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32話
しおりを挟むチヨは自分が光っていることに驚いて何も言えなかった。
本当に魔法のようで、ソンツァル神の話が真実だったと心から思ったのだ。
「こ、これは…」
ルーカスは絶句している。
青ざめ、冷や汗をかいていた。
「チヨ様…?どういうことで…一体…これは、何が」
言いたいことや聞きたいことはいっぱいあるのだが、頭は回らないといった感じである。
この青年に自分は残酷なことを告げるのだ。
「私、元の世界に帰ります。ソンツァル神に喚ばれた日、帰ることが出来るって言われてたんです。すごく悩んだけど…」
そう言って微笑むと、チヨは泣きそうになってしまう。
自分が気付かなかっただけで、もしかしたら好きだったのかもしれないと思った。
ただ、それをここで告げるのは残酷なんてものではないだろう。
「だって…俺、あなたのこと好きだって…これから一緒に穏やかな時間を作っていけると…」
思っていたのに、という言葉は消えていく。
ルーカスのその美しい顔に涙がたくさん流れている。
「もっと街にも出掛けて!美味しいものたくさん食べて!それで…」
「うん」
「色々贈り物も考えていたんです。今回だって…」
「うん」
「なんでっ…何も言ってくれないんですか!」
「私の判断が鈍ると思ったんです。残りたくなっちゃうかなぁって」
「残ればいいじゃないですか!」
「…でも私の家族は元の世界にいる」
「俺があなたの家族になります!だから…!」
そのとき祈りの間の扉が勢いよく開いた。
「チヨ!!!!」
「王様…」
「隠していたのはこれだったか…くそ!」
悔しそうに吐き捨てる王は焦りが見てとれた。
ここまで走ってきたのだろう。
肩で息をしているのが見える。
「チヨ様!戻ってきて下さい!お願いです…」
「チヨ!街に行ったそうだな!その話を詳しく聞かせてもらってないぞ!」
2人共、チヨを止めようと必死だ。
それでも——
「ありがとう。本当にありがとう。ここに来て楽しかったです。私の最後の宝物になりました…そして、ごめんなさい。何も言わないで、話さないで…ごめんなさい」
そのとき、チヨの身体はより一層光を放った。
いよいよかもしれない、と思ったとき。
「…チヨ様…これを」
「ふむ…では私も、これを」
ルーカスと王がチヨに何かを手渡す。
それは宝石が輝くブローチと真珠が淡く光るカフスボタンだった。
チヨが受け取ると、2人は泣き笑いのような困ったような笑みを浮かべていた。
「これを私だと思って下さい。あなたのことは忘れません…絶対に。そして本当に愛していました」
「情熱的だな。…そうだな、私もチヨなら妃になっても仲良く…そしてこの国を支えていけると思っていた」
その言葉に、ルーカスはギョッとする。
「…こんなことを2人の男から言わせるなんて…チヨは魔性の女だな」
そう言ってニヤリと笑う王にチヨは苦笑いを返す。
「宝物が増えました…大切にします。肌身離さず持っておきますね」
チヨを包む強い光が明滅を始めた。
その途端、2人の姿が霞んできている。
「ルーカスさん…お元気で!花箱も持って帰りますね!王様、無理し過ぎないように。この国の発展を祈っています」
「チヨ様…どうか…どうか幸せに…っ」
「…チヨこそ…身体に気をつけて…」
チヨが聞こえたのはここまでで、王が最後に言った「長生きしてくれ」というのは聞こえなかった。
ただ、最後に涙が頬を伝うのが見えたのだ。
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