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宣戦布告
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劉璋を暗殺し、劉備を蜀郡の成都に迎えれば、張松と法正の陰謀は完成する。
法正は龐統に働きかけた。
「龐統殿、劉璋様が涪城へ来たときが千載一遇の機会です」
「どういう意味でしょうか」
「張松が、劉備様を成都城にお迎えする準備を整えております。劉璋様を殺せば、一命を取るだけで、一州を取ることができます」
「なるほど。よさそうな策ですが、殿がうんと言うかどうか……」
龐統は自信がない。劉備が暗殺を好むとは思えない。
「一番民に被害を与えない手段だと思います。劉備様を説得してください」
「やるだけやってみましょう」
龐統は劉備と密室で話し合った。
「法正殿が、涪城で劉璋殿を斬ってくれと言っております。張松殿が、殿を成都城に迎える準備を整えているそうです」
「劉璋殿をだまして、暗殺しろと言うのか……」
「殿は益州を取るおつもりでここへ来たのでしょう?」
「そのとおりだが、暗殺という手段はいかん。そのようなことをしては、信義にもとる」
「戦争です。信義もくそもありません」
「だが……」
「殿、ご決断を。これがもっとも被害を少なくして、益州を取る策なのです」
「少し考えさせてくれ。劉璋殿を斬るときは、おれが直接指示する。手出しをしてくれるなよ」
劉備は腕を組み、目を瞑った。
主君の決意に従うだけだ、と龐統は思った。暗殺は手っ取り早い方法だが、もし殿が正々堂々たる戦いを望むのなら、その方針で作戦を立てよう……。
劉備軍が涪県に到着し、劉璋も五千の兵を従えて、涪城に入った。
城主は劉璋の娘婿、費観である。
彼は主の劉璋と客の劉備を迎え入れた。
ふたりは城主室で面会した。
「劉備殿、よく来てくださった。感謝する。漢中郡の張魯を討ってください。五千の兵をあなたに提供する。孟達という将に率いさせている。孟達を部下だと思って使ってください」
「承りました。同じ劉氏同士、助け合っていきましょう」
「おお、漢帝室に連なる者同士、力を合わせましょうぞ」
劉璋は、劉備が益州を取りに来たとは露ほども疑っていない。
劉備もそのことは微塵もにじませずに、この面会をこなした。
さて、どうやってこの州を取ろうか、とこの時点でもまだ考えている。卑怯なことはしたくない。天下万民に恥じないやり方をしたいと思っている。
面会の後は、酒宴になった。
宴会場は涪城の広間。
劉備と劉璋が並んで上座にすわり、下座に部下たちが並んだ。
劉璋の支配下にある城だが、いまそこには黄忠、魏延、関平、張苞などの劉備軍の猛将がいて、劉備がその気になれば、劉璋の首を取るのはむずかしくない。
法正は、そのときをいまかいまかと待った。
酒宴が終わった。
劉備はとうとう、劉璋を斬らせなかった。
酒宴の直後、龐統は主君に確認をした。
「まだ間に合います。劉璋殿を殺さないのですか」
「暗殺はせぬ」
劉備ははっきりと告げた。
劉璋は成都城に戻った。
「わが君は、暗殺を選ばなかった。戦って益州を取るおつもりです」と龐統は法正に言った。
そういう方か、と法正は思った。男らしいが、歯がゆくもある……。
劉備軍は孟達隊を加えて二万五千の軍勢となった。
「孟達殿、よろしく頼む」と劉備は言った。
「孟達と呼び捨てにしてください」と孟達は答えた。
劉璋は益州牧以上にはなれそうもないが、この人はもっと大きくなりそうだ、と直感的に思った。このまま劉備に仕えてしまおう……。
龐統と法正が相談して、行軍進路を決めた。劉備軍は広漢郡を北上し、梓潼県、葭萌県を経て、白水関に至った。
そこを越えれば、漢中郡に入る。
劉備軍は白水関にとどまった。漢中郡を睨んだまま、進軍をやめた。そこで軍事訓練だけを行った。
劉備軍の動きを見て、焦ったのは成都にいる張松である。
涪城で劉璋を殺さなかったばかりか、愚直に漢中郡へ向かっている。
劉備の真意がわからなくなり、彼は情緒不安定になった。
劉璋は、張松のようすがおかしいことに気づいた。
内密に調べさせてみると、果たして張松と法正が劉備を手引きし、益州を取らせようとしていることが判明した。自分を暗殺しようとしていたことまでわかった。
劉璋は激怒し、張松を処刑した。
「李厳、三万の兵を授ける。劉備軍を討て」
彼はもっとも信頼している部下に命じた。
李厳軍が成都城を出て、広漢郡を進み、白水関へと迫った。
劉備はようやく機会が来たと感じた。
白水関でときを待っていたのである。
