エキゾチックアニマル【本編完結】

霧京

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第三十話【パートナー講習会】後

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「さっきから聞いてれば、躾けるとか叱るとか言ってるけど…それって俺たちDomがSubにすることだろ」
「一般的にはそうですね。ですが、それは多くの場合が我々Domの都合で成り立っています。我々Domが自分の理想というわがままを押し付けている結果なのです。対して、私が今言ったSubの皆様にお願いしたいことは、その理想が世の道に外れたものだった場合の話をしているのです。我々Domの中にある衝動はほとんどが異常なものばかりですからね」
「異常って…」
「だってそうでしょう?愛するものをいじめたい、支配したい、泣かせ、時に一生消えない傷をつけ、すべてを管理したい。この思いを異常といわず何というのですか?これが普通の感情だというのならば、この世の中は混沌に満ちていると言えるでしょう。そこには平和などなく、愛するもの同士が互いに壊しあい、傷つけあう、暴力と虚しさしか残らない世界といえるでしょう。いかがですか?ここまで聞いてもまだ我々Domの愛情は異常ではないと言えますか?」

 菊川が少しも押されることなく、そう言い切るとその男はなにも言い返せなくなったかのようにおとなしく席へと座りなおした。
 確かにそれは目をそらすことのできない真実であり、自らのゆがんだ愛情を自覚するに十分な言葉だった。

「我々Domのする愛情表現は世間でいう犯罪と変わりないのです。ではなぜ、我々Domがいまこうして一般人として生きていけているかわかりますか?それはSubの皆様がいるからなのです。Subの皆様が我々Domのゆがんだ感情を受け止め、それでも愛してくださるからここにこうして普通の人間のような顔をして立っていられるのです」

 徐々に力を帯びてくる演説に、会場の空気が飲まれていく。菊川が高ランクのDomの力でその場を支配しようとしている時、不意にステージの隅に待機していたパートナーのSubが立ち上がった。彼は何を言うことでもなく、菊川へと近づきそして口を開いた。

「ご主人様、喉乾いたのでお水ください」
「はい、わかりました」

 空気も読まずに演説の途中に飲み物をねだってきたSubへと微笑み、菊川は自らのペットボトルの水を口へと含み、口移しで与えた。当たり前のようにそれを受け入れたSubが口に含んだ水を飲み干すと、菊川は褒めるような笑みと愛情のこもったグレアを向けた。

「まだお話が続くので、残りは自分で飲めますか?」
「飲めます」
「では、これを持って行っていいのでまた元のところで待機していてください」
「はい」

 まだ水の残るペットボトルを手渡され、大事そうに抱えると彼はもう一度【人をダメにするクッション】へと戻り座った。

「Subの皆様が、我々Domのことを許して、それに答えてくださるということはとてもありがたいことなのです」
(何事もなかったかのようにつづけた!?)

 一連の流れを驚きながらも見守っていた力也は心の中で突っ込みを入れた。力也だけでなく、ザワザワと会場中のほとんどの参加者に動揺が見て取れた。そんな状態でも【王華学校】の関係者だけは動揺せずにほほえましそうな笑顔を向けていた。

「冬真、もしかしてあのSubの人も卒業生?」
「ああ、俺より一つ上の学年だった」
「そうか…。確認なんだけど、元生徒会長ってことはあの人が当時の生徒の代表例ってことでいい?」
「当時っていうか、大体みんなあんな感じ」

 この宗教の教えのような状況が学校では常に行われていると聞き、力也は軽いめまいがした。むろん、内容を考えれば危険思考どころか、安全なほうへと導いているだけなのだがそれにしてもDomに従うのがSubとして正しいと思っていた力也からすれば頭が混乱する内容だった。

「冬真…俺カルチャーショックがひどいんだけど?」
「力也、真面目だからな。でも、俺とこれからも一緒にいてくれるなら覚えてほしい」
「……わかった」

 その後も菊川はSubはどんなに素晴らしいか、人に従うということがどんなに勇気がいる尊い思想なのか。それに対し、人に従うよりも支配することを良しとすることがどれほど危険な思考なのかを滾々と語った。
 
「だからこそ、パートナーとなるSubの皆様には是非とも時には毅然とした態度で我々Domと接していただきたいと思います。遠慮などせずに、素直な気持ちを伝えていただきたい、我々Domにわからせるにはそれしか方法はないのです」

 長年Subとして生きてきて色々わかったつもりになっていた力也からしてもそれは初耳のことが多く勉強になるものでもあった。特に基本的にポジティブに考えるDomとネガティブに考えがちなSubでは物事の捉え方も違う、そのためすれ違いが起こりやすいという内容は考えさせられるものだった。
 何事も真摯に受け止め時に引きずるSubとそれはそれと割り切れるDomとでは、加減がわかりにくくお仕置きしすぎてしまうことがあるという、言葉を聞いてチラリと伊澄を見れば、頭を抱えていた。

「耳が痛いよな」
「はい…」

 とげとげしいながらも、落ち着いた様子で話しかけた冬真へ伊澄は痛感したように同意したのだった。

「では、ここで十五分間休憩をはさみたいと思います。Subの皆様は会場を出ていただき、右手にある休憩スペースに飲み物を用意してありますのでご利用ください。私のSubがご案内します。Domの方々はそのままお待ちください」

 菊川に目配せされたパートナーのSubは立ち上がり、ステージを降りると会場の出入り口を開けて他のSubたちが来るのをまった。

「力也、行ってこい」
「うん」
「伊澄さん…」
「愛波行きなさい。力也さん、愛波をお願いします」
「わかりました。いこう愛波」
「は、はい…」

 立ち上がり、愛波を促し出口のほうへと向えば他のSubたちもそれぞれのパートナーに勧められ徐々に立ち上がると、出口のほうへときた。

「こちらへ」

 会場をでて、案内されたのは会場から少し離れたところにある休憩用に用意されたスペースだった。そこにはジュースを含めいくつかの飲み物とちょっとしたお菓子が用意されていた。

「どうぞ」

 案内してきた彼は取りやすいように戸惑うSubたちへコップとお菓子を渡していく。受け取ってしまったからにはなにか飲まなければいけない気がしたのだろう。その後はあっさりとそれぞれ飲み物やお菓子に手を出すようになった

「なんかすごい内容だったな」
「はい…僕もあれをしなきゃいけないんでしょうか?僕…できる自信ないです」
「それを言ったら俺だってねぇよ。でも、冬真がそれを望んでるのはわかるから頑張ってみるけど…」
「伊澄さんも望んでいると思いますか?」
「どーだろうな」
「そういうことは本人に聞いたほうがいいです」

 力也と愛波の話に入ってきたのは、菊川のSubだった。彼は菊川が一緒にいる時とは違い、しっかりとした口調でつづけた。

「ご主人様がこの講習会を聞いて何を考えたのか、そのうえで二人でどうしていくべきか、考えきちんとお互いに話を聞くことが一番重要です。先ほどの話は、参考程度でも構いません」

 力也たちだけでなく、周囲のSubも集まってきてその言葉へと耳を傾けた。

「大切なことは共に歩むこと、抑え込まないこと、飲み込むだけでなく吐き出すことも時には大切なんです」

 互いの理想を探すということは口にするよりもずっと難しい。特にDomの要求に合わせることで心に安心を得るタイプのSubからすれば、苦痛にもなりえる。
 自分の理想を探す過程で、それを求める意味を見失ってしまい、人に求めることも苦痛に感じてあきらめてしまう。それを変えなくてはいけないのかと集まっていたSubの多くは不安そうな表情を浮かべていた。
 その気持ちは力也もわからないわけでもない。ご主人様と決めたDomにわざわざ自分の我を口にするよりも飲み込むほうが気が楽なのだ。
 たとえ不満を覚えたとしても、相手がよければ結局受け入れてしまう。Subとはそういうものだ。
 それでも、力也にはそれを冬真が望んでいるという確証があった。

(だって…冬真はいつも俺を大切にしてくれる)

 だからうつむくことなく、堂々と口にすればいい。色々予想外のことをいうご主人様でも、それだけは変わらないことだと思えるから。
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