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15話 神殿の中庭で2 イザークside
しおりを挟むアンリエッタがエミール卿と婚約をしたとき… 私は自分の気持ちに気づいた。
母上は私とアンリエッタを結婚させようとしていたようだが…
『格上のバラスター公爵家に嫁げば、アンリエッタは苦労するはずです』
…と、フェアウェル子爵に、私との婚約は断わられてしまう。
私は婚約を断わられたことに、最初は少しも痛みを感じなかった。
だが…
『ふふふっ… イザークお兄様、私の婚約者のエミール卿を紹介します』
『初めまして… イザーク卿。 アップトン男爵家のエミールです……』
エミール卿と仲よく手をつなぎ、アンリエッタが無邪気に笑う。
『…初めまして』
それまで私にむけられていたアンリエッタの好意が、エミール卿に奪われたのだと知り、私に強い嫉妬心がうまれた。
私は初恋で失恋したのだ。
そんな私の気持ちに気づいた父上に諭される。
『彼女はお前のモノにはならないのだから。 お前の好意を知られないようにしなさい』
『なぜですか、父上?』
『お前を慕うアンリエッタ嬢から笑顔を奪い、苦しめることになるからだよ』
私は父上の教えを守った。
学園を卒業し成人の儀を受け、社交活動を始めたころ、私にも婚約者ができる。
そのころになると、アンリエッタへの気持ちも落ちつき、兄のように見守ることに何の苦痛も感じなくなっていた。
『イザーク! 婚約者の私だけを見てくれなければ嫌よ!』
『レティシア嬢…』
『あなたはステキだから、たくさんの女性が、私からあなたを奪おうと近寄って来るわ。 それが嫌なの』
『君の望みをかなえられるよう努力するよ』
口ではそう言ったが… レティシアのわがままに振りまわされ、うんざりしていた。
元婚約者のレティシアは私の周囲にいる女性全員に敵意をむけた。 お茶をはこんできた若い使用人にまでだ。
同じ女性なのに、なぜこうもアンリエッタとちがうのか? アンリエッタが特別なのか?
胸の奥に封印していた思いが… また、熱くなった。
神殿の中庭で話しているうちに… 長年、胸の中に押しこめて来た思いが、いっきにあふれだす。
「私は君にとって男としての魅力が… そんなに無いのか?」
「お…お兄様?」
「君はそんなにエミール卿が好きなのか?」
「……っ!」
「アンリエッタ、答えてくれ!」
私が追いつめたせいで、アンリエッタが怯えているのがわかる。
…それでも、今こそ本音で話し合わなければ、私の思いはアンリエッタにとどかず、いつまでたっても兄のままだ。
エミール卿のような失敗はしたくない。
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