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天下三分
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劉備が益州攻略を行っている頃、曹操は中国北西部の涼州で戦っていた。
涼州には馬超と韓遂という二大有力者がいて、同盟を締結し、曹操に対抗している。
馬超は稀に見る剛の者で、曹操をあわや戦死というところまで追いつめた局面もあった。
曹操は策を練り、離間の計で馬超と韓遂の仲を裂いた。
その結果、涼州軍は敗北し、馬超は従弟の馬岱とともに逃走した。
一方、雒城を陥落させた劉備軍は、広漢郡から蜀郡に向かって進軍した。
劉循軍を吸収し、その軍勢は三万五千に膨らんでいる。
郡境を越えると、すぐに成都城が見えてくる。
巨大な城だが、もはやそこを守る有能な武将はおらず、兵力も払底していた。
214年春、劉備軍は成都城を取り囲んだ。
ほどなくして張飛軍と趙雲軍も到来し、劉備軍は四万五千の勢力になった。
それだけでなく、涼州から逃れてきた馬超と馬岱が劉備に庇護を求め、その傘下に入ったのである。
「絶対絶命だ……」
城内で劉璋は頭を抱えた。
「誰か、劉璋殿に降伏を勧めに行ってくれ」
劉備は軍議で言った。
劉循が挙手した。
「劉備様、父上の命は保証していただけますか?」
「命は取らぬ。だが、益州牧からは降りて、荊州で余生を過ごしてもらう。それなりの生活は送れるように取り計らおう」
「では、僕に行かせてください」
劉循が成都城に入った。
「父上、このような形での再会になったこと、申し訳なく思っております。全力を尽くしましたが、劉備軍に敗れました」
「おまえはよく戦った。私は誇りに思っている……」
「もはや降伏以外に道はありません。益州を劉備様にゆだねましょう」
「わかっておる……」
劉璋は城門を開け、降伏した。
彼は公安城へ行くことになったが、息子の劉循は成都にとどまり、劉備配下の武将となった。
劉備はついに、益州と荊州の主になった。
天下三分が成ったか、と彼は感慨深く思った。
かつて新野の小さな勢力でしかなかった劉備に、孔明が天下三分の計を語った。
成都を落とし、それが現実のものとなった。
中国の北半分を領有する曹操が頭抜けて強大だが、それに次ぐ存在となった。
いまや天下は、曹操、孫権、そして劉備の領土に分けられている。
次の段階に進まなければ、と劉備は思った。
彼は張飛と趙雲を呼んだ。
「ご苦労だった。おまえたちのおかげで、益州を取ることができた」
張飛はへへっと笑い、趙雲は誇らしげに微笑んだ。
「兄貴、やりましたね」
「殿、益州制覇、おめでとうございます」
「うむ、おれたちはひとつの目標を達成した。これからのことを孔明、関羽と相談したい。ふたりは荊州へ戻り、あの地を守ってくれ」
張飛と趙雲は公安城へ帰り、孔明と関羽が成都城へやってきた。
劉備は孔明、関羽、龐統、魏延を集めた。
「我々は天下の三大勢力のひとつとなった。ここまでになれたのは、皆のおかげだ。この劉備、心から礼を言う」
総帥がそう言うと、四人の部下は微笑んだ。
「しかし、荊州の一部はいまも曹操の支配下にありますし、益州の漢中郡は張魯のものです。我々は弱体です」と孔明が言った。
「そのとおりだ」
「加えて益州南部は異民族が多く暮らし、反乱が絶えない地域です。益州を治めるのは、容易ではありません」と龐統が話した。
「それもわかっておる」
劉備はうなずいた。
「だが、おれたちは次の戦いに踏み出さねばならない」
義兄の言葉を聞いて、関羽の表情が明るくなった。
「孔明殿の天下三分の計は成就しました。しかし、我々のめざすところは、三国が相争う世界ではありません。天下平定こそ、めざすべきものです」と彼は発言した。
「そうだ。乱世を終わらせることこそ、わが真の望み……」
魏延は落ち着かなかった。壮大な話だ。私などがここにいてよいのだろうか……。
「魏延、おれは曹操を倒したい。どうすればよい?」
