48 / 61
劉循
しおりを挟む
劉備軍は李厳軍を撃破したが、まだ益州侵攻は緒についたばかり。
敵地にあり、兵糧に不安があった。
龐統は法正と降将の李厳を呼んで、相談した。
「わが軍の弱点は兵糧です。いまはまだ余裕があるが、このまま補給できないと苦しい。なにかよい策はありませんか」
「すみやかに占領地を広げ、現地調達すべきでしょう」と法正は言った。
「葭萌城と梓潼城は小城です。さほど苦労せずに落とせるはずです。問題は涪県とその先。綿竹城、雒城と堅城がつづきます。雒城を陥落させれば、成都は目と鼻の先ですが……」
むずかしい顔で話を聞いていた李厳が、涪県と聞いて、顔を上げた。
「涪県令の費観は友人です。劉備様に降伏するよう交渉してみたいと思いますが……」
龐統はすぐに劉備に話を通した。
「やらせてみよう」
李厳が涪城へ行くことになった。
涪城で李厳は費観に会った。
「劉備様に負け、あの方に仕えることになった」
「そうなるんじゃないかと思っていたよ」
費観はにやりと笑った。
「で、なにをしに涪城へ来た?」
「降伏勧告だ。費観、劉備様に降伏しろ。劉備軍は強い。戦えば、涪城の兵は皆死ぬことになる」
「前と言っていることがちがうぞ、李厳。戦いもせずに降伏するのは、だめな人間ではないのか?」
「立場が変わった。いまは劉備軍の一員として動いている。降伏すれば、とりなしてやる」
「私の妻は劉璋様の娘だ。降伏などすると思うか?」
李厳は唖然とした。
「おまえの方こそ、言っていることがちがうぞ」
「正直に言え、李厳。劉備軍は兵糧に困っていて、涪県が欲しいのではないか?」
李厳は大きく息を吐いた。
「おまえにはかなわんな。実はそのとおりだ」
費観は正直になった友人を見て微笑んだ。
「降伏しよう。もともとおれの考えは法正殿に近いんだ。益州の主は、劉備殿であるべきだ」
李厳は吉報を持って、劉備軍に戻った。
劉備はすでに葭萌県と梓潼県を占領して、梓潼城にいた。
「費観は殿に降伏します。彼は優秀な男です。活用するべきだと思います」
「そなたの友人は、おれに仕官する気はあるのか?」
「あります。殿が益州牧にふさわしいという考えの持ち主です」
「では費観殿には、引きつづき涪県令をつとめてもらおう」
劉備軍は広漢郡の北部を占領した。
龐統はとりあえず兵糧の不安がなくなって、ほっとした。
占領地の慰撫と行政を任された馬良は、白水県、葭萌県、梓潼県、涪県を巡った。県令や県の役人たちと話し合い、各地の長老と会い、多忙を極めた。
その頃、成都城では劉璋が弱り切っていた。
「わが軍の主力を授けたのに、李厳は負け、降伏してしまった。もうだめだ。私も降伏するしかないだろうか」と弱音を吐いた。
総帥がそんな状態では、部下の戦意が高揚するはずがない。
成都城は重苦しい雰囲気につつまれていた。
「僕がなんとかしてみせます」
そう言ったのは、劉璋の長男、劉循だった。
「おまえはまだ若く、戦の経験などないではないか」
「死ぬ覚悟はできています。死ぬ気でやれば、なんでもできるのではないですか。父上、僕を信じてください」
「循……」
「僕に兵権を与えてください。必ず劉備軍を押しとどめてみせます」
「わかった。やってみよ」
劉循は、益州の別駕従事張任と成都にいた有力な武将劉璝と相談した。
「成都を守りたい。僕は死んでもいい。どうすればいいか、助言してほしい」
劉循の真摯な目を見て、張任と劉璝は感動した。
「劉備軍は涪県まで迫っており、成都との間にある要害は綿竹城と雒城しか残っていません。綿竹城で敵軍を消耗させ、雒城で滅ぼしてやりましょう」と張任は言った。
劉璝はうなずいた。
「私もそれしかないと思います」
「そうしよう。ふたりとも僕を助けてくれるか」
「若君のために働きます」と張任と劉璝は声を合わせた。
彼らは作戦を練った。
劉璝が綿竹城へ行って時間を稼ぎ、その間に雒城を難攻不落にしよう、ということになった。
劉循と張任は兵と兵糧をかき集めた。
一万の兵と一年分の食糧が集まった。
劉循が指揮して、成都から雒城へ行軍した。
「この城で劉備軍を止める。益州を守るんだ。みんな、力を貸してくれ!」
兵の前で、若き将軍劉循は叫んだ。
おお、と兵士たちは応えた。
「堀を深くし、城壁を補修する。矢や石も集める。皆の者、働け!」
張任が具体的な指示をした。
劉循軍はいきいきと活動し始めた。
敵地にあり、兵糧に不安があった。
龐統は法正と降将の李厳を呼んで、相談した。
「わが軍の弱点は兵糧です。いまはまだ余裕があるが、このまま補給できないと苦しい。なにかよい策はありませんか」
「すみやかに占領地を広げ、現地調達すべきでしょう」と法正は言った。
