13 / 61
曹操孟徳
しおりを挟む
後漢末期、ひとりの恐るべき人物が台頭していく。
董卓のような傍若無人な人ではなく、呂布のような突出した武勇を持つ人でもない。
知的で不正を憎む極めて有能な人物、曹操孟徳。
曹操は、155年に豫州沛国譙県で生まれた。劉備より六歳年上。
祖父は宦官の頂点、大長秋まで出世した曹騰。
父は曹騰の養子の曹嵩。軍の頂点、太尉に昇りつめた。
腐れ者と陰口をたたかれる宦官の家系であることが、曹操のコンプレックスだった。それをバネにして、名門出身の袁紹らに対抗した。
曹操は十九歳のとき、人物評価家の許劭から「きみは治世の能臣、乱世の奸雄だ」と言われた。
「乱世の奸雄か。それも面白そうだ」とうそぶいた。
二十歳で洛陽北部尉になり、治安維持の仕事についた。
法令違反をする者は棒叩きの刑に処す、と宣言した。
あるとき、後漢朝廷の高官の親戚が、夜間通行禁止の門を通った。
曹操は忖度せず、棒叩きの刑を執行した。
彼はその高官からうとまれ、頓丘県令にされて、洛陽から遠ざけられた。
黄巾の乱が勃発したときには、騎都尉になっていた。
彼は一部隊を率いて豫洲で戦い、賊軍の後背を攻めて、武功を立てた。
その功績で、済南国の相に任じられた。
そこで辣腕を振るい、汚濁県令八人を罷免したり、汚職や反乱の原因となりやすい官吏の祭祀を禁止したりした。
曹操は済南国でまさに、治世の能臣として働いたのである。
董卓の恐怖政治時代になると、兵を集め、反董卓連合軍に加わった。
ほとんどの群雄が様子見をして動かなかったが、曹操は果敢だった。
「諸君はなんのために立ちあがったのだ。巨悪の董卓を倒すためではないのか。いまここに十数万の兵がいるのに、どうして戦わない?」
曹操は諸将の前で演説をしたが、それでも群雄は董卓を怖れて戦おうとしなかった。洛陽を包囲しているだけだった。
曹操軍は単独で突撃し、汴水の戦いを起こした。
これは少数で大軍に挑む無謀な戦いだった。曹操は敗北した。
「私は戦って敗れた。きみらは戦わず、保身のことばかり考えている」と叫んで、反董卓連合軍から去った。
その後、袁紹の本拠地に身を寄せた。黒山賊を討つよう頼まれ、見事に任務を達成した。
黄巾賊の残党を討ち果たす功績もあって、彼は兗州牧にまで出世し、自立した勢力になった。
曹操は人材を愛する性格で、彼の下には、数多の優秀な人物が集まった。
武将では、曹洪、曹仁、夏侯惇、夏侯淵、楽進らがいて、参謀としては、荀彧、荀攸、郭嘉、程昱、賈詡などがいる。
挙兵からその後の数々の戦闘に至るまで、父の曹嵩は、曹操を経済的に支援しつづけた。
曹嵩は黄巾の乱のときに洛陽を離れ、徐州へ避難していた。乱世で懸命に戦う息子のことを気にかけ、援助を惜しまなかった。
息子よ、おまえの活躍を見守っている。
操の戦いは、私の戦いである。
おまえの飛躍は、私の飛躍である。
存分に戦え。そして天下を安らかにしてくれ。
これは曹嵩が曹操へ送った手紙の一部である。父から息子への愛情にあふれている。
曹操は、心から父に感謝し、いつか親孝行をしようと心に決めていた。
兗州牧となり、父を身近に呼び寄せようと思い立って、使いを出した。
曹嵩もその気になり、徐州から兗州へ居を移すことにした。彼は一族を連れて移住の旅に出た。その荷物は、車百台にもなった。
徐州牧の陶謙は、部下の騎兵隊を曹嵩の護衛につけた。
その部下のタチが悪かった。
彼らは曹操の父、母、弟、妹とその従者たちを皆殺しにして、財産を奪ったのである。
曹操は烈火のごとく怒った。
その怒りは、彼の武将や参謀たちをおびえさせるほど大きかった。
「陶謙を生かしてはおかない。それだけでは済まさない。徐州の住民をことごとく殺してやる」
193年、曹操軍は徐州へ侵攻した。
彼は大虐殺をしながら進軍した。
人民数十万人を殺し、犬や鶏まで斬り、その死体で河が堰き止められるほどだった。
このときの曹操は、さながら魔王であった。
奸雄とは、悪い英雄を意味する。
董卓のような傍若無人な人ではなく、呂布のような突出した武勇を持つ人でもない。
知的で不正を憎む極めて有能な人物、曹操孟徳。
曹操は、155年に豫州沛国譙県で生まれた。劉備より六歳年上。
祖父は宦官の頂点、大長秋まで出世した曹騰。
父は曹騰の養子の曹嵩。軍の頂点、太尉に昇りつめた。
