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18話 奇妙なウワサ
しおりを挟む留学の準備のため、学園を退学した私は… 学園から帰って来た弟のリシャールに、元婚約者のエミール様とレティシア嬢が婚約したと聞かされる。
「なんですって?! 悪い冗談だわ、リシャール」
自分の耳をうたがった。
「冗談ではありませんよ、姉上。 僕もそう思って… エミール卿の従弟にたずねてみたら、本当に2人は婚約したと言っていました」
「まぁ…… それにしても、変な組み合わせね?」
「そうなのです、姉上。 すごい格差ですよね!」
エミール様のアップトン男爵家は、3代前の当主がお金で爵位つきの土地を買って、貴族の仲間入りをした、まだまだ新参の男爵家。
それに対するレティシア嬢のロスモア伯爵家は、長い歴史のある名門中の名門。
王家に近い、バラスター公爵家のイザークと婚約していたぐらいだから。
「私とイザークぐらい格差があるわ」
いかにも、何かあるという組み合わせだわ。 気になる。
「それで… エミール卿とレティシア嬢に関する奇妙なウワサが流れていて…」
「奇妙なウワサ?」
「はい。 それが… 2人は… その、姉上と婚約していたころから愛しあっていて、学園で密会をくりかえしていたという話です」
「……2人が愛しあっているかは、聞いてみないとわからないけれど。 でも、私をだましてイザークとの関係を、聞きだそうとしていた時は… 2人は確かに密会していたはずだわ。 それを誰かに見られたのかしら?」
「なるほど! そうかもしれませんね。 それで『自分たちが結婚するために、エミール卿は姉上との婚約破棄を企てた』 …というウワサに発展したのかも?」
好奇心まるだしで、瞳をキラキラとさせる弟のリシャールに… 私は苦笑する。
「あらあら… 陰謀説まで出ているの?」
ウワサの真相が知りたくて、活発に社交活動をするお母様にたずねると…
「それならイザーク卿に聞きなさい」
「イザークに… ですか?」
「ええ。 その話は彼の方が、よく知っているから」
なぜかお母様はニヤリ… と意地悪そうな笑みをうかべる。 確実にお母様は何かを知っている。
私はお母様に言われた通り、イザークから真相を聞きだそうと、バラスター公爵家へ行く。
「ああ、その話か。 なんだもう、君の耳にまでとどいたのか」
「ええ、弟が学園でウワサになっていると言っていたわ」
「うん。 実は君が『悪女』だとウソの醜聞を広げたエミール卿に、激怒した母上がね… 逆に彼らの醜聞を作って広げたんだよ」
「醜聞を作った? 公爵夫人が?!」
わぁ~ 驚いた。 信じられない!
「うん。 母上を怒らせると、本当に怖いんだ… 君も気をつけるんだよ」
…と言いながら、イザークはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。 私のお母様と同じ反応だ。
私はコクッ、コクッ… とうなずいた。
「もう、イザークったら… 本当は自分も一緒に醜聞を流したのではないの?」
「ふふふっ… 聞きたい?」
「ええ、聞きたいわ」
「だったら、ほら! おいで」
イザークは居間のソファに座り、自分の膝をポンッ、ポンッ… とたたく。
自分の膝に座れと、私に催促しているのだ。
「イザーク! 私はもう、小さな子供ではないのよ」
「でも、話の続きを聞きたいだろう? だったら、先に報酬をくれないとね」
「もう…!」
好奇心をおさえられなかった私は… 結局、イザークの膝に座り、長い腕でガッチリと抱きしめられた。
「それで?」
「うん。 嫉妬を燃やすレティシアにうんざりした私は、彼女を無視し続けた。 それで傷ついた彼女は、エミール卿に慰められるうちに、2人は愛しあうようになった。 ……と友人知人に聞かれたら話すようにしたんだ」
その醜聞を知ったロスモア伯爵は、娘をアップトン男爵家にあわてて嫁がせることを決めたのだ。
「なるほど… でもエミール様にはその話がご褒美だったみたいよ?」
「ご褒美?」
「ええ。 弟の話だと… エミール様はレティシア嬢と婚約できて、大喜びしていたと… 彼の従弟が話していたらしいわ」
本当に最低。 エミール様は私を愛していると言っていたクセにね。
まぁ、私もイザークと婚約して、今は良かったと思っているから、おたがいさまだけど。
「エミール卿はレティシアのわがままが、怪物級だと知らないからな」
「怪物… 級?」
「プライドの高いレティシアが、数段も格下の男爵家に嫁ぐことになったのに… おだやかでいられると思う?」
「ああ! 確かに。 イザークの話を聞いただけでも、レティシア嬢はかなり、激しい性格のようだから……」
想像すると、うんざりする。
「喜んでいられるのは今だけさ。 きっとエミール卿は、地獄を見ることになるだろうね」
イザークはそう言うと、また意地悪そうにニヤリと笑う。
そして… エミール様に浮気をされて傷ついた私は、『イザークに慰められるうちに、2人に愛が芽生え婚約した』 …という話をウワサにつけくわえ……
イザークと公爵夫人は、社交界で私をロマンチックなヒロインに仕立てあげた。
バラスター公爵家の影響力は、それほど大きいのだ。
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