ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒

文字の大きさ
3 / 5

3

しおりを挟む
 ――それから三週間。
 いっこうに俺の記憶は戻らない。俺はなんとか覚えた寮の部屋のキッチンで、まな板を見ながら立っていた。最近では、当初は俺に冷たかった風紀委員長も、時折不安そうな目をするように変化した。学園の多くの生徒達も、最近は俺に好奇心のような目をして明るい言葉を投げかけていたけれど、今では哀れむような顔をしている。

 果たして、記憶を失う前の俺は、どのような人間だったのだろう?
 最近の俺は、そればかりを考えている。

 俺はこの日、カレーを作った。
 帰りが遅い風紀委員長とは、部屋で食事をすることが増えている。

「はぁ」

 俺は溜息を零してから、自分の部屋へと戻った。
 そこには様々な写真がある。俺が撮ったものだというが、さっぱり思い出せない。俺はなんでも、学内のことならば、なんでも知っていたという噂を聞いたが、記憶がない今は、誰よりも無知だろう。

 そう考えて、何気なく俺は、一冊のキャンパスノートに触れた。

「ん……?」

 表紙には『報道部目録No.4』とあり、他のもの同様日誌かと思ったのだが、中を見たら――俺の字で、日記が書いてあった。俺は目を疑った。

『風紀委員長が好きだ』
『相良を愛してる』
『でも俺の愛は伝わらない』
『俺は言えない』
『冗談でしか言えない』
『付き合ってくれと笑って見せても、アイツは俺を蔑むように見るだけだ』
『伝わらない』
『毎月、第二木曜日。相良に会える。この部屋で。情報提供の約束をしているからだ。今では、提供する情報が無くても、ある素振りで呼び出している。我が儘を言ってる。困らせている。それでも、ここで会う度に、冗談のフリをして告白してしまう』
『ああ、次で最後にしよう』
『次に、好きだと、付き合って欲しいと言って、断られたら』
『きっと断られるけれど』
『俺はもう、相良に気持ちを押しつけようとするのは止める』
『優しい相良は、きっと今では俺の気持ちを悟ってるから、俺に話すことが無いと分かっていても来てくれるだけなのだから』

 日付は、俺が木から落ちたという日の、午前中の時刻まで、つらつらと綴られていた。
 俺が落ちたのは、放課後だと聞いている。
 最初は意味が分からなかった俺だが、これが己の恋の記録だとすぐに理解する。

「そっか、俺……風紀委員長に片想いをしてたんだな」

 ぽつりと呟いた時、エントランスの扉が開く音がして、風紀委員長が帰ってきたのが分かった。俺はノートを棚に戻し、なんでも無いフリをして出迎える。

 確かに。
 風紀委員長は厳しいけれど、その行動だけ抜き出せば、とても優しいと、記憶が無くても、もう俺は知っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルを「小説家になろう」様でも掲載しています。

塩対応だった旦那様の溺愛

詩河とんぼ
BL
 貧乏伯爵家の子息・ノアは家を救うことを条件に、援助をしてくれるレオンハート公爵家の当主・スターチスに嫁ぐこととなる。  塩対応で愛人がいるという噂のスターチスやノアを嫌う義母の前夫人を見て、ほとんどの使用人たちはノアに嫌がらせをしていた。  ある時、スターチスが階段から誰かに押されて落ち、スターチスは記憶を失ってしまう。するとーー  作品を書き直したものを投稿しました。数日後、こちらは削除いたします。

来世はこの人と関りたくないと思ったのに。

ありま氷炎
BL
前世の記憶を持つ、いずる。 彼は前世で主人だった三日月と、来世で関わらない事を願った。 しかし願いは叶わず、幼馴染として生まれ変わってしまった。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た

キトー
BL
【BLです】 「俺と秋さんは恋人同士です!」「そうなの!?」  無気力でめんどくさがり屋な大学生、露田秋は交通事故に遭い一時的に記憶喪失になったがすぐに記憶を取り戻す。  そんな最中、大学の後輩である天杉夏から見舞いに来ると連絡があり、秋はほんの悪戯心で夏に記憶喪失のふりを続けたら、突然夏が手を握り「俺と秋さんは恋人同士です」と言ってきた。  もちろんそんな事実は無く、何の冗談だと啞然としている間にあれよあれよと話が進められてしまう。  記憶喪失が嘘だと明かすタイミングを逃してしまった秋は、流れ流され夏と同棲まで始めてしまうが案外夏との恋人生活は居心地が良い。  一方では、夏も秋を騙している罪悪感を抱えて悩むものの、一度手に入れた大切な人を手放す気はなくてあの手この手で秋を甘やかす。  あまり深く考えずにまぁ良いかと騙され続ける受けと、騙している事に罪悪感を持ちながらも必死に受けを繋ぎ止めようとする攻めのコメディ寄りの話です。 【主人公にだけ甘い後輩✕無気力な流され大学生】  反応いただけるととても喜びます!誤字報告もありがたいです。  ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載中。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています

大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。 冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。 ※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

処理中です...