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第四章 陰りに、染まる。
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しおりを挟む匠くんに抱えられたまま到着したのは主寝室。優しく降ろされれば、覆いかぶさって見つめてくる瞳に溶かされてしまいそう。
「な、どど、したの? 眠たいの? 私、あっちの部屋いって「しぃーっ」
綺麗に笑った匠くんの指先が私のお喋りな口元に置かれて、妖艶な表情に思わず見とれてしまう。長い睫毛がぱたぱたと蝶のように動き、目が合ってしまえば金縛りのように動けなくなる。こんな色気の十八歳は他にはきっといないだろう。
「緊張してる?」
「して、ない」
「そう。なら、大丈夫だよね?」
つつっと首筋を匠くんの指先が掠め降りて行き、分厚いパーカーの襟元で止まった。そうだ。私はなんと色気のない恰好をしているんだ。___いやいや、期待するな私。未成年と至してはいかん!
「何考えているの?」
「匠くんのこと」
「僕も。亜子ちゃ「匠くんは本気で人を好きになったことある?」
私ももう大人だし、貞操がどうのとかもったいぶる程大切にしてるわけではない。求められれば応じるし、ましてや相手は紙の上の旦那様。年齢がどうのとかは置いておいて、相手に必要とされて求めてもらえるのであれば女冥利に尽きるというものだ。でも、気持ちのないそれはしたくない。
「あるよ。・・・どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
予想外の答えに、匠くんを見上げれば真剣な表情で見下ろされていた。
匠くんは恋愛感情というものがわからなくて、私と一緒にいるんだと思っていた。だから知りもしない私のことを軽々しく好きだと言えるのだと、そう思っていた。でも匠くんの表情から見て取れる強い感情に、どうしようもなく好きだった相手が羨ましい。
「好きだった・・・」
「そう。過去の話だよ」
私を安心させるためなのか、撫でるように髪を梳く匠くんの目が見れない。過去だと言う唇が、吹っ切れない想いを語り始めるのが怖くて。
匠くんはまだ十八歳。その早熟な人生の中で、強く想った相手がいたんだ。そう思うと握り潰されるように痛む胸が、私の本心を引きずり出そうとしている。何度も何度も、否定してきた気持ち。私なんかが本当に相手にされているわけないと、傷つく前に辞めてしまおうと抑え込んできたのに。違うんだ、母性だと。違うんだ、家族愛だと。違うんだ、推しなんだと。言い聞かせて来たのに、育って行く恋心は制止を振り切ってスタートをきってしまっていた。これはきっと長い長い恋になる。
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