婚約者に好きな人がいると言われました

みみぢあん

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14話 神殿の中庭で

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 バラスター公爵領の神殿で、3日前に決まったばかりだとは思えないほど、婚約式は何の問題もなく終わった。

 自分が将来の公爵夫人になるのだと婚約式を終えても、いまだに『何かの間違いではないの?』 …と戸惑とまどっている。
 そんな私にお兄様は、『少し話をしないか?』 …と神殿の中庭の散歩へとさそう。



「久しぶりに来たけれど、綺麗ね…」
「花の季節ではないのが残念だよ」

「ここに来るのは何年ぶりかしら? とてもなつかしい気持ちになる」
 子供のころは何度か来たことがある場所で、まるで公爵邸の庭園だと言われてもおかしくないほど美しい。
 それもそのはずで、公爵邸の庭師ガーデナーたちの手で綺麗にととのえられているからだ。

「私も久しぶりに来るんだ」
「あら、元婚約者のレティシア嬢とは来なかったの?」

「来ないよ!」
 珍しくイザークお兄様が、不機嫌な顔をする。

 私に揶揄からかうつもりはなかったけれど、さすがに婚約したてで、元婚約者のことを言うのはルール違反だったわ。 反省。

「…そうなの?」
 ここはいわゆるバラスター公爵領の領民たちの、デートスポットだから。 気がきくイザークお兄様なら、きっと婚約者をつれて来たことがあるだろうと思っていた。 

 池のまん中に女神像がおかれている、小さな池の前までくると… 石造いしづくりの長いすに、2人でならんで腰をおろす。

 この池の女神像の前で、恋人たちが愛の告白や求愛をして、愛がみのると… そのカップルは幸せになれるというウワサがあるのだ

 だから恋人たちの聖地として近隣きんりんの貴族たちのあいだでも有名で… 公爵領の領民たちだけでなく、こっそり貴族たちも、この神殿の中庭におとずれているらしい。

「……」
 以前、元婚約者のエミール様にこの場所のウワサをおしえたけれど… 私の期待に気づかず、彼はここで求愛することなんて、思いつかなかったらしい。

 私がそんなことを考えていると… お兄様がポツポツと本心をこぼすように話した。

「レティシアに何度かつれて来て欲しいと、ねだられたけど… 私は彼女とここに来たくなかったから…」
「…お兄様はレティシア嬢のことが、そんなに嫌いだったの?」

「…アンリエッタ。 いいかげん君も気づいても、良い頃だと思うけど? 君のご両親はとっくに、気づいているのに。 もしかして… わかっていて、言っているのか?」
 イザークお兄様が私の手をキュッ… とにぎりしめ、真剣な眼差まなざしで私を見つめる。
 いつものおだやかな雰囲気ムードはどこにもない。

 私の胸の中で心臓がドクンッ… と大きくはねた。

「何が?」
「私が君の夫になるのは… そんなに嫌か?」 
「え?」
「私は君にとって男としての魅力が… そんなに無いのか?」

「お… お兄様?」
 イザークお兄様が傷ついているように見えた。 

「君はそんなにエミール卿が好きなのか?」


「……っ!」
 また、私の胸の中で心臓がドクンッ… とはねた。




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