急に話を振られて魏延は驚いた。しかし彼は、すらすらと答えることができた。
「孫権様との同盟を強化し、益州軍、荊州軍、揚州軍の三軍をもって、曹操と戦います。益州軍が司隷を、荊州軍が豫州を、揚州軍が徐州を攻め、曹操を北へ追い詰めれば、おのずと活路は開かれます」
彼の献策に龐統は慣れていたが、孔明と関羽はあっけにとられ、まじまじと魏延を見つめた。
劉備は満足そうに笑った。
「魏延の策は面白い」
「そう簡単にはいきません。孫権様は、殿が益州を取られたことを快くは思っていないのです。赤壁の戦いの利益をすべて奪われたと考えておられます。あの方は最近、荊州の一部を割譲せよと言ってきているのです」と孔明は言った。
「すみません、私は荊州の情勢をよく把握していないのです」と魏延はあやまった。
「魏延の方針は、まちがってはおらん。大筋はそれでよいと思う」
劉備はそう言った。関羽はうなずいた。
「なるほど、魏延殿は曹操と戦うために必要な人材のようだ」
関羽に認められて、魏延はうれしくなった。
「おれの方針を伝える。孔明と龐統は、それぞれ荊州と益州の行政を担当し、繁栄させてくれ。関羽と魏延は軍事を担当し、曹操と戦えるような軍隊をつくってくれ」と劉備は告げた。
そして「少し待っていてくれ」と言って、席をはずした。
劉備は孫尚香を連れて、部屋に戻ってきた。
「孫権殿との同盟強化は、曹操と戦うために必要不可欠だ。江夏郡を彼に譲る。そのかわりに曹操の版図へ圧力を加えてもらおうと思う。孔明、関羽、それでよいか」
「一郡を割譲するのは、やむを得ません」と孔明は言った。関羽は不満そうだったが、反対はしなかった。
「わが妻は、孫権殿の妹だ。尚香、たまには揚州へ帰って、兄に顔を見せてあげたらどうだ? 手みやげは江夏郡。おれと孫権殿との同盟強化のために働いてくれ」
「はい」と尚香は答えた。
孔明、関羽、龐統、魏延が去った後も、劉備と尚香は部屋に残っていた。
「玄徳様、ひとつだけ教えてください。もし曹操を倒し、天下にあなたと兄が残ったとき、どうするのですか?」
「孫権殿と戦う」と劉備は即答した。
「そうでしょうね。すみません、あたりまえのことを聞きました」
孫尚香は妖艶に微笑んだ。それでこそ英雄だ、と思った。
涼州には馬超と韓遂という二大有力者がいて、同盟を締結し、曹操に対抗している。
馬超は稀に見る剛の者で、曹操をあわや戦死というところまで追いつめた局面もあった。
曹操は策を練り、離間の計で馬超と韓遂の仲を裂いた。
その結果、涼州軍は敗北し、馬超は従弟の馬岱とともに逃走した。
一方、雒城を陥落させた劉備軍は、広漢郡から蜀郡に向かって進軍した。
劉循軍を吸収し、その軍勢は三万五千に膨らんでいる。
郡境を越えると、すぐに成都城が見えてくる。
巨大な城だが、もはやそこを守る有能な武将はおらず、兵力も払底していた。
214年春、劉備軍は成都城を取り囲んだ。
ほどなくして張飛軍と趙雲軍も到来し、劉備軍は四万五千の勢力になった。
それだけでなく、涼州から逃れてきた馬超と馬岱が劉備に庇護を求め、その傘下に入ったのである。
「絶対絶命だ……」
城内で劉璋は頭を抱えた。
「誰か、劉璋殿に降伏を勧めに行ってくれ」
劉備は軍議で言った。
劉循が挙手した。
「劉備様、父上の命は保証していただけますか?」
「命は取らぬ。だが、益州牧からは降りて、荊州で余生を過ごしてもらう。それなりの生活は送れるように取り計らおう」
「では、僕に行かせてください」
劉循が成都城に入った。
「父上、このような形での再会になったこと、申し訳なく思っております。全力を尽くしましたが、劉備軍に敗れました」
「おまえはよく戦った。私は誇りに思っている……」
「もはや降伏以外に道はありません。益州を劉備様にゆだねましょう」
「わかっておる……」
劉璋は城門を開け、降伏した。
彼は公安城へ行くことになったが、息子の劉循は成都にとどまり、劉備配下の武将となった。
劉備はついに、益州と荊州の主になった。
天下三分が成ったか、と彼は感慨深く思った。
