27 / 45
第二章
10
しおりを挟む
長い、長い沈黙のあと。一翔はゆっくりとスマホを取り出した。
「──予約している白沢一翔です。一人追加でお願いしたいのですが……はい。ありがとうございます」
通話を終えた一翔は、彰太に向き直った。
「風邪引くといけないから、ホテルに行こう」
長い話しになるから。
呟き、背中に導かれるままに大通りに出て、タクシーに乗った。ホテルに到着するまで一翔はずっと無言だったけど、目が合えば小さく笑ってくれたから、彰太は何も言わず、ただ一翔が話してくれるのを待つことにした。
ビジネスホテルの一室に着くと、一翔は流れるように左手の薬指から指輪を外し、机に置いた。彰太を意識してというより、自然の動作のようにも思えた。
一翔はコートを脱ぎながら「寒くない? 何か飲む?」と静かに訊ねてきた。身体は冷えきっていたが、彰太は一刻も早く話しが聞きたくて仕方がなかったので、自身もコートを脱ぎながら緩くかぶりをふった。
「ううん。いい」
「……そっか」
ツインルームの部屋には、シングルベッドが二台並んである。その一つに一翔が腰をおろしたので、彰太も向かい合うかたちでもう一つのベッドに座った。
「俺の父親は、小さな会社の社長でね。母親は副社長をやってるんだ。昔はそれなりにうまくいってたんだけど。俺が中学生になったころからかな。経営が厳しくなってきて……家計も苦しくて」
彰太は驚愕した。一翔から家族の話しを聞いたのはこれがはじめてなのに、どうしてか一翔の家は裕福なのではないかとの思い込みがあったからだ。たぶん、その理由は。
「でも、葉山が……一翔はマンションで一人暮らしをしてるって」
ああ。
一翔が薄く笑う。
「あれは、マネージャーの部屋だよ」
「マネージャー?」
「そう。高校に入ってすぐぐらいだったかな。俺を街でスカウトしてくれた人。普通にバイトするよりお金は稼げたから、今でも感謝してる」
「そうなんだ。お父さんとお母さんも、喜んだんじゃない?」
何気ない言葉に、一翔は辛そうに眉を潜めた。
「そう……だね。喜んでくれたよ。モデルの他にもバイトをして、給料は全部家に入れるようにしていたから。けど、モデルの仕事は一定じゃないから、前の月より少ないと決まって怒鳴られた。それだけじゃない。俺の知らないところで、事務所にもお金の催促をしていたらしくて」
彰太が言葉を失う。一翔は淡々と語ってから「まあ。俺の両親は、そんな人たちなんだ」と哀しそうに笑った。
「──予約している白沢一翔です。一人追加でお願いしたいのですが……はい。ありがとうございます」
通話を終えた一翔は、彰太に向き直った。
「風邪引くといけないから、ホテルに行こう」
長い話しになるから。
呟き、背中に導かれるままに大通りに出て、タクシーに乗った。ホテルに到着するまで一翔はずっと無言だったけど、目が合えば小さく笑ってくれたから、彰太は何も言わず、ただ一翔が話してくれるのを待つことにした。
ビジネスホテルの一室に着くと、一翔は流れるように左手の薬指から指輪を外し、机に置いた。彰太を意識してというより、自然の動作のようにも思えた。
一翔はコートを脱ぎながら「寒くない? 何か飲む?」と静かに訊ねてきた。身体は冷えきっていたが、彰太は一刻も早く話しが聞きたくて仕方がなかったので、自身もコートを脱ぎながら緩くかぶりをふった。
「ううん。いい」
「……そっか」
ツインルームの部屋には、シングルベッドが二台並んである。その一つに一翔が腰をおろしたので、彰太も向かい合うかたちでもう一つのベッドに座った。
「俺の父親は、小さな会社の社長でね。母親は副社長をやってるんだ。昔はそれなりにうまくいってたんだけど。俺が中学生になったころからかな。経営が厳しくなってきて……家計も苦しくて」
彰太は驚愕した。一翔から家族の話しを聞いたのはこれがはじめてなのに、どうしてか一翔の家は裕福なのではないかとの思い込みがあったからだ。たぶん、その理由は。
「でも、葉山が……一翔はマンションで一人暮らしをしてるって」
ああ。
一翔が薄く笑う。
「あれは、マネージャーの部屋だよ」
「マネージャー?」
「そう。高校に入ってすぐぐらいだったかな。俺を街でスカウトしてくれた人。普通にバイトするよりお金は稼げたから、今でも感謝してる」
「そうなんだ。お父さんとお母さんも、喜んだんじゃない?」
何気ない言葉に、一翔は辛そうに眉を潜めた。
「そう……だね。喜んでくれたよ。モデルの他にもバイトをして、給料は全部家に入れるようにしていたから。けど、モデルの仕事は一定じゃないから、前の月より少ないと決まって怒鳴られた。それだけじゃない。俺の知らないところで、事務所にもお金の催促をしていたらしくて」
彰太が言葉を失う。一翔は淡々と語ってから「まあ。俺の両親は、そんな人たちなんだ」と哀しそうに笑った。
16
あなたにおすすめの小説
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
刺されて始まる恋もある
神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
君に二度、恋をした。
春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。
あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。
――もう二度と会うこともないと思っていたのに。
大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。
変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。
「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」
初恋、すれ違い、再会、そして執着。
“好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか――
すれ違い×再会×俺様攻め
十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる