“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました

みみぢあん

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9話 クロードの宣言

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 気まずい空気の中で、コホンッ…! コホンッ…! とクロードは軽くせきばらいをした。


「理由は何であれ、マグノリア… 君が私との結婚式から、逃げ出したことに変わりない」
「だから、それはあなたのせいで……っ…」

 クロードに反論しようとする、マグノリアの言葉をさえぎるように… ジロリッ… とにらみクロードは手を上げてマグノリアを制する。

「そういう話は、結婚式という… ソールズ伯爵夫人として、絶対に成功させなければいけない、最初の義務を放棄ほうきしていなければ、話し合いで解決できた問題だ! だが、今はもう何もかも、おそいんだマグノリア!」

 長いあいだ、クロードは婚約者のマグノリアをソールズ伯爵夫人の重責にたえらえるように、淑女しゅうくじょらしい礼儀作法を正確にまなび、将来マグノリア自身が苦労しないようにと… 完璧に身につけろと、くりかえし注意してきた。
 妹のビオレータはすぐ近くにいて、良い手本になるからと、クロードなりに愛情をもってマグノリアに言い続けたが… 結婚式を逃げ出したときに、マグノリアは婚約者の資格を失ったのだ。

 たとえ、ビオレータの純潔じゅんけつを奪わなかったとしても、クロードはマグノリアを妻にする気はなかった。

 それまでの紳士的でおだやかな態度を、完全にすてたクロードには、ソールズ伯爵の威厳いげんが満ちていた。

「待って、クロード…?!」
 興奮して頭に血がのぼり、感情をおさえられずにいたマグノリアから… 急激に熱が冷める。
 いつもとは違い、クロードからまったく優しさを、感じとれなくなったマグノリアはおびえてしまう。


「私の花嫁はビオレータだ! 昨日、初夜をすませて… 私はビオレータの純潔じゅんけつを奪っている… さっき、マグノリアと私の婚約を決めた父上にも、ビオレータを妻にする許可をもらっています!」
 クロードはそこまで行って、デントン夫妻を見た。

「お2人とも、申しわけありません…! どうか私に、ビオレータを妻に下さい!」
 マグノリアやデントン夫妻の前で、クロードは隣に立つビオレータの、細い腰を抱きよせた。

 ハッ… と息をのむマグノリア。


「・・・・・・」

「まぁ… ビオレータ、あなた… 本当なの?」
 父親のデントン氏は言葉を失い… デントン婦人はほほを赤くして、ビオレータにたずねる。


「・・・っ」
 ビオレータは顔を真っ赤にして、小さくうなずく。



 デントン夫妻はビオレータとクロードの結婚を許可した。





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