劉備が勝つ三国志

みらいつりびと

文字の大きさ
21 / 61

曹操暗殺計画

しおりを挟む
 呂布が死んだ後、劉備はまた許都で過ごすことになった。
 曹操は、車冑を徐州刺史に任じた。
 張飛は不満だった。
「劉備兄貴がいなければ、郯城も下邳城もあんなに簡単には落ちなかったし、呂布もまだ生きていただろう。徐州を得る資格があるのは、兄貴だ」
 関羽は義弟をなだめた。
「曹操は兄者を怖れているのだ。徐州刺史を別の者にしたのは、その恐怖の表れだ」
 劉備はふたりの話を聞き流し、のほほんとしていた。

 許都にはふたりの主がいる。
 献帝と曹操である。
 傀儡と人形使い。
 操り人形が自らの意志を持とうとすると、乱が生じる。
 献帝には、親政をしたいという意志があった。

 199年、車騎将軍の董承は、皇帝の意を汲んで曹操を暗殺しようとした。
 王子服、呉碩、呉子蘭、种輯らを仲間に引き入れて、計画を進めた。彼らは皇叔と呼ばれている劉備に目をつけ、暗殺の実行役にしようとした。
 董承は宮殿の一室に劉備を呼んで、「曹操殿は、皇帝陛下をないがしろにしていると思いませんか?」と話し始めた。

「きな臭い話を聞いたんだが……」
 簡雍が劉備屋敷で声をひそめて言った。
「きな臭い話をされたよ。許都も物騒になった……」
 曹操暗殺など、劉備にとっては迷惑な話だった。もし彼を倒すなら、堂々と戦って勝ちたい。
「おまえ、どこから聞いた?」
「おれは王子服殿と親しくてね」
「口の軽い男を同志にしている。董承殿の先は長くない」

 劉備は許都から離れようと思った。
 なにか口実はないか、懸命に考えた。
 揚州北部を領有している袁術が皇帝と自称して、仲という国を建てている。後漢王朝から見れば、偽帝である。
「やってみるか……」と劉備はつぶやいた。

 司空府へ行き、曹操と会った。
「曹操殿、私は偽帝を討ちたいのです」と劉備は言った。
「偽帝とは?」
「袁術ですよ。仲の皇帝などと僭称しています。許してはおけません」
 曹操は腕を組み、首をかしげた。
「討ちたいと言っても、あなたは兵を持っているのか?」
「昔からの仲間が二百人ほどいて、呼べばすぐに集まります」
「二百しか兵がいなくては、国は倒せまい」
「寡兵でも戦います。道々募兵すれば、多少は増えるでしょう」
「ううむ、それは楽観的すぎるのではないか? わずかの兵だけで劉備殿に袁術を攻撃させたと知られれば、この曹操の名折れだ」

 曹操は劉備を左将軍に任命し、二千の兵を与えることにした。
 劉備の第一目的は、曹司空暗殺計画が進む許都から離れ、加害者にならないことである。
 袁術を倒せればそれに越したことはないが、そちらは副次的な目的。

 劉備は家臣と二千の兵を連れて、喜々として許都から出陣した。
「晴れ晴れとした気分だ。陰謀なんて、おれの柄じゃねえ」と彼は言った。
 徐州下邳国に駐屯して、「袁術を討つため」と車冑に説明し、兵を集めた。
 徐州での劉備の人気は高く、曹操の予想に反して、たちまち一万もの兵が集まった。
 曹操から与えられた兵と合わせて、一万二千の兵力。

 200年正月、許都の曹操暗殺計画が発覚して、董承は捕らえられ、族滅された。王子服らも処刑された。
 同じ頃、袁術は長年の暴飲暴食がたたって病死した。苛烈な徴税など悪政の限りを尽くしていた仲の国は、初代皇帝の崩御とともに崩壊した。
 劉備はまだ下邳にとどまっていた。

「なんとまあ、標的の袁術が死んじまったぜ」
「兄者、この際、徐州を奪ってはいかがですか」
 関羽が真顔で言った。
「それもいいなあ。いつまでも曹操の世話になっているわけにはいかん。自立しねえとな」
「彼と敵対する覚悟はありますか?」
「おう。曹操はなかなか優秀な男だが、この徐州で大虐殺をやった。そんなやつに天下を取らせるわけにはいかねえよ」

 劉備軍は下邳城を急襲した。
 関羽は城から逃げ出そうとした車冑を斬った。
 劉備は再び徐州の主となった。 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...