4 / 12
3話 誓いのキス
しおりを挟むマグノリアは見つからず、ビオレータは神様の前でクロードの隣に立っていた。
「誓いのキスを!」
厳かな空気の中で、神官の声がひびき… ビオレータは身体をこわばらせる。
「・・・っ」
ここまではベールで顔を隠していたから、隣に立つクロード様に私が妹のビオレータだと、知られずにすんでいたけれど… さすがにキスのために、ベールを上げたら……?!
クロードがキスのために、花嫁のベールを上げようと、手をあげた。
ビオレータの顔を隠すベールを、クロードがあげる前に… ビオレータは思いきって、自分の手でベールをあげた。
瞳が見えないよう注意して… 鼻のところのギリギリまで。
「・・・っ?」
ビオレータの態度にあきれたらしく… ハァ―――ッ… とクロードはため息をつきながら、いったん手を下ろして… ビオレータの腕に軽く手をそえて、キスをした。
ビオレータの唇にではなく… 頬に。
ベッタリとビオレータの唇にぬられた、真っ赤な口紅が自分の唇につかないよう… クロードは頬にキスをしたのだ。
「はははっ… 君の化粧、濃すぎないか?! それに香水をつけすぎだよ! 臭くて隣にいると気持ち悪いぞ?!」
ビオレータの耳にそっと唇をよせて、おかしそうに笑いながら… ヒソヒソとクロードはビオレータを揶揄った。
「/////////っ!!」
一瞬でビオレータの顔が真っ赤にそまる。
「おいおい、マグノリア… 顔を赤くしたりして、緊張しているのか?! 君らしくないぞ? いつもの元気はどうした? んん?」
クロードは気楽にビオレータを揶揄い続けた。
「・・・・・・」
確かに… スミレの香水をつけ過ぎて、私も臭くて気分が悪いわ……? だから、私をエスコートするクロード様は、香水のきつい香りが嫌で私から少し離れているのね?
母親が言ったとおり… クロードは自分の目の前に立つ花嫁が、ビオレータだと気づいていない。
ホッ… としたけど… ビオレータは涙がこぼれそうになり、うつむいた。
「・・・っ」
花嫁の姿で、愛するクロード様の隣に立つことが、こんなにつらいとは、思わなかった!
私をマグノリアお姉様だと、思っているクロード様は… 普段は私の前では見せない、素のままの自分をだしている。
クロード様のかざらない言葉がその証拠だわ…!
子どもの頃は私にも、こんな姿を見せてくれたのに、クロード様は他の令嬢たちと同じように、私を礼儀正しくあつかうようになった。それがどれだけ寂しかったか!
クロードにエスコートの手を差しだされ… ビオレータはクロードの大きな手をジッ… と見つめた。
「こらっ! ボー… とするなよ、マグノリア?!」
「・・・っ」
クロード様にとって特別なのは、マグノリアお姉様だけで… クロード様はお姉様を愛しているからなのね…? だから子供の時と変わらない、少しだけ意地悪で、悪戯っ子のような笑顔を見せてくれる。
ビオレータの胸が、ナイフで切り裂かれるように痛んだ。
「今日は本当にきげんが悪いな? 腹でも減っているのか、マグノリア?!」
「・・・・・・」
静かに首を横にふり、ビオレータは淑女らしくクロードが差し出したエスコートの手に触れた。
「もう少しだけ、がまんしてくれ?」
クロードはビオレータの手をトントンとなだめるようにたたく。
ビオレータは黙ってうなずいた。
「・・・・・・」
私は、お姉様が帰って来たら… 恨んでしまうかも知れない…!
自分の結婚式で、時間稼ぎに私を見代りに使うなんて… こんな残酷なことをする、マグノリアお姉様が嫌いになりそうだわ!
花嫁のベールの下で、小さな涙のつぶが、ビオレータの頬をつたって落ちた。
75
あなたにおすすめの小説
王子様の花嫁選抜
ひづき
恋愛
王妃の意向で花嫁の選抜会を開くことになった。
花嫁候補の一人に選ばれた他国の王女フェリシアは、王太子を見て一年前の邂逅を思い出す。
花嫁に選ばれたくないな、と、フェリシアは思った。
望まない相手と一緒にいたくありませんので
毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。
一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。
私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
【完結】イアンとオリエの恋 ずっと貴方が好きでした。
たろ
恋愛
この話は
【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。
イアンとオリエの恋の話の続きです。
【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。
二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。
悩みながらもまた二人は………
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる