悪役令嬢はゲームのシナリオに貢献できない

みつき怜

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番外編 エクシオウルの星屑文書 

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 息苦しさに縋るように、イスハークのはだけたシャツを握りしめる。気をよくしたイスハークはますます深くハティスの中に入ってくる。
 
「ん……ハティス、もっとだ。はぁ、もっと舌を出して、そう」

「は、ふっ……んぅ」
 
 くちゅくちゅと執拗に舌を絡められ、ようやくイスハークの唇が離れると、つ……と銀糸が二人を繋いだ。
 
 力が抜けたハティスを寝台にうつ伏せにすると、夜着を取り払って肌を暴く。全身に口づけて時々思い出したように強く吸いつき、甘く噛みついて、所有の痕を残していく。背中をなぞっていた手が柔らかな胸を揉みしだく。
 
「ハティス。ああ、ハティス……ずっと、あなたに触れたかったよ。私にそっけなくするあなたを犯したくて、おかしくなりそうだった。あなたはどこもやわくて美しいな……」
 
「私を、無視したのは殿下……あ、んっ」
 
 肩を強く噛まれ、胸の先端をきゅっと摘まれて思わず声が零れた。

「あなただけだ……ずっとあなたを愛している。あの女を騙すため、冷たくしてきたことは謝ろう。だがもう誰にも邪魔はさせない」
 
 不意に腰を持ち上げられて、一度も触れられたことがない場所にイスハークが触れる。少し濡れたそこに指を入れて、ゆっくりと動かす。繊細だと思っていた長い指は節くれだってごつごつしていた。

 指を挿抜させながら聞かせるように音を立てて、舐められて。羞恥心を煽られると、声を抑えるのはもう無理だった。
 
「あ……っ、ん、いやっ、触ら、ないで……っ」
 
「気持ちがいいか、ハティス……?もっと時間をかけて解してやりたいが、もう限界なんだ」
 
「は、ふぅ……っ」
 
 寝台に顔を伏せたまま、呼吸を整えようとするハティスに硬く熱いものが当てられた。

 それがなにかわかってしまったハティスは逃れようとする。イスハークがすぐに上から覆い被さる。
 
「あ、放して、やめてくださいっ」

「ハティス愛してる、愛してるんだ。私を受け入れてくれ」

「い、いや……っ、いやぁああ」

「はっ、あ……」

 濡れて硬く張りつめた陰茎を後ろから数回擦りつけると、一気に貫いた。自慰の比ではない愉悦にイスハークは身体を震わせ、ハティスは身体をぴくんと反らす。破瓜の痛み。次々に与えられる屈辱。

 もう、なにも考えたくなかった。
 
(これが終われば、殿下も気が済んで私を解放してくれる……)

 心の中でそう繰り返して、目を固く閉じたハティスは自分を励ましつづける。

 ゆるゆると動いていた腰はすぐに激しい律動に。やがて痛みは、甘い痺れになっていた。

 激しく後ろから揺さぶられ、ハティスは喘ぎ声を抑えることができない。イスハークもまた淫声を上げる。
 
「ふ、あんっ、そこぉ……っ、いいっ、いいの!い、いやっ、違う、だめぇ」
 
「は……っ、どっちだ?もっと、ほしい?ああ、ハティス、ハティス、愛してる。名を、私の名を呼べ、もっと私をほしがれ」

  
 目を閉じていたら終わるはずだった。それなのに。


 はしたない身体は快感を拾ってしまう。

 嫌なのにどうして。

 拒絶する心とは反対に、身体はイスハークを受け入れてしまった。もう色んな感情がぐちゃぐちゃで、涙が止まらない。

 他に縋れるものなんてなにもない。夢中になって、その名を呼んでいた。
 
「あ、イスハーク、イスハークっ」

「そう、そうだ。もっともっとだ、ハティス……」 
 
 顎を掬われ後ろを向くとねっとりと口づけられた。腰を掴まれ激しく犯される。
 
「はふっ、ん、ふぅ……っ」

「ん、私のだ、ハティス、誰にもやらない……出る、孕め、ハティス……っ」

「あ、いやっ、あぁ……っ」

「私を、拒むな、……っう、ハティス!」
 
 二人はずっと溶け合うように重なっていた。身体を震わせるハティスをイスハークは執拗に抱きしめて、いつまでも離さなかった。
 
 纏わりつくようなイスハークの息遣いを感じながら、窓の外、見上げた夜空に浮かぶ月と星が涙で滲む。
 

 まるで星が堕ちてきたみたい。

 違う、堕ちたのは私……
 





 
「――陛下、僕のかわいい妹になにしてくれてるんですか」

 じっとりと軽蔑した目を向けられた、イスハークの表情は変わらないが、見せていないだけでかなり動揺していた。
 
「落ち着け、ディライル。私ではない。いや私だが……いやいやいや違う。私を責めるな」
  
「ここに書かれているのは陛下の御名でしょう?なんですこれ?これとかこれとか、陛下はこんないやらしいことまでハティスに強要したのですか。最低だな……!」
  
「よせ、だから違うと言っている。私だが、それは私ではない……まさか他人の妄想で責められるとは思わなかった。お前、わかって揶揄っているのだろう?」
 
「ははは、いつになく焦る陛下が面白くてつい。酷いだろうと予想していたけど、ここまでとは思いませんでした」

「はぁ――……私だけでも、これはまだほんの一部だ」
 
 すっかり疲弊したイスハークは顔を手で覆い、執務机にうなだれた。
 


 二人が目を通したのは取り調べでアレイナが語ったという「ゲームのシナリオ」

 その内容にイスハークとエディは戦慄した。しかも自白剤は飲んでいないと報告を受けている。正気の人間が語るような内容ではない。



「よろしいですか、陛下。あいつの目には絶対に触れないようにしましょう」

「無論だ」

 頷いたイスハークは彼にしてはめずらしく、悩ましげに美しい顔を顰めた。

 こんなものがレヴェントに知られたら、彼の怒りに触れること間違いなし。全てまとめて禁書にしよう、イスハークは決めた。


 二人は机に置かれた報告書を見て、それから視線を交わし、再び無言で視線を逸らした。



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