劉備が勝つ三国志

みらいつりびと

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劉循

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 劉備軍は李厳軍を撃破したが、まだ益州侵攻は緒についたばかり。
 敵地にあり、兵糧に不安があった。
 龐統は法正と降将の李厳を呼んで、相談した。
「わが軍の弱点は兵糧です。いまはまだ余裕があるが、このまま補給できないと苦しい。なにかよい策はありませんか」
「すみやかに占領地を広げ、現地調達すべきでしょう」と法正は言った。
「葭萌城と梓潼城は小城です。さほど苦労せずに落とせるはずです。問題は涪県とその先。綿竹城、雒城と堅城がつづきます。雒城を陥落させれば、成都は目と鼻の先ですが……」
 むずかしい顔で話を聞いていた李厳が、涪県と聞いて、顔を上げた。
「涪県令の費観は友人です。劉備様に降伏するよう交渉してみたいと思いますが……」

 龐統はすぐに劉備に話を通した。
「やらせてみよう」
 李厳が涪城へ行くことになった。

 涪城で李厳は費観に会った。
「劉備様に負け、あの方に仕えることになった」
「そうなるんじゃないかと思っていたよ」
 費観はにやりと笑った。
「で、なにをしに涪城へ来た?」
「降伏勧告だ。費観、劉備様に降伏しろ。劉備軍は強い。戦えば、涪城の兵は皆死ぬことになる」
「前と言っていることがちがうぞ、李厳。戦いもせずに降伏するのは、だめな人間ではないのか?」
「立場が変わった。いまは劉備軍の一員として動いている。降伏すれば、とりなしてやる」
「私の妻は劉璋様の娘だ。降伏などすると思うか?」
 李厳は唖然とした。
「おまえの方こそ、言っていることがちがうぞ」
「正直に言え、李厳。劉備軍は兵糧に困っていて、涪県が欲しいのではないか?」
 李厳は大きく息を吐いた。
「おまえにはかなわんな。実はそのとおりだ」
 費観は正直になった友人を見て微笑んだ。
「降伏しよう。もともとおれの考えは法正殿に近いんだ。益州の主は、劉備殿であるべきだ」

 李厳は吉報を持って、劉備軍に戻った。
 劉備はすでに葭萌県と梓潼県を占領して、梓潼城にいた。
「費観は殿に降伏します。彼は優秀な男です。活用するべきだと思います」
「そなたの友人は、おれに仕官する気はあるのか?」
「あります。殿が益州牧にふさわしいという考えの持ち主です」
「では費観殿には、引きつづき涪県令をつとめてもらおう」

 劉備軍は広漢郡の北部を占領した。
 龐統はとりあえず兵糧の不安がなくなって、ほっとした。
 占領地の慰撫と行政を任された馬良は、白水県、葭萌県、梓潼県、涪県を巡った。県令や県の役人たちと話し合い、各地の長老と会い、多忙を極めた。

 その頃、成都城では劉璋が弱り切っていた。
「わが軍の主力を授けたのに、李厳は負け、降伏してしまった。もうだめだ。私も降伏するしかないだろうか」と弱音を吐いた。
 総帥がそんな状態では、部下の戦意が高揚するはずがない。
 成都城は重苦しい雰囲気につつまれていた。

「僕がなんとかしてみせます」
 そう言ったのは、劉璋の長男、劉循だった。
「おまえはまだ若く、戦の経験などないではないか」
「死ぬ覚悟はできています。死ぬ気でやれば、なんでもできるのではないですか。父上、僕を信じてください」
「循……」
「僕に兵権を与えてください。必ず劉備軍を押しとどめてみせます」
「わかった。やってみよ」

 劉循は、益州の別駕従事張任と成都にいた有力な武将劉璝と相談した。
「成都を守りたい。僕は死んでもいい。どうすればいいか、助言してほしい」
 劉循の真摯な目を見て、張任と劉璝は感動した。
「劉備軍は涪県まで迫っており、成都との間にある要害は綿竹城と雒城しか残っていません。綿竹城で敵軍を消耗させ、雒城で滅ぼしてやりましょう」と張任は言った。
 劉璝はうなずいた。
「私もそれしかないと思います」
「そうしよう。ふたりとも僕を助けてくれるか」
「若君のために働きます」と張任と劉璝は声を合わせた。

 彼らは作戦を練った。
 劉璝が綿竹城へ行って時間を稼ぎ、その間に雒城を難攻不落にしよう、ということになった。
 
 劉循と張任は兵と兵糧をかき集めた。
 一万の兵と一年分の食糧が集まった。
 劉循が指揮して、成都から雒城へ行軍した。
 
「この城で劉備軍を止める。益州を守るんだ。みんな、力を貸してくれ!」
 兵の前で、若き将軍劉循は叫んだ。
 おお、と兵士たちは応えた。
「堀を深くし、城壁を補修する。矢や石も集める。皆の者、働け!」
 張任が具体的な指示をした。
 劉循軍はいきいきと活動し始めた。 
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