“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました

みみぢあん

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3話 誓いのキス

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 マグノリアは見つからず、ビオレータは神様の前でクロードの隣に立っていた。


「誓いのキスを!」

 おごそかな空気の中で、神官の声がひびき… ビオレータは身体をこわばらせる。

「・・・っ」
 ここまではベールで顔を隠していたから、隣に立つクロード様に私が妹のビオレータだと、知られずにすんでいたけれど… さすがにキスのために、ベールを上げたら……?! 

 クロードがキスのために、花嫁のベールを上げようと、手をあげた。

 ビオレータの顔を隠すベールを、クロードがあげる前に… ビオレータは思いきって、自分の手でベールをあげた。
 瞳が見えないよう注意して… 鼻のところのギリギリまで。

「・・・っ?」
 ビオレータの態度にあきれたらしく… ハァ―――ッ… とクロードはため息をつきながら、いったん手を下ろして… ビオレータの腕に軽く手をそえて、キスをした。
 ビオレータの唇にではなく… ほほに。

 ベッタリとビオレータの唇にぬられた、真っ赤な口紅が自分の唇につかないよう… クロードはほほにキスをしたのだ。

「はははっ… 君の化粧、濃すぎないか?! それに香水をつけすぎだよ! くさくて隣にいると気持ち悪いぞ?!」
 ビオレータの耳にそっと唇をよせて、おかしそうに笑いながら… ヒソヒソとクロードはビオレータを揶揄からかった。

「/////////っ!!」  
 一瞬でビオレータの顔が真っ赤にそまる。

「おいおい、マグノリア… 顔を赤くしたりして、緊張しているのか?! 君らしくないぞ? いつもの元気はどうした? んん?」
 クロードは気楽にビオレータを揶揄からかい続けた。

「・・・・・・」
 確かに… スミレの香水をつけ過ぎて、私も臭くて気分が悪いわ……? だから、私をエスコートするクロード様は、香水のきつい香りが嫌で私から少し離れているのね? 

 母親が言ったとおり… クロードは自分の目の前に立つ花嫁が、ビオレータだと気づいていない。

 ホッ… としたけど… ビオレータは涙がこぼれそうになり、うつむいた。
 
「・・・っ」
 花嫁の姿で、愛するクロード様の隣に立つことが、こんなにつらいとは、思わなかった!
 私をマグノリアお姉様だと、思っているクロード様は… 普段は私の前では見せない、素のままの自分をだしている。
 クロード様のかざらない言葉がその証拠だわ…!
 子どもの頃は私にも、こんな姿を見せてくれたのに、クロード様は他の令嬢たちと同じように、私を礼儀正しくあつかうようになった。それがどれだけ寂しかったか!

 クロードにエスコートの手を差しだされ… ビオレータはクロードの大きな手をジッ… と見つめた。

「こらっ! ボー… とするなよ、マグノリア?!」

「・・・っ」
 クロード様にとって特別なのは、マグノリアお姉様だけで… クロード様はお姉様を愛しているからなのね…? だから子供の時と変わらない、少しだけ意地悪いじわるで、悪戯いたずらっ子のような笑顔を見せてくれる。

 ビオレータの胸が、ナイフで切り裂かれるように痛んだ。

「今日は本当にきげんが悪いな? 腹でも減っているのか、マグノリア?!」

「・・・・・・」
 静かに首を横にふり、ビオレータは淑女しゅくじょらしくクロードが差し出したエスコートの手に触れた。

「もう少しだけ、がまんしてくれ?」
 クロードはビオレータの手をトントンとなだめるようにたたく。
 ビオレータは黙ってうなずいた。


「・・・・・・」
 私は、お姉様が帰って来たら… うらんでしまうかも知れない…!
 自分の結婚式で、時間かせぎに私を見代みがわりに使うなんて… こんな残酷ざんこくなことをする、マグノリアお姉様が嫌いになりそうだわ!

 花嫁のベールの下で、小さな涙のつぶが、ビオレータのほほをつたって落ちた。






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