「葭萌城と梓潼城は小城です。さほど苦労せずに落とせるはずです。問題は涪県とその先。綿竹城、雒城と堅城がつづきます。雒城を陥落させれば、成都は目と鼻の先ですが……」
むずかしい顔で話を聞いていた李厳が、涪県と聞いて、顔を上げた。
「涪県令の費観は友人です。劉備様に降伏するよう交渉してみたいと思いますが……」
龐統はすぐに劉備に話を通した。
「やらせてみよう」
李厳が涪城へ行くことになった。
涪城で李厳は費観に会った。
「劉備様に負け、あの方に仕えることになった」
「そうなるんじゃないかと思っていたよ」
費観はにやりと笑った。
「で、なにをしに涪城へ来た?」
「降伏勧告だ。費観、劉備様に降伏しろ。劉備軍は強い。戦えば、涪城の兵は皆死ぬことになる」
「前と言っていることがちがうぞ、李厳。戦いもせずに降伏するのは、だめな人間ではないのか?」
「立場が変わった。いまは劉備軍の一員として動いている。降伏すれば、とりなしてやる」
「私の妻は劉璋様の娘だ。降伏などすると思うか?」
李厳は唖然とした。
「おまえの方こそ、言っていることがちがうぞ」
「正直に言え、李厳。劉備軍は兵糧に困っていて、涪県が欲しいのではないか?」
李厳は大きく息を吐いた。
「おまえにはかなわんな。実はそのとおりだ」
費観は正直になった友人を見て微笑んだ。
「降伏しよう。もともとおれの考えは法正殿に近いんだ。益州の主は、劉備殿であるべきだ」
李厳は吉報を持って、劉備軍に戻った。
劉備はすでに葭萌県と梓潼県を占領して、梓潼城にいた。
「費観は殿に降伏します。彼は優秀な男です。活用するべきだと思います」
「そなたの友人は、おれに仕官する気はあるのか?」
「あります。殿が益州牧にふさわしいという考えの持ち主です」
「では費観殿には、引きつづき涪県令をつとめてもらおう」
劉備軍は広漢郡の北部を占領した。
龐統はとりあえず兵糧の不安がなくなって、ほっとした。
占領地の慰撫と行政を任された馬良は、白水県、葭萌県、梓潼県、涪県を巡った。県令や県の役人たちと話し合い、各地の長老と会い、多忙を極めた。
その頃、成都城では劉璋が弱り切っていた。
「わが軍の主力を授けたのに、李厳は負け、降伏してしまった。もうだめだ。私も降伏するしかないだろうか」と弱音を吐いた。
総帥がそんな状態では、部下の戦意が高揚するはずがない。
成都城は重苦しい雰囲気につつまれていた。
「僕がなんとかしてみせます」
そう言ったのは、劉璋の長男、劉循だった。
「おまえはまだ若く、戦の経験などないではないか」
「死ぬ覚悟はできています。死ぬ気でやれば、なんでもできるのではないですか。父上、僕を信じてください」
「循……」
「僕に兵権を与えてください。必ず劉備軍を押しとどめてみせます」
「わかった。やってみよ」
劉循は、益州の別駕従事張任と成都にいた有力な武将劉璝と相談した。
「成都を守りたい。僕は死んでもいい。どうすればいいか、助言してほしい」
劉循の真摯な目を見て、張任と劉璝は感動した。
「劉備軍は涪県まで迫っており、成都との間にある要害は綿竹城と雒城しか残っていません。綿竹城で敵軍を消耗させ、雒城で滅ぼしてやりましょう」と張任は言った。
劉璝はうなずいた。
「私もそれしかないと思います」
「そうしよう。ふたりとも僕を助けてくれるか」
「若君のために働きます」と張任と劉璝は声を合わせた。
彼らは作戦を練った。
劉璝が綿竹城へ行って時間を稼ぎ、その間に雒城を難攻不落にしよう、ということになった。
劉循と張任は兵と兵糧をかき集めた。
一万の兵と一年分の食糧が集まった。
劉循が指揮して、成都から雒城へ行軍した。
「この城で劉備軍を止める。益州を守るんだ。みんな、力を貸してくれ!」
兵の前で、若き将軍劉循は叫んだ。
おお、と兵士たちは応えた。
「堀を深くし、城壁を補修する。矢や石も集める。皆の者、働け!」
張任が具体的な指示をした。
劉循軍はいきいきと活動し始めた。
20
あなたにおすすめの小説
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
電子の帝国
Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか
明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
小日本帝国
ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。
大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく…
戦線拡大が甚だしいですが、何卒!
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる