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益州幹部会議
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成都城の一室に益州の幹部たちを集めて、会議を開いた。
皆に人事案を伝えた。
「私と龐統と魏延で相談し、この人事案をつくりました。ご意見があれば、この場で言ってください。反対意見でもかまいません」と私は言った。
しばらくの間、沈黙がつづいた。
口火を切ったのは、馬超だった。
「なあ、劉禅副総帥」
「はい。馬超、なにか意見がありますか」
「その敬語、そろそろやめてもらえませんか」
馬超がにやりと笑って、私を見ていた。
「あなたは益州の殿様ですよ。俺たちに丁寧な言葉遣いをする必要はありません。まずは、そこから直しませんか」
私はあっけに取られていた。
そんなことを言われるとは、思ってもいなかった。
「確かに、馬超殿の言うとおりだ。若君、私に命令してください。趙雲、漢中郡太守をせよと」
趙雲も私を直視していた。
「馬超、趙雲、私は子どもですよ。年上の方々を敬うのは当然のことです」
「ちがうな。年齢なんか関係ない」
馬超は首を振った。
「あなたは蜀の副総帥なのです。これからは、主従の立場をはっきりとさせねばなりません。あなたが主で、俺は従者なのです」
「馬超……」
私はしばし呆然としていた。
彼の指摘について考えた。
しごくもっともなことだと思えた。
龐統と魏延を見ると、彼らもうなずいていた。
「趙雲、漢中郡太守に任ずる。馬超、巴郡太守に任ずる。ふたりとも、しっかりとつとめよ」と私は言った。
「はい」と大将軍ふたりが答えた。
「他の者も、役目に邁進せよ」
ははーっ、と幹部たちが平伏した。
私に威厳があるとは思えない。劉備の太子で、蜀副総帥であるという地位に、彼らは頭を下げているのであろう。
副総帥にふさわしい実力を備えるよう努力しよう、と私は決意した。
「念のために確認する。この人事案に対する不服があれば、いま聞いておきたい。遠慮なく述べよ」
不服は言う者は、ひとりもいなかった。
「では、案のとおりで人事を決定する。当分の間、この体制で益州の国力を高めていきたいと思う。龐統、内政方針について、皆に説明せよ」
「副総帥からの命令でありますので、行政長官であるわたくしから、益州の内政をこれからいかにしていくか、話します」と龐統が言った。
「この益州は、中国の辺境にあり、長らく戦火をまぬがれてきました。しかし、劉備様、曹操、孫権殿のもとに天下は三分され、今後は、天下統一をめざしている曹操と戦っていくことになります。曹操軍は強大です。益州は、富国強兵につとめ、国力を増大させなければ、勝つことはできません。郡太守となられた皆様にお願いがあります。各郡の人口を把握し、適正な税を徴収し、兵糧をたくわえてください。また、無理のない範囲で徴兵し、調練を行い、強い軍隊をつくってください。産業の振興も重要です。郡が栄えるよう努力してください」
各郡太守が「はい」と答えた。
「郡の役人や県令、県の役人たちは、当面は劉璋殿統治時代の者たちを使ってください。部下の能力を見極めたら、適材適所に改めるようお願いします。優秀な人材の発掘にも努めてください。重大な人事については、劉禅様とわたくしに相談してから決めてください。細かいことは、皆様にお任せします」
幹部たちがうなずいた。
「新たに制定するべき法律や改正すべき税制については、わたくしと法正とで、早急に検討します。法正、わたくしの仕事を手伝ってください」
「しっかりと働かせていただきます」と法正は答えた。彼は重大な仕事を与えられて、喜んでいるように見えた。
「では次に、魏延、益州の軍事方針について述べよ」
「はい。劉備様と劉禅様の目標は、漢の帝室の再興です。そのため、主な敵は曹操軍であり、魏と戦うことが、我々の使命となります。呉の孫権殿とは、同盟を維持していく方針です。魏が益州に侵攻してくれば、当然防衛しますが、それがなければ、しばらくは兵の調練に注力し、外征は行わないつもりです。まずは、平定したばかりの益州をしっかりと統治しなければなりません。皆様、益州軍を精鋭部隊に育てましょう」
「おう!」と武将たちが答えた。
牂牁郡太守の蔣琬が手を挙げた。
「蔣琬、発言を許す。他の者も意見があれば、活発に話してよい」と私は言った。
「では、気になっていることを述べさせていただきます。牂牁郡、越巂郡、益州郡、永昌郡の南部四郡は、漢民族以外の異民族が多く暮らしている地域です。異民族からも税を取り立て、徴兵するのでしょうか」
「龐統、どうすべきだろうか。行政長官として判断せよ」
「異民族も漢民族と平等に扱い、徴税と徴兵をしてください」
「しかし、異民族は独立の気概が強く、抑えつけると、叛乱を起こす怖れがあります」
「もし叛乱が起こったら、自分が動きます」と魏延が言った。
「馬忠、馬岱、軍師直属将軍として、おまえたちにも働いてもらうぞ」
「はい」
「蔣琬、どうだ。それでよいか」
「はい。方針がはっきりし、やるべきことがわかりました。できるだけ叛乱が起こらないように努めます」
「他に意見があれば、述べよ」
「若君、希望があります」と趙雲が言った。
「聞こう」
「漢中郡に牧場をつくり、馬を育てたいと思いますが、よろしいですか」
「それはいい。ぜひやってくれ」
「俺も馬を育てたいです。騎兵を率いるのは、俺の得意技です」と馬超も言った。
「許す。だが、巴郡は江水に面している。そこに強い水軍をつくりたいとも思う」
「わかりました。船のことは専門ではありませんが、適任者を捜し、やってみます」
「よろしく頼む」
「馬超大将軍、自分からもお願いします。蜀の水軍は弱小です。いずれは水軍大国の呉と戦わねばならぬ日が来ます。その日のためにも、蜀水軍が必要です」と魏延が言った。
「おう、軍師殿、任せておけ」
今度は永昌郡太守の費禕が手を挙げた。
「益州の政府が仕切り、鉄と塩の専売をしてはいかがでしょうか。大きな利益を生むと思いますが」
「それはよい目の付けどころだ。費禕殿、その提案、採用させてもらおう。劉禅様、よいですか」と龐統が言った。
「もちろんだ。皆で協力し、益州を豊かにせよ」
その後も、活発な意見交換が行われた。
すばらしい人材たち……。
益州は強くなる、と私は確信した。
皆に人事案を伝えた。
「私と龐統と魏延で相談し、この人事案をつくりました。ご意見があれば、この場で言ってください。反対意見でもかまいません」と私は言った。
しばらくの間、沈黙がつづいた。
口火を切ったのは、馬超だった。
「なあ、劉禅副総帥」
「はい。馬超、なにか意見がありますか」
「その敬語、そろそろやめてもらえませんか」
馬超がにやりと笑って、私を見ていた。
「あなたは益州の殿様ですよ。俺たちに丁寧な言葉遣いをする必要はありません。まずは、そこから直しませんか」
私はあっけに取られていた。
そんなことを言われるとは、思ってもいなかった。
「確かに、馬超殿の言うとおりだ。若君、私に命令してください。趙雲、漢中郡太守をせよと」
趙雲も私を直視していた。
「馬超、趙雲、私は子どもですよ。年上の方々を敬うのは当然のことです」
「ちがうな。年齢なんか関係ない」
馬超は首を振った。
「あなたは蜀の副総帥なのです。これからは、主従の立場をはっきりとさせねばなりません。あなたが主で、俺は従者なのです」
「馬超……」
私はしばし呆然としていた。
彼の指摘について考えた。
しごくもっともなことだと思えた。
龐統と魏延を見ると、彼らもうなずいていた。
「趙雲、漢中郡太守に任ずる。馬超、巴郡太守に任ずる。ふたりとも、しっかりとつとめよ」と私は言った。
「はい」と大将軍ふたりが答えた。
「他の者も、役目に邁進せよ」
ははーっ、と幹部たちが平伏した。
私に威厳があるとは思えない。劉備の太子で、蜀副総帥であるという地位に、彼らは頭を下げているのであろう。
副総帥にふさわしい実力を備えるよう努力しよう、と私は決意した。
「念のために確認する。この人事案に対する不服があれば、いま聞いておきたい。遠慮なく述べよ」
不服は言う者は、ひとりもいなかった。
「では、案のとおりで人事を決定する。当分の間、この体制で益州の国力を高めていきたいと思う。龐統、内政方針について、皆に説明せよ」
