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許都へ
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劉備は小沛でのんびりしていればいいと思っていたが、彼の部下はそうではなかった。
「殿、徐州を呂布から奪い返してください」と麋竺は言った。
「しかし、呂布は強いぜ。簡単に言うなよ」
「殿には関羽殿と張飛殿がいるではありませんか。そして徐州民は、呂布より殿を支持しています。あやつを討ってくださいませ」
劉備は面倒くさいなあと思った。まあ麋竺の気持ちはわかるし、やるだけやってみるか……。
彼は小沛で兵を集めた。
呂布の軍師、陳宮がその動きに気づいた。
「殿、劉備が不穏な動きをしています。叩くべきです」
「おう。徐州を完全にわしのものにしてやろう」
呂布軍が小沛城を奇襲した。
劉備は対抗できず、敗走した。兵は離散した。
劉備と彼の家臣が落ち延びた先は、豫州の許都であった。
196年、曹操は兗州と豫州を支配している。
長安から洛陽へ脱出しようとして、戦乱に巻き込まれた後漢の第十四代皇帝、献帝を助け、許都に迎えている。
皇帝を擁して、曹操には日の出のような勢いがあった。
公孫瓚を破り、華北四州を版図にしている袁紹に次ぐ勢力。
「徐州で大虐殺をした曹操に頼るなんて、反対です」
麋竺は不満だった。
「まあそう言うな。曹操殿はなかなか有能そうだ。彼がどういう人間か、見てみようじゃないか」
劉備は、曹操に興味を抱いていた。
ひと筋縄ではいかない人だろう、と見ている。
許都へ到着し、劉備は曹操と面会した。
このとき、曹操は司空という地位についていた。監察をつかさどる高官。後漢政府の実権を握っており、事実上の宰相である。
「曹操殿、呂布に敗れ、天下に身の置きどころがありません。以前あなたとは戦ったことがあるが、恨みを忘れ、私を救ってくれませんか」
劉備は頭を下げた。
曹操は微笑んでいた。
「劉備殿、私はあなたに恨みなどない。それどころか、好ましい人だと思っている。義勇軍を率い、黄巾賊を討伐した。私とも堂々と戦った。正直に言おう。私はあなたを、現代の英雄だと思っているのだ」
曹操に褒められて、劉備は逆に警戒した。馬鹿だと思わせておいた方がよい……。
「私が英雄? あはははは、真の英雄である曹操殿にそんなことを言われると、こそばゆいですなあ。いやあ、照れる照れる」
曹操は真顔だった。
「呂布などたいしたやつではない。匹夫の勇しか持たない男だ。劉備殿の方が、人間として遥かに上。私は人材が大好きだ。あなたと手を結びたい」
劉備は笑えなくなった。
曹操が怖くなった。
乱れに乱れている天下を統一するのは、この男ではないのか、という予感がした。
劉備は曹操から屋敷を与えられた。
麋夫人とともにそこに住んだ。
敷地内に離れ家がいくつかあって、関羽、張飛、簡雍、麋竺、糜芳、孫乾に住まわせた。
劉備たちは、ひとまず許都で生き延びることができた。
献帝が、宮殿に劉備を呼んだ。
「そなたは、中山靖王劉勝の子孫であると聞いた。まことか?」
「はい。そのように両親から伝え聞いております」
献帝は系図を調べさせた。すると、劉備が叔父に当たることがわかった。
劉備は、許都で劉皇叔と呼ばれるようになった。
「献帝陛下のお力になりたいですが、私は負けてばかりなのです」
にこにことほがらかに笑う。
おおらかな性格の劉備を、献帝は愛した。たびたび宮殿に呼び寄せた。
劉備を鎮東将軍に任命し、宜城亭侯に封じた。
むろんその人事は、曹司空と相談の上で行ったことであった。献帝は曹操の傀儡でしかない。
劉備は許都で人気者になった。
曹操の若い参謀、郭嘉は劉備になついた。居酒屋で何度も同席した。
「劉備様はさしたる武芸を持たず、深い知謀もないのに、どうして関羽様や張飛様のような豪傑を従えているのですか」
「郭嘉、おまえは遠慮なくものを言うな。どうせおれには武芸も知謀もねえよ。なんで関羽と張飛がついてきてくれるのか、おれにもわからねえ」
「あはははは、不思議ですねえ。無能な劉備様に、豪傑がふたり」
「この無礼者め、無能で悪かったな」
劉備は自分が無能と言われても、本気では怒らない。憮然とはするが、「確かに無能なんだけどよ」などと笑いながら言ったりして、なんとも言えない愛嬌がある。
郭嘉には、劉備の魅力がわかっていた。底知れない大器。将来、曹操様の大敵になるのはこの人だろう、と思っていた。
現状、曹操の最大の敵は、北方の雄、袁紹である。
袁紹と戦う前に、呂布を倒しておきたい。
「呂布を討とうと思う。劉備殿、ともに戦ってくれ」と曹操は劉備に言った。
「承知しました。微力ですが、懸命に戦います」
