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第一章 ハロー、旦那様。
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しおりを挟む重厚感のある木製のエレベーターは滑るように登り、心地良い”チン”の音で到着を告げた。エレベーターが開いた瞬間からそこは別世界で、薄暗いホールをそのまま進むと男性が立っていた。四十代前半くらいの男性は艶のある髪をオールバックに撫でつけていて、眼鏡の奥に張り付いた仮面のような笑みを浮かべて迎えてくれた。
「お待ちしておりました。大谷様」
「こんばんは。突然すみません」
「どうぞ」
しっとりと落ち着いた声と流れる様な案内で、店内に足を踏み入れるとそこは様々なお酒の瓶が綺麗に並び、落ち着いた雰囲気のBARだった。カウンター席が十席とテーブル席が三つあり、カウンターの中ではマスターがこちらに向かって頭を下げていた。お客さんは二組いて、どちらも男女のカップルが肩を寄せてカウンター席に座っている。深みのある店内は手入れが行き届いており、格式の高さに少し身震いした。
「大丈夫?」
右頬が指でぐいっと押されて我に返ると、眼前で綺麗な二重と目が合う。頬っぺたが歪み唇がひょっとこみたいになっているけれど、そんなこと今はどうでもよかった。それよりも息が詰まる程の至近距離に、思わず唾を飲み込む。綺麗な茶色の瞳に、視線を左右に揺らして戸惑う自分が映っている。
「ごめんなさいっ。余りにも夢の様で」
「___現実ですよ」
いつの間にか握られていた手を引かれて、奥のテーブル席に促された。ピンと張られた本革のソファに座ると、隣に彼が座りこちらを向く。
「自己紹介が遅れました。僕は大谷匠と申します。貴女の名前もお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、はい。私は白石亜子です。・・・あの、どこかでお会いしましたか?」
「いえ、初めてです」
そう言って長い脚に肘を付いて顔を覗きこまれると、言葉が上手く出てこない。
「僕たちお互いに何も知らないけれど、取り合えず敬語やめませんか? 多分、僕のほうが年下なんで」
「そう、なんだ。えっと私は二十七歳なんだけど、匠くんは「十八」
「___え?」
「十八歳です」
時が止まった、気がした。
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