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15話 温かい腕の中
しおりを挟む「これ以上、刺激しないよう全員、部屋から出たほうが良い。 あの老人も1人になれば少しは落ちつくはずだ。 …たぶん、そのまま疲れて眠るだろう」
アルフレッド様の助言を聞き、使用人たちと一緒に夫の寝室から出ると… 私は痛む手首をさすりながら指示を出した。
「エリーのケガを見てあげて!」
「はい、奥様!」
夫はこういうさわぎを頻繁におこすから薬はたくさん常備してあり、お医者様を呼ばなくてもベテランの使用人たちは、ケガの対処方法を知っている。
「申し訳… ありません… 奥様…… 私がよけいなことを… 旦那様に話してしまったから… あんなに怒られて…… ううっ…」
やはり私が来客中だとエリーは夫に伝えたのだ。 それを… 『愛人と会っている』 …と夫は勘違いしたのだ。
グスグスと泣きながら若いメイドは、私に謝罪するが… もちろん、悪いのは暴力をふるった夫のほうである。
「まぁ… エリー、そんなことはないわ。 あなたは何も悪くないの… いつも旦那様のために働いてくれてありがとう。 …それとしばらく休んで良いから」
かわいそうに… エリーはまだ15で仕事を始めたばかりだから、ショックだったでしょうね。 このまま辞めたいと言わなければ良いけれど…
使用人たちがその場を去るのを見送ってから… それまで、黙ってそばにいたアルフレッド様にお礼を言った。
「助けていただき、ありがとうございました」
旦那様に首をしめられた時は本気で殺されると思ったわ。
「マリオン… あの老人は、いつもあんな調子なのか?」
「はい。 夫は記憶が混乱していて… 私を前妻のイヴォンヌ様だと思っているのです」
私は疲れはて、夫との惨めな関係をアルフレッド様にかくす気力も無い。
…そんな私の肩に、アルフレッド様は大きな手をのせた。
「そうか… それは辛いな。 今まで良く頑張ったな、マリオン… さっきのも怖かっただろう? 本当に良く頑張った…」
「……っ」
低くおだやかな声でアルフレッド様が、私をねぎらい慰める言葉を聞くうちに、目の奥が熱くなり涙がこぼれた。
私はうつむき、にじみ出る涙を指先で何度もぬぐうが…… 流れる涙が止まることは無かった。
ずっと、誰かに言って欲しかった言葉を… アルフレッド様がくれたのだ。
婚姻の儀式以来、父親と継母が私に会いに来たことはない。 義理の息子夫婦、ベントレー伯爵夫妻もだ。
会いに来たとしても、彼らはきっと… 私が夫の世話をするのは当然だと言うだけだろう。
「うっ…… ふぅ…っ…」
アルフレッド様はズルイ人だわ。 なぜ… 私に優しい言葉をかけるの?
身体を震わせ、嗚咽がもれる唇を手でおさえていると… アルフレッド様は私を抱きよせ、背中をトンッ… トンッ… と、不器用にたたいた。
「マリオン… もう誰もいないから、我慢しなくて良い…」
「……っ」
アルフレッド様… あなたがいるわ。 あなたの前で泣きたくないのに… 涙が止まらない!
どれだけ使用人たちと仲が良くても… 女主人の私は彼らと線を引いて接しなければいけなくて… 弱音をはいたり愚痴をこぼすことは許されない。
だからずっと孤独だった。
「大丈夫だ。 誰も見ていない… マリオン、泣いても大丈夫だ」
「ううっ… うっ……」
私はアルフレッド様の温かい腕の中で泣いた。
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