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第一章 ハロー、旦那様。
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しおりを挟むどうしてこんなことに・・・?
見上げた天井からはシャンデリアがぶら下がっているけれど、もうときめくことはない。それどころじゃないの。
「亜子ちゃん。僕がそんなに嫌?」
うるうると瞳を潤ませて、眉を下げて見下ろしてくる匠くんになんと返したら良いのかわからない。取り合えず横になりたいと言った結果、何故か彼の膝枕で休んでいるわけであります。
「いや、とかそういう問題じゃなくて・・・。ほら、親御さんとか、ね?」
「うん。だから婚姻届けにちゃんとサイン貰って出したよ」
「・・・」
「僕は未成年だけど結婚出来る年齢だし、もちろん受理された今では僕たちは何したって許されるよ。亜子ちゃんは犯罪者にはならないし、僕が幸せにするんだ」
昨日の今日で結婚するからサインくれで、サインを書く親とは一体・・・。問題は色々とある。きっと匠くんは子どもだから、結婚に憧れて突っ走っているだけ。
「あのね、匠くん。夫婦になるってことは、二人で大人として生活していかなくちゃいけないの。親に頼らずに。まだそんなこと出来ないでしょう?」
なるべく落ち着いた声で、自分にも言い聞かせるようにゆっくりと話した。考えながら話すときの癖で目を閉じていた為、反応を見るために瞼を開く。口角を上げて見下ろしている匠くんの表情に焦りはない。確かに、始めから今までずっと焦っているのは私だけだ。
「僕は確かに家族の恩恵を受けている身だよ」
匠くんの伏せた瞳は私の額から髪に移り、伸びてきた手で髪を梳かれる。微笑みながらも悲しみが見え隠れしている匠くんを見ると、もっとオブラートに包んで言うべきだったかもしれない。罪悪感がチクチクと胸を刺す。それでも、結婚とはこれからの人生を変えてしまうことだ。未来のある匠くんの足枷になりたくない。
「それでも、僕は亜子ちゃんがいいんだ。色んなものをすっ飛ばしていることはわかっているよ。僕は一生をかけて亜子ちゃんを幸せにする。付いてきてくれませんか?」
見下ろしてくる眼差しは真剣で、まるで学生時代の恋愛を思い出す。この人と結婚するんだと信じて疑わなかった、ただ好きの気持ちだけで居られたあの頃を。
「匠くんは私の何にそんな?」
「それはこれからたくさん伝えていくよ。これから過ごす日々で、僕はきっともっと亜子ちゃんに惹かれていく。そこに亜子ちゃんの気持ちも比例していくように、僕も努力する」
真っすぐな言葉に嘘はないだろう。私は、この人と幸せになれるのだろうか。今一度見上げた匠くんは、頼りない年下の青年ではない。トクトクとリズムを刻む自分の胸に問う。この胸の高鳴りは、信じても良いのでしょうか。
匠くんは口を噤んで、私の言葉を待っているようだった。髪を梳いていた手は頬を包み込むように添えられて、親指が私の唇を撫でている。触れたりギリギリを掠めたり、くすぐったく焦らされているみたい。
「っ・・・」
心に従おうと思った。ジャケットの襟を掴んで引き寄せて口付けた。触れるだけのキスなのに久しぶりの身体は緊張で震えてしまい、バレる前に離れた。返事はこの真っ赤に火照った顔で解釈して貰えませんか?
直ぐにお返しが降ってくる。油断していた唇は簡単に割り開かれ、息苦しくなる程のキスに胸を押し返す。華奢に見えてしっかりと筋肉の付いた胸板はビクともしなくて、そのまま抱き締められながらキスをした。誰にも見届けられない、二人だけの誓いのキスを。
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