エキゾチックアニマル【本編完結】

霧京

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第三十七話【不調】前

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世の中には鈍感な人と敏感な人がいる。なにに鈍感か、敏感かなど色々あるが、一般的にSubは他人の心に敏感で、Domは鈍感なほうだと言われている。
 逆に、Subは己の危険に鈍感で、Domは敏感だとされている。わかりやすく言えば、Subは外からの刺激を受けやすく、Domは内からの刺激を受けやすい。
 しかし、ことグレアについてはランクの上下も関わってくる。例えSubであってもランクが下のDomであれば跳ねのけることが可能で、人によっては全然感じないという猛者もいるらしい。
グレアを送っているのに、気づいてももらえないのはなかなかに悲しいものがある。タイプのSubならなおさらだろう。まぁ、そんなこと王華学校のDomからすれば単なる笑い話でしかないが。
ともかく、同じく高ランクのSubである力也は自分のことを鈍感だと思っていた。しかし、実はそれほど鈍感なわけではなく、相手が低ランクでもグレアを出していれば、出しているなぐらいには気づいていた。
 それが自分の体に影響を及ぼすかどうかはさておき、気づいたうえで無視していた。それで食い下がる相手ならそれまで、それでも食い下がらず絡んでくるなら断るほどのことでなければ受けていた。
どうせ、効いていないのだから強硬手段にでられようと、どうにかなるし、Domを無視し続けるのはあまりいい気分ではない。この話をSub以外にすれば首を傾げられるだろうが、言いようもない罪悪感が付きまとうのだから仕方ない。
 とはいえ、グレアが効いていないのは相手のDomは気づいているのだから大抵深くかかわらず去っていく。プライドが高いDomからすれば癪に障るのだろう。しかも、見た目からしても一筋縄ではいかなそうなSubであればなおさらだ。
 だからこそ、力也はDomが多い業界でも問題なかった。

「朝からご機嫌だな」
「実は今日冬真が夕飯食べにいかないかって誘ってきて」

 手だけで慣れた様子で運転する氷室に声をかけられ、力也はスマホを握りながら照れたように返事を返した。

「なるほど、もう返事したのか?」
「してないんですけど、今日ってどんな感じでしたっけ?」
「午前中が、雑誌で午後は特撮の撮影だ。何事もなければ七時には終わる」
「よかった。じゃあ冬真にそう返しておきます」
「ただし、明日もあるから夕食だけにしろよ?」

 それに力也は“はい”と返事を返した。基本的に寝れば回復するが、しばらく忙しくなると言っていたから体力は温存しておいたほうがいい。そんなの関係ないというDomが相手ならそれも難しいだろうが、冬真はそういうタイプではないので心配はいらない。

「物わかりのいいご主人様で助かったな」
「はい」
「よし、ついたぞ」
「ありがとうございます」
 そう話しているうちに雑誌の撮影スタジオにつき、力也は車を降りた。

「じゃあ、午後前に迎えに来るから」
「午後の撮影場所ってここから近くっすよね?俺歩いていくんで大丈夫です」
「そうか。ならまた連絡する。気をつけろよ」
「はーい」

 そういうと、撮影スタジオの中へと入っていった力也を見送り、氷室は担当しているほかの若手スタントマンのところに向かった。

 入り口で身分証明書を見せ、控室と書かれたドアをノックすれば中から数人の聞き覚えのある声が聞こえた。

「おはようございます」
「お、来た来た久しぶり」
「よう、元気そうだな」
「おはようっ」

 ドアを開ければそこには、鍛えられた肉体を売りにしたモデルが三人いた。彼らは力也と同じ事務所で、アウトドア系やスポーツ系の雑誌で、何度か仕事が一緒になったことがある顔見知りだった。

「よろしくお願いします」

 実はこのうちの二人はDomなのだが、初対面でグレアを無視されたことで諦めたのかちょっかいを出すことなく、それ以来たまに撮影であっても普通に仲良く接していた。

「おう、よろしく」

 気楽に返事を返され、荷物を下ろすと三人のうち一人が傍に寄ってきた。片手に服を持ち、力也の近くまでくると手にしていた服を差し出した。

「これ、お前の衣装」
「ありがとうございます」
「寒いから上は着とけよ」
「ここ置いとくから」

 その言葉に“わかりました”と返事を返すと、力也はズボンのベルトに手をかけた。ベルトを外し、ズボンを脱ぐと椅子へとひっかける。なんとなく視線を感じつつチラリとみれば、三人は談笑していた。

「ってかアウトドア特集だってのに、一歩もスタジオからでないとか詐欺だよな」
「背景も全部CGだしよ」

 楽しそうに話す様子に、力也は気のせいかちょっと見ただけだろうと結論付け、ズボンを履くと服を脱ぎタンクトップに着替え上着を羽織った。

「俺の担当ってロッククライミングですよね」
「そうそう、っても室内のボルダリングだけど」
「スタジオの低いやつ登るってか張り付いてるだけ」
「まあ、お前にはそのほうがいいよな。この寒いのにその恰好で外出たらやばいよな」
「俺なんかすごい厚着してんのに」

 笑い合う三人へと近寄ると、雑誌の企画書を手に取り、パラパラと捲る。別々の内容の撮影なのだから一緒に撮ることはないのかと思ったら、キャンプのシーンがあるらしい。

「キャンプ、俺あんまりしたことないです」
「はぁ? お前登山してんだろ?」
「そん時にするだろ」
「するにはするんすけど、あれはキャンプってか野宿?」
「なんだよそれ」

 本当にマウンテンスポーツだけを目的としていたので、キャンプという言い方は似合わないだろうとそう言えば、ゲラゲラと可笑しそうに笑われた。

「まぁ心配すんなって、俺たちがそれっぽくしてやるから」
「頼みます」
「それより、お前はインタビューじゃねぇのか?」
「そう、それが心配だって言われてきたんですよ」

 インタビューの内容に書かれたページに行きつき、箇条書きの質問に目を通しつつぼやけばまた笑われた。

「力也、たまにずれた返事返すからな」
「わかってるなら、今からでも代わってください」

 力也としては真面目に返事をしているのだが、スリル慣れしている所為か一般的な理想の返答からずれた答えを返すことが多々あるらしく、そのたびに首を傾げられるのを覚えている。

「やだ。俺たちはお前が面白い返事するのをみて楽しむんだからよ」
「そういうとこDomっぽいっすよね」
「そういうお前は随分Subっぽくなったな」

 そういうと、Domの二人は特有の悪い笑みを浮かべた。発せられたグレアは強くはない物の、力也はその感覚をはっきりと認識した。軽くゆすられるかのようないつもの感覚、でもそれだけではなく……。
 
(あれ?なんか……)

 その感じは本当に一瞬だった。効かないほどの弱いグレアが発せられていることに気づいた時、なにかが胃にせりあがってくるような感じがした。

「その手の話し俺わかんねぇんだけど」
「まあ、Usualはそうだよな」
「すんません」

 この中で一人、ダイナミクスを持たない彼のその言葉で、一瞬だけ感じたいつもと違う感じを思考の外へと追いやった。

 撮影は順調に進んだ。途中衣装チェンジを挟み、四人でのキャンプの焚火のシーンを撮り、雑誌の撮影は終わった。

「お疲れ、お前はこの後インタビューだろ?」
「はい」

 衣装から着替え終わり、インタビュー用の部屋に向かおうとしていると話しかけられ力也は立ち止まった。

「じゃあ、それ終わったら昼飯一緒に食わねぇ?」
「時間あるならだけど」
「インタビュー次第ですけど軽くなら」
「あんまり遅かったら置いてく」
「わかりました」

 午後の撮影までには時間がある為、インタビューを入れても軽い食事をとるぐらいなら問題ないだろうと思い、力也はあっさりと了承すると部屋へと向かった。

「やっぱ、Subらしくなってるよな」
「ああ、いい感じに仕上がってきてんな」

 その後姿を見送り、そうつぶやくDomの二人の笑いに気づくことなく。

 マウンテンスポーツについてのインタビューを終え、力也が部屋の外に出れば昼食に誘ってくれたDomの二人がいた。

「お、おつか……ふふふっ」
「予想よりはや……くっ」

 二人は宣言通り、廊下で耳をそばだて聞いていたらしい。聞かれちゃいけないというほどでもないが、なんで誰も止めなかったのだろう。できることなら聞かずにその辺で待っていてほしかった力也からすれば謎でしょうがない。
 
「二人とも笑うなら笑ってください」

 そう言えば、二人はそう言われたならと遠慮なく爆笑し始めた。

「携帯食について聞いてるのに、食べれる野草とか……ハハハッ!」
「夜の過ごし方で鳴子仕掛けて寝るってお前な……あはははっ!」
「そんなにおかしいですか?」

 聞かれたことを答えただけなのに、なぜそんなに笑われるのか。確かに困った笑みを送られ、何度か聞き返されていたのはわかるが。

「おかしいっていうかな~。お前の場合、アウトドアじゃなくサバイバルなんだよな」
「限りなくらしいって感じだけどよ」
「大体なんで俺なんですか!」

 そのツッコミに、二人は顔を見合わせニヤッと笑みを浮かべた。予想はついているがそれを教える気はなく“なんでだろうな”と話を合わせるだけだった。

「まぁ、そう怒らず昼、食べに行こうぜ」
「午後も仕事あんだろ?」
「そう言えば二人だけなんですね」
「アイツは時間ないからって」
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