Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ

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第四章 陰りに、染まる。

4-3

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 自宅前まで送って貰ってから田村さんとは別れた。田村さんもマンションを見て驚いていたから、やっぱりここは普通じゃないんだと思う。
 冷たい風が寒くて、グレーのパーカーのポケットに手を突っ込む。

「あ、これ・・・」

 指先に触れたのは、ポケットに入れたまま返しそびれていたハンカチ。田村さんを思えば少し強くなれる気がしてぎゅっと握り締める。ちゃんと聞いてみよう。匠くんの気持ち。

「あらぁ! 久しぶり。最近見なかったじゃない」

 急にポンと背中を叩かれてビクリと肩を揺らす。振り向いた先には見たことも無い女性が立っていて、私の心中とは反対に親しげに笑いかけてくる。

「え、と・・・」

「あら忘れちゃったの? 前にここで私の犬が逃げたときに、一緒に追いかけてくれたじゃない」

 前とはどのくらい前の話だろうか。私がここに引っ越してきてから二週間程だけれど、そんなハプニングが起きた記憶はない。そして感じるデジャヴ。

「それ私でしょうか?」

「そうでしょう。髪もそんな感じだったし、そうだったと思うけど。アレでしょう? 大谷くんのところの」

 大谷と言われればそうだ。しかしたった二週間の出来事を忘れることがあるだろうか。

「あらぁ・・・でも、なんだか今日はラフねえ。もっと女の子らしい感じだった気がするんだけど。もしかしたら違うかもしれないわ。もう一年以上前だし、私の記憶違いかも。ごめんねえ」

「いえ、よくあるので」

「じゃあね」

「・・・」

 女性は「おほほほ」と笑いながら嵐のように去って行き、ぽつんと残された私の心はざわついていた。
 ただの人違いじゃないか。平凡顔あるあるなんだ。あるあるなんだけれど、大谷の名前が出てきたことが引っかかって仕方がない。大谷という苗字だって言ってしまえばあるあるで、同じ苗字の人なんて五万といる。だから偶然が重なっただけ。

「亜子ちゃん」

 立ち尽くしていた私の背中に投げられた言葉に振り返ると、そこにはスーツを着た匠くんが立っていた。こちらを見下ろしている瞳には疲れが覗いていて、横に結ばれた口元には憤りが宿っている。

「匠くん・・・、えと、早かったね」

「何してるの?」

「え?」

「誰かと会ったの?」

 誰かと言われて真っ先に思い浮かんだのは先程の女性で、先程のことで心と共に視線も俯く。なにかが引っかかっているのに、確かなことが一つも無くて。思わずごまかしていた。

「んーん。ちょっとコンビニに行こうかと「嘘つき」___え?」

 呟いた声は小さかったけれど、確かに聞こえた「嘘つき」の言葉は間違いなく怒りを含んでいる。

「亜子ちゃん。だめだよ」

 手首を掴まれてそのままエレベーターへと向かっている。匠くんを見上げても振り向いてくれなくて、不安が込み上げた。
 こんな匠くん・・・知らない。
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