腐れ者と陰口をたたかれる宦官の家系であることが、曹操のコンプレックスだった。それをバネにして、名門出身の袁紹らに対抗した。
曹操は十九歳のとき、人物評価家の許劭から「きみは治世の能臣、乱世の奸雄だ」と言われた。
「乱世の奸雄か。それも面白そうだ」とうそぶいた。
二十歳で洛陽北部尉になり、治安維持の仕事についた。
法令違反をする者は棒叩きの刑に処す、と宣言した。
あるとき、後漢朝廷の高官の親戚が、夜間通行禁止の門を通った。
曹操は忖度せず、棒叩きの刑を執行した。
彼はその高官からうとまれ、頓丘県令にされて、洛陽から遠ざけられた。
黄巾の乱が勃発したときには、騎都尉になっていた。
彼は一部隊を率いて豫洲で戦い、賊軍の後背を攻めて、武功を立てた。
その功績で、済南国の相に任じられた。
そこで辣腕を振るい、汚濁県令八人を罷免したり、汚職や反乱の原因となりやすい官吏の祭祀を禁止したりした。
曹操は済南国でまさに、治世の能臣として働いたのである。
董卓の恐怖政治時代になると、兵を集め、反董卓連合軍に加わった。
ほとんどの群雄が様子見をして動かなかったが、曹操は果敢だった。
「諸君はなんのために立ちあがったのだ。巨悪の董卓を倒すためではないのか。いまここに十数万の兵がいるのに、どうして戦わない?」
曹操は諸将の前で演説をしたが、それでも群雄は董卓を怖れて戦おうとしなかった。洛陽を包囲しているだけだった。
曹操軍は単独で突撃し、汴水の戦いを起こした。
これは少数で大軍に挑む無謀な戦いだった。曹操は敗北した。
「私は戦って敗れた。きみらは戦わず、保身のことばかり考えている」と叫んで、反董卓連合軍から去った。
その後、袁紹の本拠地に身を寄せた。黒山賊を討つよう頼まれ、見事に任務を達成した。
黄巾賊の残党を討ち果たす功績もあって、彼は兗州牧にまで出世し、自立した勢力になった。
曹操は人材を愛する性格で、彼の下には、数多の優秀な人物が集まった。
武将では、曹洪、曹仁、夏侯惇、夏侯淵、楽進らがいて、参謀としては、荀彧、荀攸、郭嘉、程昱、賈詡などがいる。
挙兵からその後の数々の戦闘に至るまで、父の曹嵩は、曹操を経済的に支援しつづけた。
曹嵩は黄巾の乱のときに洛陽を離れ、徐州へ避難していた。乱世で懸命に戦う息子のことを気にかけ、援助を惜しまなかった。
息子よ、おまえの活躍を見守っている。
操の戦いは、私の戦いである。
おまえの飛躍は、私の飛躍である。
存分に戦え。そして天下を安らかにしてくれ。
これは曹嵩が曹操へ送った手紙の一部である。父から息子への愛情にあふれている。
曹操は、心から父に感謝し、いつか親孝行をしようと心に決めていた。
兗州牧となり、父を身近に呼び寄せようと思い立って、使いを出した。
曹嵩もその気になり、徐州から兗州へ居を移すことにした。彼は一族を連れて移住の旅に出た。その荷物は、車百台にもなった。
徐州牧の陶謙は、部下の騎兵隊を曹嵩の護衛につけた。
その部下のタチが悪かった。
彼らは曹操の父、母、弟、妹とその従者たちを皆殺しにして、財産を奪ったのである。
曹操は烈火のごとく怒った。
その怒りは、彼の武将や参謀たちをおびえさせるほど大きかった。
「陶謙を生かしてはおかない。それだけでは済まさない。徐州の住民をことごとく殺してやる」
193年、曹操軍は徐州へ侵攻した。
彼は大虐殺をしながら進軍した。
人民数十万人を殺し、犬や鶏まで斬り、その死体で河が堰き止められるほどだった。
このときの曹操は、さながら魔王であった。
奸雄とは、悪い英雄を意味する。
22
あなたにおすすめの小説
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
電子の帝国
Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか
明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
小日本帝国
ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。
大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく…
戦線拡大が甚だしいですが、何卒!
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる