15 / 21
14話 神殿の中庭で
しおりを挟むバラスター公爵領の神殿で、3日前に決まったばかりだとは思えないほど、婚約式は何の問題もなく終わった。
自分が将来の公爵夫人になるのだと婚約式を終えても、いまだに『何かの間違いではないの?』 …と戸惑っている。
そんな私にお兄様は、『少し話をしないか?』 …と神殿の中庭の散歩へとさそう。
「久しぶりに来たけれど、綺麗ね…」
「花の季節ではないのが残念だよ」
「ここに来るのは何年ぶりかしら? とても懐かしい気持ちになる」
子供のころは何度か来たことがある場所で、まるで公爵邸の庭園だと言われてもおかしくないほど美しい。
それもそのはずで、公爵邸の庭師たちの手で綺麗にととのえられているからだ。
「私も久しぶりに来るんだ」
「あら、元婚約者のレティシア嬢とは来なかったの?」
「来ないよ!」
珍しくイザークお兄様が、不機嫌な顔をする。
私に揶揄うつもりはなかったけれど、さすがに婚約したてで、元婚約者のことを言うのはルール違反だったわ。 反省。
「…そうなの?」
ここはいわゆるバラスター公爵領の領民たちの、デートスポットだから。 気がきくイザークお兄様なら、きっと婚約者をつれて来たことがあるだろうと思っていた。
池のまん中に女神像がおかれている、小さな池の前までくると… 石造りの長いすに、2人でならんで腰をおろす。
この池の女神像の前で、恋人たちが愛の告白や求愛をして、愛がみのると… そのカップルは幸せになれるというウワサがあるのだ
だから恋人たちの聖地として近隣の貴族たちのあいだでも有名で… 公爵領の領民たちだけでなく、こっそり貴族たちも、この神殿の中庭におとずれているらしい。
「……」
以前、元婚約者のエミール様にこの場所のウワサをおしえたけれど… 私の期待に気づかず、彼はここで求愛することなんて、思いつかなかったらしい。
私がそんなことを考えていると… お兄様がポツポツと本心をこぼすように話した。
「レティシアに何度かつれて来て欲しいと、ねだられたけど… 私は彼女とここに来たくなかったから…」
「…お兄様はレティシア嬢のことが、そんなに嫌いだったの?」
「…アンリエッタ。 いいかげん君も気づいても、良い頃だと思うけど? 君のご両親はとっくに、気づいているのに。 もしかして… わかっていて、言っているのか?」
イザークお兄様が私の手をキュッ… とにぎりしめ、真剣な眼差しで私を見つめる。
いつものおだやかな雰囲気はどこにもない。
私の胸の中で心臓がドクンッ… と大きくはねた。
「何が?」
「私が君の夫になるのは… そんなに嫌か?」
「え?」
「私は君にとって男としての魅力が… そんなに無いのか?」
「お… お兄様?」
イザークお兄様が傷ついているように見えた。
「君はそんなにエミール卿が好きなのか?」
「……っ!」
また、私の胸の中で心臓がドクンッ… とはねた。
362
あなたにおすすめの小説
「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ
間瀬
恋愛
わたくしの愛おしい婚約者には、一つだけ欠点があるのです。
どうやら彼、『きみ』が大好きすぎるそうですの。
わたくしとのデートでも、そのことばかり話すのですわ。
美辞麗句を並べ立てて。
もしや、卵の黄身のことでして?
そう存じ上げておりましたけど……どうやら、違うようですわね。
わたくしの愛は、永遠に報われないのですわ。
それならば、いっそ――愛し合うお二人を結びつけて差し上げましょう。
そして、わたくしはどこかでひっそりと暮らそうかと存じますわ。
※この作品はフィクションです。
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
何度時間を戻しても婚約破棄を言い渡す婚約者の愛を諦めて最後に時間を戻したら、何故か溺愛されました
海咲雪
恋愛
「ロイド様、今回も愛しては下さらないのですね」
「聖女」と呼ばれている私の妹リアーナ・フィオールの能力は、「モノの時間を戻せる」というもの。
姉の私ティアナ・フィオールには、何の能力もない・・・そう皆に思われている。
しかし、実際は違う。
私の能力は、「自身の記憶を保持したまま、世界の時間を戻せる」。
つまり、過去にのみタイムリープ出来るのだ。
その能力を振り絞って、最後に10年前に戻った。
今度は婚約者の愛を求めずに、自分自身の幸せを掴むために。
「ティアナ、何度も言うが私は君の妹には興味がない。私が興味があるのは、君だけだ」
「ティアナ、いつまでも愛しているよ」
「君は私の秘密など知らなくていい」
何故、急に私を愛するのですか?
【登場人物】
ティアナ・フィオール・・・フィオール公爵家の長女。リアーナの姉。「自身の記憶を保持したまま、世界の時間を戻せる」能力を持つが六回目のタイムリープで全ての力を使い切る。
ロイド・エルホルム・・・ヴィルナード国の第一王子。能力は「---------------」。
リアーナ・フィオール・・・フィオール公爵家の次女。ティアナの妹。「モノの時間を戻せる」能力を持つが力が弱く、数時間程しか戻せない。
ヴィーク・アルレイド・・・アルレイド公爵家の長男。ティアナに自身の能力を明かす。しかし、実の能力は・・・?
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
私はあなたの前から消えますので、お似合いのお二人で幸せにどうぞ。
ゆのま𖠚˖°
恋愛
私には10歳の頃から婚約者がいる。お互いの両親が仲が良く、婚約させられた。
いつも一緒に遊んでいたからこそわかる。私はカルロには相応しくない相手だ。いつも勉強ばかりしている彼は色んなことを知っていて、知ろうとする努力が凄まじい。そんな彼とよく一緒に図書館で楽しそうに会話をしている女の人がいる。その人といる時の笑顔は私に向けられたことはない。
そんな時、カルロと仲良くしている女の人の婚約者とばったり会ってしまった…
婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。
彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う!
「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」
「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」
貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。
それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム!
そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。
ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。
婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。
そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!?
「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」
復讐も愛憎劇も不要!
ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!?
優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!
契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様
日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。
春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。
夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。
真実とは。老医師の決断とは。
愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。
全十二話。完結しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる