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19話 留学
しおりを挟む私の隣国への留学期間は緊張の連続で… 想像以上にきびしい2年間となった。
私がお世話になった王弟殿下は、とても思慮深く物静かな男性だけど… 伯母様(妃殿下)は、王弟殿下の2倍パワフルで豪快な女性だった。
『甥の婚約者なら、私の姪だわ』 …と、私が妃殿下と呼ぶと怒られるので、伯母様と呼ばせてもらっている。
「イザークのお嫁さんになるのなら… 王族とかかわる経験をたくさん積まないと、アンリエッタはきっと苦労するわ」
…と伯母様は、隣国で通っていた学園が休日になると、私を自分の公務に同行させたり。
元王女殿下の侍女だった、お母様仕込みの礼儀作法が、しっかり私にも身に付いていると知ると… なんと伯母様は……
「あなたと年の近い、第3王女殿下のお話し相手になってあげて。 王子殿下とはちがい、あの子は王宮を出ることができないから、友だちがいないのよ」
つまり王女殿下は私のように、学園に通うことも許されないのだ。
私は伯母様の指示で王宮の出入りを許されたが、王族どうしの権力争いをまぢかで目撃することとなり… 何度もヒヤリッ… とするような経験をした。
「お… 伯母様。 今日は本当に生きた心地がしませんでしたわ」
「あら、今日は何があったの?」
「それが… 仲が悪い王妃様と側妃様から、お2人同時にお茶に招待されました。 私、どちらの招待を受ければ良いかわからなくて……」
晩餐の席で昼間あったことを報告すると… 伯母様にカラカラと笑われた。
「ああ、あの2人ね。 私に媚びを売りたい人たちだから」
晩餐の席には招待されたイザークと王弟殿下もいて… 伯母様と私の会話を、おだやかにほほ笑みながら聞いていた。
夫妻の御子様は、すでに2人とも外国へ嫁いでいる。
「今日は伯母様との約束があるからと… お断りしましたが…」
「それで良いわ。 どう? 王族って怖いでしょう。 でもアンリエッタも公爵夫人になれば、こういう経験をするようになるのよ」
伯母様の教えかたは、とてもきびしく乱暴に見えるが… 短期間で学ばなけれがいけない私には、とても有効なのだ。
「はい。 イザークからもそんな話を聞きました」
帰国すればイザークは王太子殿下の側近になる。 そうなると私も、自然と王族とかかわることになるから。 これは必要な経験だわ。
むかいがわに座るイザークと目が合い、ニコリッ… とほほ笑まれる。 『よくがんばったね』 …と労われているとわかり、私もほほ笑み返す。
イザークが一緒についてきてくれて、本当に良かった。 おかげで私は、この試練に挫折しないで踏みとどまっていられる。
ほほ笑み合う私たちを見て、伯母様と王弟殿下もニコリッ… と笑う。
「度胸と判断力を身につけるための訓練だと思いなさい。 素質はじゅうぶんあるから、あなたならできるわアンリエッタ」
「はい。 伯母様、がんばります」
「ふふっ… 良い娘ね」
「何かあっても大丈夫だよ。 私たちがしっかり守ってあげるからね」
「ありがとうございます、王弟殿下」
―――2年後。
王弟殿下と、伯母様。 お友だちとなった第3王女殿下。 そして有意義な経験をさせてくれた王家に、敬意と親愛をあらわし…… 私は成人の儀式を母国ではなく、隣国で受けることにした。
母国で暮らしていたら、絶対にできなかった経験をたくさんして、 私は自分に少しだけ誇りを持てるようになった。
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