「副総帥からの命令でありますので、行政長官であるわたくしから、益州の内政をこれからいかにしていくか、話します」と龐統が言った。
「この益州は、中国の辺境にあり、長らく戦火をまぬがれてきました。しかし、劉備様、曹操、孫権殿のもとに天下は三分され、今後は、天下統一をめざしている曹操と戦っていくことになります。曹操軍は強大です。益州は、富国強兵につとめ、国力を増大させなければ、勝つことはできません。郡太守となられた皆様にお願いがあります。各郡の人口を把握し、適正な税を徴収し、兵糧をたくわえてください。また、無理のない範囲で徴兵し、調練を行い、強い軍隊をつくってください。産業の振興も重要です。郡が栄えるよう努力してください」
各郡太守が「はい」と答えた。
「郡の役人や県令、県の役人たちは、当面は劉璋殿統治時代の者たちを使ってください。部下の能力を見極めたら、適材適所に改めるようお願いします。優秀な人材の発掘にも努めてください。重大な人事については、劉禅様とわたくしに相談してから決めてください。細かいことは、皆様にお任せします」
幹部たちがうなずいた。
「新たに制定するべき法律や改正すべき税制については、わたくしと法正とで、早急に検討します。法正、わたくしの仕事を手伝ってください」
「しっかりと働かせていただきます」と法正は答えた。彼は重大な仕事を与えられて、喜んでいるように見えた。
「では次に、魏延、益州の軍事方針について述べよ」
「はい。劉備様と劉禅様の目標は、漢の帝室の再興です。そのため、主な敵は曹操軍であり、魏と戦うことが、我々の使命となります。呉の孫権殿とは、同盟を維持していく方針です。魏が益州に侵攻してくれば、当然防衛しますが、それがなければ、しばらくは兵の調練に注力し、外征は行わないつもりです。まずは、平定したばかりの益州をしっかりと統治しなければなりません。皆様、益州軍を精鋭部隊に育てましょう」
「おう!」と武将たちが答えた。
牂牁郡太守の蔣琬が手を挙げた。
「蔣琬、発言を許す。他の者も意見があれば、活発に話してよい」と私は言った。
「では、気になっていることを述べさせていただきます。牂牁郡、越巂郡、益州郡、永昌郡の南部四郡は、漢民族以外の異民族が多く暮らしている地域です。異民族からも税を取り立て、徴兵するのでしょうか」
「龐統、どうすべきだろうか。行政長官として判断せよ」
「異民族も漢民族と平等に扱い、徴税と徴兵をしてください」
「しかし、異民族は独立の気概が強く、抑えつけると、叛乱を起こす怖れがあります」
「もし叛乱が起こったら、自分が動きます」と魏延が言った。
「馬忠、馬岱、軍師直属将軍として、おまえたちにも働いてもらうぞ」
「はい」
「蔣琬、どうだ。それでよいか」
「はい。方針がはっきりし、やるべきことがわかりました。できるだけ叛乱が起こらないように努めます」
「他に意見があれば、述べよ」
「若君、希望があります」と趙雲が言った。
「聞こう」
「漢中郡に牧場をつくり、馬を育てたいと思いますが、よろしいですか」
「それはいい。ぜひやってくれ」
「俺も馬を育てたいです。騎兵を率いるのは、俺の得意技です」と馬超も言った。
「許す。だが、巴郡は江水に面している。そこに強い水軍をつくりたいとも思う」
「わかりました。船のことは専門ではありませんが、適任者を捜し、やってみます」
「よろしく頼む」
「馬超大将軍、自分からもお願いします。蜀の水軍は弱小です。いずれは水軍大国の呉と戦わねばならぬ日が来ます。その日のためにも、蜀水軍が必要です」と魏延が言った。
「おう、軍師殿、任せておけ」
今度は永昌郡太守の費禕が手を挙げた。
「益州の政府が仕切り、鉄と塩の専売をしてはいかがでしょうか。大きな利益を生むと思いますが」
「それはよい目の付けどころだ。費禕殿、その提案、採用させてもらおう。劉禅様、よいですか」と龐統が言った。
「もちろんだ。皆で協力し、益州を豊かにせよ」
その後も、活発な意見交換が行われた。
すばらしい人材たち……。
益州は強くなる、と私は確信した。
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