「敵となったな。宣戦布告だ。倒させてもらうぞ、劉璋殿」
劉備軍は南に向きを変え、李厳軍に向かって猛進した。
法正は龐統に働きかけた。
「龐統殿、劉璋様が涪城へ来たときが千載一遇の機会です」
「どういう意味でしょうか」
「張松が、劉備様を成都城にお迎えする準備を整えております。劉璋様を殺せば、一命を取るだけで、一州を取ることができます」
「なるほど。よさそうな策ですが、殿がうんと言うかどうか……」
龐統は自信がない。劉備が暗殺を好むとは思えない。
「一番民に被害を与えない手段だと思います。劉備様を説得してください」
「やるだけやってみましょう」
龐統は劉備と密室で話し合った。
「法正殿が、涪城で劉璋殿を斬ってくれと言っております。張松殿が、殿を成都城に迎える準備を整えているそうです」
「劉璋殿をだまして、暗殺しろと言うのか……」
「殿は益州を取るおつもりでここへ来たのでしょう?」
「そのとおりだが、暗殺という手段はいかん。そのようなことをしては、信義にもとる」
「戦争です。信義もくそもありません」
「だが……」
「殿、ご決断を。これがもっとも被害を少なくして、益州を取る策なのです」
「少し考えさせてくれ。劉璋殿を斬るときは、おれが直接指示する。手出しをしてくれるなよ」
劉備は腕を組み、目を瞑った。
主君の決意に従うだけだ、と龐統は思った。暗殺は手っ取り早い方法だが、もし殿が正々堂々たる戦いを望むのなら、その方針で作戦を立てよう……。
劉備軍が涪県に到着し、劉璋も五千の兵を従えて、涪城に入った。
城主は劉璋の娘婿、費観である。
彼は主の劉璋と客の劉備を迎え入れた。
ふたりは城主室で面会した。
「劉備殿、よく来てくださった。感謝する。漢中郡の張魯を討ってください。五千の兵をあなたに提供する。孟達という将に率いさせている。孟達を部下だと思って使ってください」
「承りました。同じ劉氏同士、助け合っていきましょう」
「おお、漢帝室に連なる者同士、力を合わせましょうぞ」
劉璋は、劉備が益州を取りに来たとは露ほども疑っていない。
劉備もそのことは微塵もにじませずに、この面会をこなした。
さて、どうやってこの州を取ろうか、とこの時点でもまだ考えている。卑怯なことはしたくない。天下万民に恥じないやり方をしたいと思っている。
面会の後は、酒宴になった。
宴会場は涪城の広間。
劉備と劉璋が並んで上座にすわり、下座に部下たちが並んだ。
劉璋の支配下にある城だが、いまそこには黄忠、魏延、関平、張苞などの劉備軍の猛将がいて、劉備がその気になれば、劉璋の首を取るのはむずかしくない。
法正は、そのときをいまかいまかと待った。
酒宴が終わった。
劉備はとうとう、劉璋を斬らせなかった。
酒宴の直後、龐統は主君に確認をした。
「まだ間に合います。劉璋殿を殺さないのですか」
「暗殺はせぬ」
劉備ははっきりと告げた。
劉璋は成都城に戻った。
「わが君は、暗殺を選ばなかった。戦って益州を取るおつもりです」と龐統は法正に言った。
そういう方か、と法正は思った。男らしいが、歯がゆくもある……。
劉備軍は孟達隊を加えて二万五千の軍勢となった。
「孟達殿、よろしく頼む」と劉備は言った。
「孟達と呼び捨てにしてください」と孟達は答えた。
劉璋は益州牧以上にはなれそうもないが、この人はもっと大きくなりそうだ、と直感的に思った。このまま劉備に仕えてしまおう……。
龐統と法正が相談して、行軍進路を決めた。劉備軍は広漢郡を北上し、梓潼県、葭萌県を経て、白水関に至った。
そこを越えれば、漢中郡に入る。
劉備軍は白水関にとどまった。漢中郡を睨んだまま、進軍をやめた。そこで軍事訓練だけを行った。
劉備軍の動きを見て、焦ったのは成都にいる張松である。
涪城で劉璋を殺さなかったばかりか、愚直に漢中郡へ向かっている。
劉備の真意がわからなくなり、彼は情緒不安定になった。
劉璋は、張松のようすがおかしいことに気づいた。
内密に調べさせてみると、果たして張松と法正が劉備を手引きし、益州を取らせようとしていることが判明した。自分を暗殺しようとしていたことまでわかった。
劉璋は激怒し、張松を処刑した。
「李厳、三万の兵を授ける。劉備軍を討て」
彼はもっとも信頼している部下に命じた。
李厳軍が成都城を出て、広漢郡を進み、白水関へと迫った。
劉備はようやく機会が来たと感じた。
白水関でときを待っていたのである。
「敵となったな。宣戦布告だ。倒させてもらうぞ、劉璋殿」
劉備軍は南に向きを変え、李厳軍に向かって猛進した。
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