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第七章 好き、の意味。
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しおりを挟むあまりにも強く抱き締めてくるから、息苦しくて、息苦しいから涙が出たの。本当にそれ以外の理由なんてないの。
「代わりなんかじゃない」
「___聞かないでって、言ったのに」
「聞いてない。僕は口話が出来る」
「こう、わ? っ・・・、んん」
綺麗に口紅を塗って貰っていた箇所に、匠くんの厚い唇が押し当てられていた。後頭部から回された腕で首を動かすことは出来なくて、更に追い打ちをかけるようにもう片方の手が私の顎に添えられた。鼻呼吸を忘れた私が慌てて口を開けて息を吸い込もうとすれば、それはもう匠くんの思うツボでぬるりと舌が入ってくる。濡れたリップ音にぞわりと快感の鳥肌が立つ。久しぶりの口付けは、これまでと比べ物にならないくらい熱くいやらしい。
「やっ」
「だめ・・・、逃げないで」
「んんんぅ」
眦から涙が伝う。苦しいからなのか、悲しみか喜びか。ぐちゃぐちゃの頭ではわからなくて、されるがままに匠くんのキスを受け入れた。
やっと解放されたと思えば、腰を抱えられてベッドへと下ろされる。上に跨り見下ろしてくる匠くんの表情は、”雄”のそれであった。
「好きだ」
「___私のことじゃないでしょ」
「亜子ちゃんのこと」
「嘘。もう私、知ってるんだから」
「否定はしない。僕は・・・さや姉が好きだった。その気持ちに嘘は無いし、後ろめたさもない。僕はちゃんと、フラれたんだ」
真剣な瞳は真っ直ぐに私を見ている。
「でも、忘れられない」
「・・・」
「ほら。私が似ていたから、声をかけたんでしょう?」
「そう」
「___なによ。想像通りじゃない・・・っく、ぅくっ」
わかっていたのに、本人に「そうだ」と肯定されることがこんなに胸にくるとは思わなかった。悔しくて、悲しくて涙が溢れる。泣いてばかりで、メイクはきっとぐちゃぐちゃだ。それを無言で見下ろしている匠くんの指が私の髪に絡む。
「覚えてる?」
「___っにを?」
「僕がプロポーズのときに言ったこと。僕はきっともっと亜子ちゃんに惹かれていくって。自分でも驚くくらい、亜子ちゃんを好きになっていた」
「嘘だ」
「僕はもっとスマートに格好良くいたかったんだ。それなのに亜子ちゃんといると、ペースが乱されて。ありのままでいいって言われている気がした。大谷匠という役を演じてきたのに、亜子ちゃんが僕を・・・十八歳のただの男に戻すんだ」
「無理して合わせてくれていたんじゃ・・・」
「まさか。好きな人の前では恰好付けたいのが男。それなのに亜子ちゃんはそうさせてくれない。さや姉に似ていると思ったのは後ろ姿だけだったよ。目が合った瞬間から、僕は白石亜子に惚れたただの男だ。代わりだなんて思ったこと、一度だって無い」
匠くんの唇が動くのを、ぼうっと見ていた。私の妄想の中とは全く違うことを、この唇は言う。どっちが本当? 妄想の中のほうが、ずっと現実的な事を言っている。
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