うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第二章

12

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 憎しみを抱きながら。一方で、空虚な日々を送っていた。そんなある日。妻が言った。

 ──子どもが出来たと。

 誰の、と一翔は聴いた。あなたの子よ、と妻が応える。そんなはずはなかった。一翔は一度も、妻を抱いたことはなかったから。すると妻は、泣き崩れた。

『あなたのせいじゃない! 私、ずっと寂しくて……っ』

 結局、誰の子か分からず。さすがに一翔も認めなかった。DNA鑑定までしてもらい、一翔の子ではないとはっきり証明されると、社長は──義父は、頭を下げてきた。どうか君の子として、育ててはくれないかと。一翔はまだ、首を縦にはふっていない。けれどまわりが、どんどんと祝福モードになっていく。それに押し潰され、一翔はもう、何も反論出来なくなった。いや、最初から何もかも、諦めていたのかもしれない。

 彰太と別れたあの日から、ずっと。

「──もういいよ、一翔」

 彰太は一翔の拳にそっと手を添えた。

「おれと一緒に行こう? おれはね。今、奈良に住んでるんだ」

「……彰太」

 そうできたら、どんなにいいか。けれど実際は、そんな簡単にはいかないだろう。あいつらは決して逃がしてくれない。そうなれば、彰太がどんな目に合わされるか。

(……大事なのは俺が生み出す金か、容姿か。いずれにしろ、俺の心など、あいつらにとってはどうでもいいことなんだ)

 だから、どんな手段を取られるのか想像も出来ない。それが怖い。もし彰太に万が一のことでもあったら。

 考えすぎかもしれない。けれど一翔は、本気で恐怖していた。両親、妻、義両親。一翔が信頼出来る人は、一人もいないのだから。

「──それが無理なら、おれが一緒に死んであげる」

 続けられた言葉に、一翔は目を見張った。彰太は科白とは裏腹に、太陽のように明るく笑っていた。

「あげるよ。おれの身体も心も。命だってあげる。だって、一翔が大好きだから」

 真っ直ぐに向けられる、ひた向きな心。嘘偽りなど決してない。じんわりと、凍った何かが溶けていくような。

(……どうして俺は、彰太を好きになったんだろう)

 欲しかったのは、見返りを求めない、無償の愛情。一翔のことが好きだと言いながら、彰太は好きにならなくてもいいと笑った。それが嬉しかったのだろうか。でも、過去に告白してくれた子の中には、同じことを口にした子が何人かいたのに。

「……はじめて彰太を見たときは、苦手なタイプだなって、思ったんだ」

 彰太がぴしっと固まり、次いでじわっと涙を浮かべたのを見て、一翔は慌てた。

「最初、最初はね。何ていうか……大事に大事に、育てられた子なんだろうなって思って。今思えば、妬みからくるものだったんだろうけど」

 一翔は彰太の手をぎゅっと握った。

「羨ましいって思いながら、気付けば彰太を目で追うようになっていて……でも、変だよね。そんな子、他にもいたはずなのに」

「……それって、いつから?」

「目で追うようになったのは……あれ、いつからだろう。正確には覚えてないけど、目が合う度にすごい勢いで目を逸らされていたから、よけいに気になって。その頃から、彰太がよく友達にハグされるようになってきて。いいなあって」

 昔を懐かしむように、一翔が穏やかに笑う。

「彰太に告白されたとき、本当に戸惑ったよ。愛情を求めておきながら、俺は誰かを愛したことがなかったから。でも、彰太を手放したくなくて、中途半端にも答えたくなくて……迷って、悩んで。ようやく、彰太を好きだって自覚して……」

 自分なりに、想いを伝えてきたつもりだった。なのにまさか、仮の恋人だの、気持ち悪いだの。おまけに結婚式まで見られていたとは想像もしていなかった。自分が全面的に悪いとはいえ、さすがに落ち込む。

 一翔が意識しないところで手を離した。あ、という彰太の残念そうな声音には気付かず、両手で頭を抱えた。

「……今さらだけど。人肌が恋しいけど、女の子相手だと事務所的にまずいから彰太を代わりにしたっていうの。あれ、嘘だから」
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