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第九十話【生まれてきた意味】後1 最終話
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馬を追い立てるようにしてやっとの事で城からの抜け穴が通じているお堂へたどり着いた。
きっと孝真を守りここにたどり着いたはずだ。そう思い、辺りを見回し声を張り上げる。
「力仁様! どこにいらっしゃいますか!? 力仁様! 俺です! 冬也です!」
「冬也?」
繰り返し呼び、やっと帰ってきた声は望んだ人の物ではなかった。
「孝真様?」
「冬也!」
小姓と奥方と女中に支えられるようにして、出てきたのは力仁が大切に育てていた跡継ぎの孝真だった。
「ご無事で! して、力仁様は?」
怪我がなさそうなその様子にほっとし、馬を下り跪き尋ねれば孝真は抜け穴のほうへ視線を送った。
「出てこぬのだ」
その声が、体が震えているのに今更ながら気づいた。幼いながらも行持を守り、涙を堪え孝真は抜け穴の出口に視線を送っていた。
「かならず、後からくると言ったのに出てこぬのだ。力仁が約束を破るはずがない。なのに・・・・・・」
「まさか・・・・・・」
抜け穴の出口の傍へ近づけば、そこには力仁と同じ従の隠密がいた。彼はチラリと冬也を見ると、抜け穴の出口へ視線を戻した。
「途中から穴が崩れている。入るならば、生き埋めになる覚悟を」
その言葉に心が冷え切っていくのを感じる。それでも行かないという選択肢は思いつかなかった。
「いま、こちらへ本軍が向かっています。おそらく間もなく到着すると思います。それまで孝真様をよろしくお願いいたします」
「承知した」
そう言うと、冬也は抜け穴へ降りた。
真っ暗な穴の中を進めば、徐々に血の臭いが強くなる。その臭いに言い様のない恐怖が心を埋め尽くしていく。
「力仁様、どうかご無事で・・・・・・」
その声は自分でも驚くほど小さく、かすれていた。やがて崩れ落ちた石が増え、道が狭くなった。
心臓が聞いたことのない音を立てる中、這いずるようにしてその先へ進んだ。
這いずるように進んだ先になにかが道を塞いでいるのを感じた。
触る前から己の手が震えた。それでも、ゆっくりとそれに触れればそれはガタッと倒れた。
それと同時に向こう側が見えた。そこは血の海だった。
その時にはもう冬也にはわかっていた。這いずることしかできないようなそんな道を塞いでいたのが、なんだったのか。
けして踏まないようにゆっくりと崩れた隙間を抜け、血の上に膝をつく。
「力仁様、遅れて申し訳ございません。冬也、ただいま戻りました」
既に動かないその亡骸は傷だらけで、見る影もなかった。最後まで忠実に自分の責務を果たしたその亡骸をゆっくりと抱き上げる。
幾度もこうして触れることを願っていた。それがこんな形で叶おうとは思わなかった。
「力仁様・・・・・・何もおっしゃってくださらないのですか? よく戻ってきたとおっしゃってくださるのではなかったのですか?」
問いかけても、なにも返事は返ってはこない。そんなことわかっていた。
自然に、瞳から涙がこぼれ落ちる。
「力仁様、お許しください。お刀お借りします」
抱きしめたまま、冬也はその亡骸の胸元から懐刀を抜き、自らの腹に当てた。
「どこまでも共に」
ザクッ! その音と共に、勢いよく血が吹き出した。真っ白になる視界の中、冬也は愛しい人をけして離すものかとしっかりと抱きしめた。
もし再び会えるならば、貴方を満たせる存在になりたい。あのように我慢をさせることなく、幸せを差し上げられる存在に。
貴方が心から望んでくれるそんな存在に、その為ならば俺は・・・・・・。
後日抜け穴から見つかったそれに、孝真は言葉を失った。一度に失われたものは多く、空洞のようになった心が、ゆっくりと何かで埋まっていく。
『孝真さま』
その呟くような声に思わず、辺りを見回すが望む姿はなく。あるのは二つの抱き合う亡骸だけだった。
「力仁」
口にだして呼んだ瞬間、心の中をなにかが埋め尽くし、そしてそれは一気に外へとあふれ出した。吹き出したそれは、周囲にいた小姓達へと襲いかかる。
震えながら、崩れるように膝をついた小姓達をみて、孝真は自分が父を超える主としての力を手にしたことを悟った。
「今更か・・・・・・全て失ってしまったというのに今更か・・・・・・。もっと早く得ていれば・・・・・・もっと従のことがわかっていれば・・・・・・。きっと・・・・・・」
