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第十二話【大丈夫】後
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ビービー!どのぐらいたったのだろう音が鳴り響き、男が手を止めた。
「お時間でございます」
聞こえてきた声はこの店のオーナーの物だった。時間の終了を告げる言葉に男は出入り口のインターフォンへと向かった。
「延長」
「申し訳ございませんが、今日はこの後当ビルの電気点検が急遽決まりまして延長はできないことになっています」
「ああ?そんなこと聞いてねぇぞ」
「大変申し訳ありません、なにぶん急遽決まった事なのでご理解ください」
折れないオーナーの様子と画面越しの目からオーナーもDomだと悟ったのだろう。男は大きく舌打ちすると、俺の近くへと戻ってきた。
「終りだってよ、残念だったな」
「……ありがとう…ございました」
止めていた手錠と足かせを外られ、床へと崩れ落ちた俺は床へとついた傷の痛みに再び悶えた。
「わりと楽しめたぜ。じゃあな」
「まって…ください」
そのまま立ち去ろうとする男へと最後に必死に声をかける。
「なんだよ」
「そこの棚に消毒液があるでしょう、かけてください」
「ああ?」
そう言えば、めんどくさそうな顔を男は浮かべた。早く、出ていってほしかったが今後のことを考えるとこれははずせない。
「手数なのはわかりますが、意外と楽しいと思いますよ」
そう言えば興味が湧いたのだろう、消毒液をもった男は俺の傷口に遠慮なくそれをドボドボとかけた。
「イギァーッッッ!!!」
俺があげた大きな悲鳴に、一瞬驚くも加虐的な笑みを浮かべた。
「へぇ、確かに面白いな」
「楽し…んでいただけて…よかったです」
「じゃあ、またな」
そう言いながら、部屋を出ようとした瞬間男は思い出したかのように振り返った。
「忘れるとこだった。Good Boy」【よくできました】
ニヤリと笑い、そう言うとそれ以上何をするでもなく部屋をでていってしまった。
「力也!大丈夫か!?」
「大丈夫です。オーナーはお見送りをお願いします」
すぐさま飛び込んでこようとする声に、身体を持ち上げそれを停止する。
「わかった」
まだ支払いがあるはずだ。他のスタッフに任せるわけにはいかない。それはオーナーも同じだったんだろう男の後に続いて走り去る音が聞こえた。
部屋の外に誰もいなくなっただろうことを確認し、身体を起こすと部屋に備え付けられていたタオルを手に取る。それを、いまだ血が止まっていない前面へ押さえつけ、その上から服を着る。
顔に残るのは、消毒液が置かれていた棚にあった絆創膏でなんとかする。これでなんとかごまかせるはずだ。不安に駆られている皆に見せるわけにはいかない。
「よし」
最後に気合を入れなおし、何食わぬ顔で部屋をでる。
スタッフルームにいけば、そこはひどいことになっていた。さっきの子は部屋の隅へと寝かされうめき声をあげている。それを心配そうに見つめる他の皆の身体も小刻みに震え、互いに抱き合うように固まっていた。
「力也さん!」
「ただいま」
必死に作った笑顔で、笑えば結衣が抱き着く様に傍へときた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫」
タオル越しに触れる感触が、傷口に当たり痛みが増すがそれを出すことはできない。
結衣だけでなく、他の皆も駆け寄ってきて口々に声をかけてくれるから笑い返す。
「さっきの子は?」
「さきほど、オーナーがケアしてくれたのでもう大丈夫だと…」
「そう、ちょっといいか」
寝かされたままのその子の傍に行き、その頭に手を置く。
「頑張ったな、Good Boy」【よくできました】
本来ならばSubがいうことではないけど、必死について行っていただろう子にそう言葉をかける。一瞬うめき声が止まったがそれで落ち着くわけもなく、まだまだケアが必要なその子から手を離す。
「後はオーナーに任せる」
「力也さん、帰っちゃうんですか?」
「俺がいなくてももう大丈夫だろ?ちょっと寄っただけだし、帰るよ」
スタッフたちの扱いに慣れているオーナーがいれば俺はきっと必要がない、ここでの役割はすんだ。置きっぱなしだった荷物を持ち裏口へ向かう。
「本当に大丈夫なんですか?」
「俺の頑丈さ知ってんだろ?大丈夫だって!あ、そうだ落ち着いたら持ってきた菓子みんなで食べろよ?賞味期限今日中だから」
「ありがとうございました」
見送りにきた結衣に手を振り、店の外へと出る。あの男がいるかもしれないから、正面とは逆に歩く。
(さっさと離れねぇと)
動くたびに、痛む傷口を耐え俺は店から遠ざかった。
やっと裏通りを抜け、人通りの多い場所に来た俺は建物と建物の間に座り込んだ。
あんなおざなりな言葉がケアと言えるわけもなく、耐えて、耐えて、なおもまだ続く激痛も、あの男の声もなにもかもが新たな痛みを産む。
「冬真…」
口からでた名前に、ふとあの時に吹き込まれた録音があることを思い出す。辛いときようにと撮ってくれたものだ。今がその時だろう。
L●NEを開き、耳に当てる。聞こえてくるのは、コマンドなんかではなくただ力也と名前を呼ぶ声。何度も何度も繰り返されるそれに、耳を傾け、これで大丈夫だと思っていると声が消えた。
もう終わりかと思って画面を見るとまだ録音時間は終わっていなかった。
「冬真失敗してんじゃん」
停止ボタンを押すのが遅れたのかと思いながら、聞いていると少しの無音の後に冬真の声がもう一度聞こえた。