曹操は五万の兵を率い、徐州へ向かった。
劉備は関羽と張飛を連れて従軍した。
「殿、徐州を呂布から奪い返してください」と麋竺は言った。
「しかし、呂布は強いぜ。簡単に言うなよ」
「殿には関羽殿と張飛殿がいるではありませんか。そして徐州民は、呂布より殿を支持しています。あやつを討ってくださいませ」
劉備は面倒くさいなあと思った。まあ麋竺の気持ちはわかるし、やるだけやってみるか……。
彼は小沛で兵を集めた。
呂布の軍師、陳宮がその動きに気づいた。
「殿、劉備が不穏な動きをしています。叩くべきです」
「おう。徐州を完全にわしのものにしてやろう」
呂布軍が小沛城を奇襲した。
劉備は対抗できず、敗走した。兵は離散した。
劉備と彼の家臣が落ち延びた先は、豫州の許都であった。
196年、曹操は兗州と豫州を支配している。
長安から洛陽へ脱出しようとして、戦乱に巻き込まれた後漢の第十四代皇帝、献帝を助け、許都に迎えている。
皇帝を擁して、曹操には日の出のような勢いがあった。
公孫瓚を破り、華北四州を版図にしている袁紹に次ぐ勢力。
「徐州で大虐殺をした曹操に頼るなんて、反対です」
麋竺は不満だった。
「まあそう言うな。曹操殿はなかなか有能そうだ。彼がどういう人間か、見てみようじゃないか」
劉備は、曹操に興味を抱いていた。
ひと筋縄ではいかない人だろう、と見ている。
許都へ到着し、劉備は曹操と面会した。
このとき、曹操は司空という地位についていた。監察をつかさどる高官。後漢政府の実権を握っており、事実上の宰相である。
「曹操殿、呂布に敗れ、天下に身の置きどころがありません。以前あなたとは戦ったことがあるが、恨みを忘れ、私を救ってくれませんか」
劉備は頭を下げた。
曹操は微笑んでいた。
「劉備殿、私はあなたに恨みなどない。それどころか、好ましい人だと思っている。義勇軍を率い、黄巾賊を討伐した。私とも堂々と戦った。正直に言おう。私はあなたを、現代の英雄だと思っているのだ」
曹操に褒められて、劉備は逆に警戒した。馬鹿だと思わせておいた方がよい……。
「私が英雄? あはははは、真の英雄である曹操殿にそんなことを言われると、こそばゆいですなあ。いやあ、照れる照れる」
曹操は真顔だった。
「呂布などたいしたやつではない。匹夫の勇しか持たない男だ。劉備殿の方が、人間として遥かに上。私は人材が大好きだ。あなたと手を結びたい」
劉備は笑えなくなった。
曹操が怖くなった。
乱れに乱れている天下を統一するのは、この男ではないのか、という予感がした。
劉備は曹操から屋敷を与えられた。
麋夫人とともにそこに住んだ。
敷地内に離れ家がいくつかあって、関羽、張飛、簡雍、麋竺、糜芳、孫乾に住まわせた。
劉備たちは、ひとまず許都で生き延びることができた。
献帝が、宮殿に劉備を呼んだ。
「そなたは、中山靖王劉勝の子孫であると聞いた。まことか?」
「はい。そのように両親から伝え聞いております」
献帝は系図を調べさせた。すると、劉備が叔父に当たることがわかった。
劉備は、許都で劉皇叔と呼ばれるようになった。
「献帝陛下のお力になりたいですが、私は負けてばかりなのです」
にこにことほがらかに笑う。
おおらかな性格の劉備を、献帝は愛した。たびたび宮殿に呼び寄せた。
劉備を鎮東将軍に任命し、宜城亭侯に封じた。
むろんその人事は、曹司空と相談の上で行ったことであった。献帝は曹操の傀儡でしかない。
劉備は許都で人気者になった。
曹操の若い参謀、郭嘉は劉備になついた。居酒屋で何度も同席した。
「劉備様はさしたる武芸を持たず、深い知謀もないのに、どうして関羽様や張飛様のような豪傑を従えているのですか」
「郭嘉、おまえは遠慮なくものを言うな。どうせおれには武芸も知謀もねえよ。なんで関羽と張飛がついてきてくれるのか、おれにもわからねえ」
「あはははは、不思議ですねえ。無能な劉備様に、豪傑がふたり」
「この無礼者め、無能で悪かったな」
劉備は自分が無能と言われても、本気では怒らない。憮然とはするが、「確かに無能なんだけどよ」などと笑いながら言ったりして、なんとも言えない愛嬌がある。
郭嘉には、劉備の魅力がわかっていた。底知れない大器。将来、曹操様の大敵になるのはこの人だろう、と思っていた。
現状、曹操の最大の敵は、北方の雄、袁紹である。
袁紹と戦う前に、呂布を倒しておきたい。
「呂布を討とうと思う。劉備殿、ともに戦ってくれ」と曹操は劉備に言った。
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曹操は五万の兵を率い、徐州へ向かった。
劉備は関羽と張飛を連れて従軍した。
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