主としての大きな力を持った彼が人前で涙を流したのはこれが最後となった。
きっと孝真を守りここにたどり着いたはずだ。そう思い、辺りを見回し声を張り上げる。
「力仁様! どこにいらっしゃいますか!? 力仁様! 俺です! 冬也です!」
「冬也?」
繰り返し呼び、やっと帰ってきた声は望んだ人の物ではなかった。
「孝真様?」
「冬也!」
小姓と奥方と女中に支えられるようにして、出てきたのは力仁が大切に育てていた跡継ぎの孝真だった。
「ご無事で! して、力仁様は?」
怪我がなさそうなその様子にほっとし、馬を下り跪き尋ねれば孝真は抜け穴のほうへ視線を送った。
「出てこぬのだ」
その声が、体が震えているのに今更ながら気づいた。幼いながらも行持を守り、涙を堪え孝真は抜け穴の出口に視線を送っていた。
「かならず、後からくると言ったのに出てこぬのだ。力仁が約束を破るはずがない。なのに・・・・・・」
「まさか・・・・・・」
抜け穴の出口の傍へ近づけば、そこには力仁と同じ従の隠密がいた。彼はチラリと冬也を見ると、抜け穴の出口へ視線を戻した。
「途中から穴が崩れている。入るならば、生き埋めになる覚悟を」
その言葉に心が冷え切っていくのを感じる。それでも行かないという選択肢は思いつかなかった。
「いま、こちらへ本軍が向かっています。おそらく間もなく到着すると思います。それまで孝真様をよろしくお願いいたします」
「承知した」
そう言うと、冬也は抜け穴へ降りた。
真っ暗な穴の中を進めば、徐々に血の臭いが強くなる。その臭いに言い様のない恐怖が心を埋め尽くしていく。
「力仁様、どうかご無事で・・・・・・」
その声は自分でも驚くほど小さく、かすれていた。やがて崩れ落ちた石が増え、道が狭くなった。
心臓が聞いたことのない音を立てる中、這いずるようにしてその先へ進んだ。
這いずるように進んだ先になにかが道を塞いでいるのを感じた。
触る前から己の手が震えた。それでも、ゆっくりとそれに触れればそれはガタッと倒れた。
それと同時に向こう側が見えた。そこは血の海だった。
その時にはもう冬也にはわかっていた。這いずることしかできないようなそんな道を塞いでいたのが、なんだったのか。
けして踏まないようにゆっくりと崩れた隙間を抜け、血の上に膝をつく。
「力仁様、遅れて申し訳ございません。冬也、ただいま戻りました」
既に動かないその亡骸は傷だらけで、見る影もなかった。最後まで忠実に自分の責務を果たしたその亡骸をゆっくりと抱き上げる。
幾度もこうして触れることを願っていた。それがこんな形で叶おうとは思わなかった。
「力仁様・・・・・・何もおっしゃってくださらないのですか? よく戻ってきたとおっしゃってくださるのではなかったのですか?」
問いかけても、なにも返事は返ってはこない。そんなことわかっていた。
自然に、瞳から涙がこぼれ落ちる。
「力仁様、お許しください。お刀お借りします」
抱きしめたまま、冬也はその亡骸の胸元から懐刀を抜き、自らの腹に当てた。
「どこまでも共に」
ザクッ! その音と共に、勢いよく血が吹き出した。真っ白になる視界の中、冬也は愛しい人をけして離すものかとしっかりと抱きしめた。
もし再び会えるならば、貴方を満たせる存在になりたい。あのように我慢をさせることなく、幸せを差し上げられる存在に。
貴方が心から望んでくれるそんな存在に、その為ならば俺は・・・・・・。
後日抜け穴から見つかったそれに、孝真は言葉を失った。一度に失われたものは多く、空洞のようになった心が、ゆっくりと何かで埋まっていく。
『孝真さま』
その呟くような声に思わず、辺りを見回すが望む姿はなく。あるのは二つの抱き合う亡骸だけだった。
「力仁」
口にだして呼んだ瞬間、心の中をなにかが埋め尽くし、そしてそれは一気に外へとあふれ出した。吹き出したそれは、周囲にいた小姓達へと襲いかかる。
震えながら、崩れるように膝をついた小姓達をみて、孝真は自分が父を超える主としての力を手にしたことを悟った。
「今更か・・・・・・全て失ってしまったというのに今更か・・・・・・。もっと早く得ていれば・・・・・・もっと従のことがわかっていれば・・・・・・。きっと・・・・・・」
主としての大きな力を持った彼が人前で涙を流したのはこれが最後となった。
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