41 / 59
第六章 グッバイ、旦那様。
6-2
しおりを挟む車の多く行き交う道を歩いていた。ビジネス街だからか、夕日が落ちかけているこの時間は人通りが少ない。恐らくあと二時間くらい経ったら、そこかしこのビルからくたびれた顔の大人たちが波のように出てくるのだろう。私もついひと月ほど前まで、そうだったから。
匠くんは私を縛らない。田村さんと会ったあの日以来、誰といるかやどこにいるかとか、何しているかなんてなんにも聞いてこない。連絡も帰る頃に来るくらいで、それは私が家にいることをわかっているからなのかもしれないけれど、正直私に興味ないんだなって思ってしまう。私は貴方に興味深々ですよ。
特に意識していたわけではないけれど、足が向かっていたのは大谷グループの本社。匠くんは今日スーツで出て行ったから、大学ではなく仕事の日。ホテルは都内だけでも十以上あるし、どこにいるかだなんてわからない。聞く事なんて出来ない。ただ、少しの願掛け。もしも、もしも偶然匠くんに会えたら・・・。
そう思いながら本社前に着いても、入る勇気なんてない。こんな格好の私を、本社から出てくる社員たちが不思議そうに見ながら通り過ぎていく。ここで待ちぼうけしたって、運が悪ければ通報されるかもしれない。だから、近くの公園の花壇の淵に座った。中の方ではなく、外の車通りが見える位置に。なんだか、ここがいいと思ったから。
すっかり日が落ちてしまって、風も冷たくなってきた。約束をしているわけでもないのに、ただ待ちたくてここにいる。私、ストーカーの素質があるかもしれない。携帯を覗いても匠くんからの連絡はなくて、はあと息を吐いて空を見上げる。
「月が綺麗ですね」
欠けた月がくっきりと空に浮かんでいて、周りにはたくさんの星が散らばっている。きっと私の実家からならもっと綺麗に見えたはず。
あの月が匠くん。周りに煌めいている星が一握りの女性で、私はきっと都会の明るさに勝てずに見えていない星。じゃあ、あそこでひと際輝いているのが沙也加さん、か・・・。
「___れ? あれ? ははっ」
涙が零れていた。月が霞んでしまうくらいに。
「見て、泣いてるよ」
「ほんとだ。フラれたんじゃない?」
「あー・・・」
目の前を通り過ぎる綺麗なお姉さんたちが、私を憐れみながら通り過ぎていく。こんなに寒いのにスカートを穿いて、歩き辛そうなピンヒールをツカツカと鳴らしながら。彼女たちは努力している。だから美しい。わかっているの。私も努力しなくちゃいけないのに、目指すべき人は遥か上の方から穢れの無い笑顔を私に向けている。
なんだ、私。辛いじゃん。一緒に居られるならって、そう決めたのに。代わりでもいいって思ってたのに、いつしか本物求めちゃってるじゃん。
「欲張り・・・、っく、うぐっ・・・」
10
あなたにおすすめの小説
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
高塚くんの愛はとっても重いらしい
橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。
「どこに隠れていたの?」
そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。
その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。
この関係は何?
悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。
高塚くんの重愛と狂愛。
すれ違いラブ。
見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。
表紙イラストは友人のkouma.作です。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
社長は身代わり婚約者を溺愛する
日下奈緒
恋愛
ある日礼奈は、社長令嬢で友人の芹香から「お見合いを断って欲しい」と頼まれる。
引き受ける礼奈だが、お見合いの相手は、優しくて素敵な人。
そして礼奈は、芹香だと偽りお見合いを受けるのだが……
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる