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第六十四話【嬉しい言葉】後
しおりを挟む心を込めたプロポーズの言葉は一生の思い出に残る。例えばCollarをもらった時に誓ってくれた言葉、シンプルだったが物になれという束縛が心地よく嬉しかった。
でも、それ以外にも冬真は嬉しい言葉をいくつも言ってくれる。冬真からは言葉の刃など感じたことがない。
むろん、普段からキツイ物言いをしないというならわかるが、冬真は気に食わない相手、特にDomに対しては容赦がない。なのに、例え怒らせても失敗してもなじられたことも貶されることもなく、気づけば嬉しい言葉を言ってくれていた。
いつしか冬真のコマンドが好きという感情から、言葉が好きにかわっていた。口を開くたびに嬉しい言葉を言ってくれるのを期待してしまう。
映像をみているだけでは知ることができなかっただろう。そう思えば、あの時に冬真が話しかけてくれてよかったと思えた。あの時はつい怒ってしまったが。
いまではあの時のことはいい笑いのネタだ。冬真はすでに開き直ってるが、それでももっとうまくやればよかったとは思っているらしい。
そんな冬真は今、トレーニングする力也を見ながら、力也のスマホをチェックしている。
「この目黒って場所っぽい名前なのは?」
「あ、その人名前教えてもらえなかったんだよ。旦那様呼びさせる派だった」
「消去でいいな」
眉間に皺を寄せ睨むようにスマホを見ながら、返事をする前に流れるような手際で消去されブロックされた。
少し広くなった部屋のテーブルをどかし、腕立て伏せをする力也は、先ほどから次々に出される名前に返事を返している。
昔相手をしたDomたちの連絡先が残っていることに気づいた冬真は、その無頓着に不満を覚え、力也からスマホを奪うとアドレスの掃除を始めた。
「ってか、お前ほんと登録数多いな」
「そっか? 結構あっちこっち行くし業界的にもこんなもんだろ」
「俺の登録数みるか?」
「そんなに少ないのかよ」
そんな堂々と言われると逆に心配になってしまう。顔が広い方がこの業界は間違いなく有利なのにいいのか。
「ってかDomがわかりにくいから印とかつけとけよ」
「印?」
「DomはD、SubはSとか」
「あーそれいいな、わかりやすい」
実際、聞かれても顔も誰だったかもよく思い出せない人も居る。何故かそういうときは大体Domだが、冬真にそれを伝えるとどこか満足そうに消される。
「ザマァ」
なにがザマァなのかはわからないが、機嫌がいいならいいかと気にしないことにした。
「よし、とりあえず綺麗になったかな。もし残ってたら消してブロックしろ」
「はーい」
「あと、GPS入れるから」
「了解」
「俺のも登録しとくから、好きに見ろ」
こっちだけ入れるのかと思えば、冬真まで登録しこれで互いに位置情報が確認できるようになった。
「Collarにつけるのかと思った」
「あー、そういうのもあるけど、ちょっと邪魔だし」
「港はマイクロチップつけられたって言ったけど」
「ほんとアイツよく我慢できるよな」
個体識別と位置確認ができるマイクロチップは体の一部に埋め込まなければならず、一度埋め込まれてしまえば取り出すのが難しく、特に束縛心の強いDomが好む物だ。
それでもやりたい人は居るため、王華学校の目が届く病院で受け持っている。とはいえ、王華学校の方針上、つけたDomのほうが情報をにぎられることになるが。
「お前が目の届かないとこに行きそうになったら考える」
「雪山登山とか?」
「行くなよ」
さすがに即座に止められ力也は笑い声を上げた。無論、本気ではなく冗談だ。
「冗談だって、孝仁さんからも止められてるし行かねぇよ」
「お前の場合、冗談に聞こえねぇからな」
そう言うと、ちょうどトレーニングを終えた力也を手招きされた。呼ばれるままにベッドの下に座った力也に寄りかかるように抱きしめた。
「あんま心配させんな」
「冬真が心配性なんだろ」
体重をかけられ、耳元の匂いを嗅がれる。トレーニングで汗をかいているのに、あまり嗅がないでほしい。
「汗臭いだろ?」
「汗をかいてすぐは臭わねぇよ」
「じゃあ、いまのうちにシャワー浴びてくるか」
「せっかくだからこのままいろよ」
匂い出す前にシャワーに行きたいって言っているのに、何故止めるのか。どうせすぐに汗をかくから後でいいというのはわかるが、そのままずっと嗅ぎつけるのはどうかと思う。
「ってか暑」
「なら脱げばいいじゃん」
「どっちかってとシャワー浴びてぇんだけど」
「それはダメ、堪能してんだから」
「変態」
汗のベタベタもあるだろうに、嫌ではないらしくべったり体重を預けられるが抵抗する気にもなれず、大人しくいいようにされる。
「うっわ!」
油断していたら不意に首筋を舐められ、思わず首をすくめ、慌てて体を反らす。そんな力也の様子に冬真は笑った。
「しょっぱい」
「当たり前だろ」
汗を舐めたのだから当たり前だと、顔をしかめる力也が距離を置こうとするのを見ながらまた手を伸ばす。
「何で逃げるんだよ」
何でと言われても、ただなんとなく味わわれると恥ずかしく、ごまかすように手をパタパタ振った。
「力也」
それでもこうして呼ばれてしまえば、それ以上に逃げることも叶わず、しかたなく元の位置へと戻る。
「愛してる」
せめてもの抵抗のように背中を向けて座ったのに、再び抱きしめられ顔を背中に当てられる。いつもどう返していいかわからなくても、冬真は惜しみなく言葉をくれる。
「ずっと俺の物でいろ。俺の傍で、力也のままで生きろ」
背中越しで聞くその言葉と愛情を込めたグレアが少し気恥ずかしい。それでも、泣きたくなるほどの幸せを感じる。
「もっと・・・・・・強く」
自分も同じように想いを伝えられたらと思うも、どう伝えていいか言葉は出てこず代わりに口から出たのはそんな甘えだった。
「このくらい?」
軽い笑い声と共に、抱きしめている手に力が加わり、身動きがとれなくなる。
「もっと」
それでも物足りなくて、そういえばまた手に力がこもった。苦しいぐらいに抱きしめてほしい力也からすればそれでも弱い。
「もっと」
「悪い、これで全力」
困ったような声で言われ、冬真では苦しめるほどの力はないのだと気づく。自分がやるならできるが、体格的にも冬真では無理がある。
「逃げないように拘束してほしい気分だったのに」
「そんなに管理してほしいならそのうちしてやるから」
「そのうち?」
聞き返せばもたれ掛かるように体を預け、耳元に口を寄せてきた。
「そう、食事管理とか食事管理とか、なんなら排泄も管理してやるよ」
「クレイムしたらってこと?」
クレイム後の生活変化について話したことはなかったが、束縛が強くなるのかと思い聞き返せば冬真は軽い笑い声交じりにささやいた。
「違げぇよ。50年後ぐらいか60年後ぐらいでもいい」
「冬真、それ介護」
束縛に満ちた日々の想像図が一気に崩れ、代わりに管理や支配とは違う現実的な想像図が浮かぶ、歳をとって寝たきりになった自分の傍に同じように歳をとった冬真がずっと付きそうそんな想像が。
「動けなくなったお前に、食事を食べさせて、散歩に連れて行ってやったり、着替えも俺がするし、風呂だって、トイレだって連れて行ってやる」
「完全介護じゃん」
どこか夢を語るようにうっとりと話すが、想像する内容はそれに値するとは思えない内容ばかりだ。確かに冬真よりも年上だから、先に年老い動けなくなる可能性が高いが、それをこれに結びつけるとは思わなかった。
「お前のことだ、目を離すと徘徊するかもしれない、そしたら鍵つけて閉じ込める。友達と会いたいなら連れてきてやるし、欲しいものも俺が用意するからそれから選べばいい。ベッドから一歩も動けなくても、ずっと傍に居る」
「だんだん、やばい感じに聞こえてきた」
俗に言う束縛や支配とは違うが、ギチギチに管理という名のお世話をするつもりらしいが、相変わらず想像図は楽しいのか首を傾げる内容だ。それでもその想像は徐々に具体的になっていく。
「ベッドから動けなくなったら、オムツだよな。そしたら俺がオムツも替えるし、毎日体も拭くし、シャンプー・・・・・・はどうすればいいかわかんねぇけど、やってやるから。お前は大人しくされるがままになっていればいいから」
「なんか、やらしく聞こえんだけど・・・・・・」
「やらしいって介護だろ?」
内容はそうだが、なぜかそうは聞こえなかったから聞き返せば、冬真は力也の顔をのぞき込みそう問い返した。
「なに? そんな風に聞こえた?」
次々に訪れた恥ずかしい言葉に、赤くなった力也の顔を見るとおかしそうに笑った。
「からかってんのかよ」
「そういう感じに聞こえるように言ったのはわざとだけど、本心だって。もし、本当にそうなっても俺は喜んでお世話をするから気にすんなってこと」
どう受け取っていいのかわからず、仏頂面を浮かべたままの顔に唇が近づき、重なる。
「50年たっても、60年たっても、何年たっても俺はお前のパートナーでいたいし、お前を甘やかすそれが俺の幸せだから」
こうしてまた、嬉しい言葉を自然に口にし、幸せで満たされる。軽口はいくらでも出るのに、それに返す言葉はわからず、かろうじて口から出たのは拙い感謝の言葉だけだった。
「・・・・・・ありがとう」
「もう一声」
「よろしくお願いします」
「任せろ」
力也からのお願いにDomらしい自信に満ちた尊大な笑みを見せた冬真は、もう一度今度は深く熱くその拙い唇を奪った。またひとつ嬉しい言葉が増えた。
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