ねるごとに完成度が増していく。
 どれだけ忙しくても「良くなっている」という実感があれば頑張れるものだ。

 帰り際、私はふと足を止め、田園を振り返った。
 陽に照らされた水面がきらきらと輝いている。
 まだ苗は小さいけれど、ここにいずれ黄金色の波が広がる。
 そのときは国中が笑顔で溢れる――その日が待ち遠しい。


 ***


 城に戻った私は、自室で書類仕事を片づけていた。
 机の上には開拓地から持ち帰った報告書と、リヒテル兄様が作った来季の農地拡大計画書。
 インクを乾かしながら、ようやく一息つく。
 窓の外はすでに夕暮れ。
 そろそろ夕食の時間――そして、ギルも訓練を終えて海から戻ってくる頃だろう。
 そんなことを考えていた矢先、コンコン、と扉がノックされた。

「入っていい?」
「ええ、どうぞ」

 返事をすると、扉が開いてギルが姿を見せる。予想通りのタイミング。
 しかし――その姿を見た途端、私は息をのんだ。

「おかえり……って、ちょっと、大丈夫!?」
「ああ、ただいま」

 いつもの柔らかな笑顔。けれど、その体は傷だらけだった。
 腕や肩には青あざが散り、服のあちこちが破れている。
 額にもかすかな切り傷。髪に入り込んだ砂がきらりと光った。

「な、なにがあったのよ……」
「まあ、今日はちょっとハリキリすぎただけさ」

 軽く笑っているが、痛々しいにもほどがある。
 初日以降、私は訓練に同行していない。
 あの時は新装備のアイディアを得るために見ていたけれど、試作品ができてからは体力や作業効率を考えて城に残るようにしていた。
 だから彼がどんな特訓をしているのか詳しくは知らない。
 でも、その姿を見るだけで本日は相当無茶な内容だったのだとわかった。

「いてて……」
「まったく、またずいぶんとこっぴどくやられたわね」

 私はため息をつきつつ、薬箱を取り出した。
 ギルが上着を脱ぐと、鍛え上げられた上半身に無数のあざが浮かぶ。
 その肌に、錬金術で作った軟膏を丁寧に塗っていく。
 透明な膜のように広がり、じわじわと淡い光を放った。

「やっぱり、これ効くな。塗ったそばから痛みが引いていく」
「当然よ。私が何カ月もかけて配合を見直したんだから」

 ギルが少し苦笑し、息をつく。

「でも、今日は手応えがあったんだ。ついに切っ先が殿下にかすった」
「え、ホントに? すごいじゃない」
「ああ。ほんの一瞬だったけど、確かに届いた。もう少し、あとほんの少しで何かが掴めそうなんだ」
「そっか。ならよかったわ」

 ボロボロの割に晴れやかなギルに安堵する。

「どう? そろそろ勝算は見えてきた?」
「ああ、うっすらとね。ようやくフェルトの作ってくれた――え~と、なんだっけ?」
「『クロックアーマー』よ」

 私がテキトーにつけた新装備の名前。
 単に“錬金鎧”とかでもよかったけど、なんとなく味気ないからそう呼ぶことにした。

「ああ、それそれ。やっと身体に馴染んできてさ。あれって魔力の流し方を変えると、加速の度合いが変わるだろ? 今日は思い切ってぶっ倒れる覚悟で最大出力を試してみたんだ。そしたらほんのわずかだけど、殿下の予測を上回れた。一発入れられたのも、そのおかげさ」
「最大出力って……また無茶したわね」
「勝つためさ。しょうがない。むしろ悩んだのは本番前に手の内を見せていいものかってところだけど、俺もどうなるか知っておきたかったしね」
「まあたしかに耐久テストは必要ね。けど気をつけてね。本当に本番前にぶっ倒れちゃったらシャレにならないわよ」

 やりすぎてベッドから起きれなくなり不戦敗……なんて未来はご免被る。

「で、他には? なにか気になる点はある?」
「うーん……強いて言えば、魔力を上げてから反応が出るまで、ほんの少しだけラグを感じるかな。コンマ一秒もないくらいだけど、戦いの最中だとそのズレが気になる」
「わかった。あとで調整しておくわ」

 装備はこうしてギルの感想をもとに改良している。
 やはり実際の使用者の感想を聞けるのは助かる。
 机上の理論だけではない生の声。何事にも大事なことだ。

「ありがとう。でも正直、装備としてはもう完璧に近いと思う。あとはやっぱり、俺がどう使いこなせるかだな。初めてグロウ王子と戦ったときは手も足も出なかった。でも、二週間経って剣がかするところまできた。このペースならきっと決闘までに追いつける」
「頼もしいわね。ギルがグロウ兄様を倒すところを見るのが楽しみだわ」

 決闘まで残り二週間――折り返し地点でこれなら、たしかに可能性はある。
 初日の時点では絶望的と思えた差が、おぼろげでも勝機が見えて来たなら大進歩だ。

 ……それにしても、恐ろしいほどの才能と学習能力ね。
 昔から剣には疎い私でも、ギルの成長は目を見張るものがあると思っていた。
 けれど今はそれどころじゃない。
 グロウ兄様という強敵と毎日打ち合う環境を得て、まるで別人のように進化している。
 お兄様が言っていた通りだわ。
 この先、ギルはいったいどこまで行けるのかしら――。

「そういえば、前にグロウ兄様は“聖十字騎士団の部隊長とも渡り合える”って言っていたわよね」
「ああ。言ったけど」
「それってもしあなたがお兄様に勝てたとすれば、その部隊長たちにも勝てるって理解でいいのかしら?」
「……正直に言うと、それは厳しいと思う」
「そうなの?」
「前にそう言ったのは、あくまで剣士としての実力だけを比べた場合の話さ。でも、あの人たちは“宝剣”を持ってる。宝剣を手にした瞬間、彼らはさらに別格の存在になるんだ」
「そう……」

 あのグロウ兄様でさえ厳しいのか。
 とことん規格外ね。規格外すぎて、もはや想像がつかないわ。

「ねえ、前から気になってたんだけど、その宝剣ってどんなものなの? 普通の剣とどう違うの?」
「ごめん、それは俺にもよくわからないんだ。実際に触ったことはないし、近くで見たのも一度きりでね」
「一度はあるのね」
「うん。昔、軍の中で反乱を企てた奴がいたんだ。そいつを処罰するために、隊長自ら宝剣を抜いた。遠目だったけど……振るうたびに建物が吹き飛んでいったよ。あれはもう、“武器”ってより“兵器”だった」
「兵器……」

 建物が吹き飛ぶって……刀身に爆薬か何かでも仕込んでいるのかしら?
 どうあれ馬鹿げた破壊力ね。

「一説によると、宝剣の製造には魔術が使われてるらしい。それに、宝剣の持ち主は“剣が選ぶ”っていう逸話もある。資格のない人間が触れれば、刃に拒まれて弾かれるとか」
「魔術……ね」

 それはなかなか興味深い。
 もしかして、錬金術とも何か関係があったりするのかしら?
 ……いや、それはないか。
 もしローム帝国が錬金術の技術を使っているなら、教会が黙っているはずがない。
 それに、あの国は“信仰の国”を名乗っているのだ。禁忌の技術を扱えば、自らを否定することになる。

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