かつて新野の小さな勢力でしかなかった劉備に、孔明が天下三分の計を語った。
成都を落とし、それが現実のものとなった。
中国の北半分を領有する曹操が頭抜けて強大だが、それに次ぐ存在となった。
いまや天下は、曹操、孫権、そして劉備の領土に分けられている。
次の段階に進まなければ、と劉備は思った。
彼は張飛と趙雲を呼んだ。
「ご苦労だった。おまえたちのおかげで、益州を取ることができた」
張飛はへへっと笑い、趙雲は誇らしげに微笑んだ。
「兄貴、やりましたね」
「殿、益州制覇、おめでとうございます」
「うむ、おれたちはひとつの目標を達成した。これからのことを孔明、関羽と相談したい。ふたりは荊州へ戻り、あの地を守ってくれ」
張飛と趙雲は公安城へ帰り、孔明と関羽が成都城へやってきた。
劉備は孔明、関羽、龐統、魏延を集めた。
「我々は天下の三大勢力のひとつとなった。ここまでになれたのは、皆のおかげだ。この劉備、心から礼を言う」
総帥がそう言うと、四人の部下は微笑んだ。
「しかし、荊州の一部はいまも曹操の支配下にありますし、益州の漢中郡は張魯のものです。我々は弱体です」と孔明が言った。
「そのとおりだ」
「加えて益州南部は異民族が多く暮らし、反乱が絶えない地域です。益州を治めるのは、容易ではありません」と龐統が話した。
「それもわかっておる」
劉備はうなずいた。
「だが、おれたちは次の戦いに踏み出さねばならない」
義兄の言葉を聞いて、関羽の表情が明るくなった。
「孔明殿の天下三分の計は成就しました。しかし、我々のめざすところは、三国が相争う世界ではありません。天下平定こそ、めざすべきものです」と彼は発言した。
「そうだ。乱世を終わらせることこそ、わが真の望み……」
魏延は落ち着かなかった。壮大な話だ。私などがここにいてよいのだろうか……。
「魏延、おれは曹操を倒したい。どうすればよい?」
急に話を振られて魏延は驚いた。しかし彼は、すらすらと答えることができた。
「孫権様との同盟を強化し、益州軍、荊州軍、揚州軍の三軍をもって、曹操と戦います。益州軍が司隷を、荊州軍が豫州を、揚州軍が徐州を攻め、曹操を北へ追い詰めれば、おのずと活路は開かれます」
彼の献策に龐統は慣れていたが、孔明と関羽はあっけにとられ、まじまじと魏延を見つめた。
劉備は満足そうに笑った。
「魏延の策は面白い」
「そう簡単にはいきません。孫権様は、殿が益州を取られたことを快くは思っていないのです。赤壁の戦いの利益をすべて奪われたと考えておられます。あの方は最近、荊州の一部を割譲せよと言ってきているのです」と孔明は言った。
「すみません、私は荊州の情勢をよく把握していないのです」と魏延はあやまった。
「魏延の方針は、まちがってはおらん。大筋はそれでよいと思う」
劉備はそう言った。関羽はうなずいた。
「なるほど、魏延殿は曹操と戦うために必要な人材のようだ」
関羽に認められて、魏延はうれしくなった。
「おれの方針を伝える。孔明と龐統は、それぞれ荊州と益州の行政を担当し、繁栄させてくれ。関羽と魏延は軍事を担当し、曹操と戦えるような軍隊をつくってくれ」と劉備は告げた。
そして「少し待っていてくれ」と言って、席をはずした。
劉備は孫尚香を連れて、部屋に戻ってきた。
「孫権殿との同盟強化は、曹操と戦うために必要不可欠だ。江夏郡を彼に譲る。そのかわりに曹操の版図へ圧力を加えてもらおうと思う。孔明、関羽、それでよいか」
「一郡を割譲するのは、やむを得ません」と孔明は言った。関羽は不満そうだったが、反対はしなかった。
「わが妻は、孫権殿の妹だ。尚香、たまには揚州へ帰って、兄に顔を見せてあげたらどうだ? 手みやげは江夏郡。おれと孫権殿との同盟強化のために働いてくれ」
「はい」と尚香は答えた。
孔明、関羽、龐統、魏延が去った後も、劉備と尚香は部屋に残っていた。
「玄徳様、ひとつだけ教えてください。もし曹操を倒し、天下にあなたと兄が残ったとき、どうするのですか?」
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