うまく笑えない君へと捧ぐ

西友

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第二章

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 長い、長い沈黙のあと。一翔はゆっくりとスマホを取り出した。

「──予約している白沢一翔です。一人追加でお願いしたいのですが……はい。ありがとうございます」

 通話を終えた一翔は、彰太に向き直った。

「風邪引くといけないから、ホテルに行こう」

 長い話しになるから。
 呟き、背中に導かれるままに大通りに出て、タクシーに乗った。ホテルに到着するまで一翔はずっと無言だったけど、目が合えば小さく笑ってくれたから、彰太は何も言わず、ただ一翔が話してくれるのを待つことにした。

 ビジネスホテルの一室に着くと、一翔は流れるように左手の薬指から指輪を外し、机に置いた。彰太を意識してというより、自然の動作のようにも思えた。

 一翔はコートを脱ぎながら「寒くない? 何か飲む?」と静かに訊ねてきた。身体は冷えきっていたが、彰太は一刻も早く話しが聞きたくて仕方がなかったので、自身もコートを脱ぎながら緩くかぶりをふった。

「ううん。いい」

「……そっか」

 ツインルームの部屋には、シングルベッドが二台並んである。その一つに一翔が腰をおろしたので、彰太も向かい合うかたちでもう一つのベッドに座った。

「俺の父親は、小さな会社の社長でね。母親は副社長をやってるんだ。昔はそれなりにうまくいってたんだけど。俺が中学生になったころからかな。経営が厳しくなってきて……家計も苦しくて」

 彰太は驚愕した。一翔から家族の話しを聞いたのはこれがはじめてなのに、どうしてか一翔の家は裕福なのではないかとの思い込みがあったからだ。たぶん、その理由は。

「でも、葉山が……一翔はマンションで一人暮らしをしてるって」

 ああ。
 一翔が薄く笑う。

「あれは、マネージャーの部屋だよ」

「マネージャー?」

「そう。高校に入ってすぐぐらいだったかな。俺を街でスカウトしてくれた人。普通にバイトするよりお金は稼げたから、今でも感謝してる」

「そうなんだ。お父さんとお母さんも、喜んだんじゃない?」

 何気ない言葉に、一翔は辛そうに眉を潜めた。

「そう……だね。喜んでくれたよ。モデルの他にもバイトをして、給料は全部家に入れるようにしていたから。けど、モデルの仕事は一定じゃないから、前の月より少ないと決まって怒鳴られた。それだけじゃない。俺の知らないところで、事務所にもお金の催促をしていたらしくて」

 彰太が言葉を失う。一翔は淡々と語ってから「まあ。俺の両親は、そんな人たちなんだ」と哀しそうに笑った。

 
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