「今すぐ電話しろ」
反抗など許さないと言うようなその命令に、俺の手は逆らうことなく通話ボタンを押した。
「お時間でございます」
聞こえてきた声はこの店のオーナーの物だった。時間の終了を告げる言葉に男は出入り口のインターフォンへと向かった。
「延長」
「申し訳ございませんが、今日はこの後当ビルの電気点検が急遽決まりまして延長はできないことになっています」
「ああ?そんなこと聞いてねぇぞ」
「大変申し訳ありません、なにぶん急遽決まった事なのでご理解ください」
折れないオーナーの様子と画面越しの目からオーナーもDomだと悟ったのだろう。男は大きく舌打ちすると、俺の近くへと戻ってきた。
「終りだってよ、残念だったな」
「……ありがとう…ございました」
止めていた手錠と足かせを外られ、床へと崩れ落ちた俺は床へとついた傷の痛みに再び悶えた。
「わりと楽しめたぜ。じゃあな」
「まって…ください」
そのまま立ち去ろうとする男へと最後に必死に声をかける。
「なんだよ」
「そこの棚に消毒液があるでしょう、かけてください」
「ああ?」
そう言えば、めんどくさそうな顔を男は浮かべた。早く、出ていってほしかったが今後のことを考えるとこれははずせない。
「手数なのはわかりますが、意外と楽しいと思いますよ」
そう言えば興味が湧いたのだろう、消毒液をもった男は俺の傷口に遠慮なくそれをドボドボとかけた。
「イギァーッッッ!!!」
俺があげた大きな悲鳴に、一瞬驚くも加虐的な笑みを浮かべた。
「へぇ、確かに面白いな」
「楽し…んでいただけて…よかったです」
「じゃあ、またな」
そう言いながら、部屋を出ようとした瞬間男は思い出したかのように振り返った。
「忘れるとこだった。Good Boy」【よくできました】
ニヤリと笑い、そう言うとそれ以上何をするでもなく部屋をでていってしまった。
「力也!大丈夫か!?」
「大丈夫です。オーナーはお見送りをお願いします」
すぐさま飛び込んでこようとする声に、身体を持ち上げそれを停止する。
「わかった」
まだ支払いがあるはずだ。他のスタッフに任せるわけにはいかない。それはオーナーも同じだったんだろう男の後に続いて走り去る音が聞こえた。
部屋の外に誰もいなくなっただろうことを確認し、身体を起こすと部屋に備え付けられていたタオルを手に取る。それを、いまだ血が止まっていない前面へ押さえつけ、その上から服を着る。
顔に残るのは、消毒液が置かれていた棚にあった絆創膏でなんとかする。これでなんとかごまかせるはずだ。不安に駆られている皆に見せるわけにはいかない。
「よし」
最後に気合を入れなおし、何食わぬ顔で部屋をでる。
スタッフルームにいけば、そこはひどいことになっていた。さっきの子は部屋の隅へと寝かされうめき声をあげている。それを心配そうに見つめる他の皆の身体も小刻みに震え、互いに抱き合うように固まっていた。
「力也さん!」
「ただいま」
必死に作った笑顔で、笑えば結衣が抱き着く様に傍へときた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫」
タオル越しに触れる感触が、傷口に当たり痛みが増すがそれを出すことはできない。
結衣だけでなく、他の皆も駆け寄ってきて口々に声をかけてくれるから笑い返す。
「さっきの子は?」
「さきほど、オーナーがケアしてくれたのでもう大丈夫だと…」
「そう、ちょっといいか」
寝かされたままのその子の傍に行き、その頭に手を置く。
「頑張ったな、Good Boy」【よくできました】
本来ならばSubがいうことではないけど、必死について行っていただろう子にそう言葉をかける。一瞬うめき声が止まったがそれで落ち着くわけもなく、まだまだケアが必要なその子から手を離す。
「後はオーナーに任せる」
「力也さん、帰っちゃうんですか?」
「俺がいなくてももう大丈夫だろ?ちょっと寄っただけだし、帰るよ」
スタッフたちの扱いに慣れているオーナーがいれば俺はきっと必要がない、ここでの役割はすんだ。置きっぱなしだった荷物を持ち裏口へ向かう。
「本当に大丈夫なんですか?」
「俺の頑丈さ知ってんだろ?大丈夫だって!あ、そうだ落ち着いたら持ってきた菓子みんなで食べろよ?賞味期限今日中だから」
「ありがとうございました」
見送りにきた結衣に手を振り、店の外へと出る。あの男がいるかもしれないから、正面とは逆に歩く。
(さっさと離れねぇと)
動くたびに、痛む傷口を耐え俺は店から遠ざかった。
やっと裏通りを抜け、人通りの多い場所に来た俺は建物と建物の間に座り込んだ。
あんなおざなりな言葉がケアと言えるわけもなく、耐えて、耐えて、なおもまだ続く激痛も、あの男の声もなにもかもが新たな痛みを産む。
「冬真…」
口からでた名前に、ふとあの時に吹き込まれた録音があることを思い出す。辛いときようにと撮ってくれたものだ。今がその時だろう。
L●NEを開き、耳に当てる。聞こえてくるのは、コマンドなんかではなくただ力也と名前を呼ぶ声。何度も何度も繰り返されるそれに、耳を傾け、これで大丈夫だと思っていると声が消えた。
もう終わりかと思って画面を見るとまだ録音時間は終わっていなかった。
「冬真失敗してんじゃん」
停止ボタンを押すのが遅れたのかと思いながら、聞いていると少しの無音の後に冬真の声がもう一度聞こえた。
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