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第46話 第七席
しおりを挟む俺たちが思案していると、公爵の使用人がノックをして入ってきた。
「ルーカス様、『七聖剣』のロザリンドと名乗る人物がお目通りを願っておりますが……」
その言葉に、場の全員が凍りついた。
(七聖剣? ってことは、公爵がここに俺たちを匿ってることがバレた?)
俺たちが緊張していると、公爵が口を開いた。
「通しなさい」
その一言で使用人たちは部屋から出て行った。
「君たちは隣の部屋に隠れていなさい。私が話をつけよう」
公爵の言葉に従い俺、クロエ、アルフォンス、ノエル、そしてフローラは隣の部屋に移動した。
しばらくして、応接室に誰かが入ってきた気配がした。扉の隙間から覗き見ると、そこには一人の女性がいた。
年齢は二十代後半くらいだろうか? 金髪碧眼の女性で、身長は170センチほどある長身だ。顔立ちは非常に整っており美人という言葉がぴったり当てはまるだろう。
服装は真っ黒なローブ姿で、そのせいで武器を持っているのかすら分からない。
「七聖剣第七席、ロザリンド。剣術、魔法、格闘術に秀でていて、ついた異名が【バトルマスター】。その割に自己主張をほとんどせず、常に誰かの指示で動いている……らしい」
同じく隙間から様子をうかがっていたノエルが説明してくれる。
「なんだ、ルナより下か」
「ルナちゃんより弱いのか~」
俺とクロエは同時にそうコメントして、アルフォンスがクスッと笑った。
「うん。ルナより弱いよ~多分。まあ私たちよりは強いんだけどね」
「まあ、七聖剣って時点で十分強いだろ」
俺たちがそんなやりとりをしている間にも話は続いていた。
「王都からはるばるようこそお越しくださいました。ロザリンド殿。──して、どのようなご用件ですかな?」
「……竜征伐に向かったネルリンガー伯爵が死亡しました。同行したヘーザー親衛隊長は重傷、サロモン侯爵令嬢は行方不明。七聖剣の対竜部隊はほとんどが壊滅しました」
ロザリンドが淡々と告げる。公爵は目を細めて静かに頷いた。
「そう、ですか……アーベル殿が亡くなられたのですね。残念だ」
「ええ、これは王国にとっても大きな損失です」
「ルナ……やっぱり聖フランシス教団に連れ去られたのね」
俺の隣でフローラが呟いた。彼女にとってはルナのことが気になるようだが、七聖剣の精鋭三部隊を相手に壊滅させるドラゴン──アムルタートの凶悪さには舌を巻く。まあ、十中八九聖フランシス教団大司祭クリスティーナの横槍が入って、対竜部隊は不利を背負っていたに違いないが……。
「それで、ロザリンド殿は私に何を求めて来られたのかな?」
公爵は穏やかな口調で尋ねる。
「このような危機に、王国を守る七聖剣の一角が空席などということは許されません。早急に穴埋めを行わなければいけないのですが、次の七聖剣の候補としてカロー公爵家のフローラ嬢を推す声がありまして、バーランド国王から公爵領へ向かいお誘いに上がるよう私に命令がありました」
「えっ? あたしが……七聖剣?」
フローラは声を潜めながらも、興奮を隠せない様子だ。七聖剣のルナに対抗して何度も決闘を挑んでいたフローラからしてみると、棚からぼたもちのような状態だろう。ぼたもちというのは何なのかよく分からないが。
「……ふむ、うちのフローラを七聖剣にですか。本人は喜ぶかと思いますが」
公爵は困ったように首を振った。
確かに、今しがた七聖剣の対竜部隊がほぼ全滅したという話を聞いたばかりなのに、大切な一人娘の七聖剣入りを素直に喜べないというのが親心なんだろう。
「ぐぬぬ……あたしはこの話受けたいのに……」
フローラは悔しそうに歯噛みするが、その片にノエルが手を置いて窘めた。
「落ち着いてフローラ。ここでフローラが出ていっちゃうと、私たちが隠れてることもバレるから」
「ぐぬぬ……分かったわよ。我慢するわ」
渋々といった感じだが了承してくれたようだ。俺たちもホッと胸を撫で下ろす。
そんな俺たちの前でロザリンドは淡々と話を続けていく。
「……というわけでですね。カロー公爵家からは是非ともフローラ嬢をお借りしたいのですが……」
「しかしですなぁ、あれは私の大切な一人娘ですので、七聖剣になってもしもの事があれば公爵家の将来にとってもよくありませんので」
公爵が早口に捲し立ててロザリンドの話を遮った。どうやら娘を守ろうとする父親の姿勢に変わりはないらしい。そんな親心を知ってか知らずか、ロザリンドは平然と続けた。
「つまりは、カロー公爵家はこの大変名誉ある申し出を拒否されるということでよろしいですね? そうなれば王家との繋がりも薄くなりますが」
その言葉に公爵は黙り込んでしまった。
確かに公爵家といえども王家あってのことだろうし下手に逆らえば潰されてしまう可能性もある。だからといってフローラを送り出してしまえば間違いなく彼女は七聖剣の一員となって危険な任務に就くことになってしまう。どちらを選んでもリスクはあるわけだ。
「……」
悩んでいる父親を見てフローラが小声で話し掛けてきた。
「ねぇ、平民……お父様はどうすればいいと思う?」
「俺が決めることじゃねぇだろ」
「分かってるわよ! でもさ……あたしだって悩んでるんだから……」
「だったら自分で決めろよ。俺は知らん」
「ひどい! 冷たい! 平民のくせに!」
「俺たちを勝手に公爵領に連れてきたのはそっちだろ? 自分で責任持って行動しろ」
そう言って突き放すとフローラは泣きそうな顔になりながら俯いてしまった。まったく世話の焼けるお嬢様だ。
「あーっ! リッくんがフローラ泣かしたーっ」
「うるせぇ。俺のせいじゃねぇよ!」
「泣いてない!」
ノエルが揶揄い、俺とフローラが同時に叫ぶとアルフォンスがくすくすと笑いながら割り込んできた。
「まあまあ。僕は公爵様の気持ちも分かるなぁ。七聖剣は確かに名誉だけれど、大切な娘に危険な目に遭わせたくはないよねぇ」
「そりゃそうだけどさぁ……」
俺が呆れているとクロエが口を挟む。
「でもさ~七聖剣になるってすごく名誉なことなんでしょ? それを断ったら公爵家としてもよくないんじゃ……」
「まあね」
アルフォンスは短く答えた。やはり彼も公爵の立場に理解を示しながらも、七聖剣の地位の価値も重視しているようだった。すると今度はフローラが口を開く番となった。
「ずっと、七聖剣になって認められることが夢だったの。そうすれば、胸を張って公爵家を告げるようになるかもって……」
フローラは俺の方を見つめながらそう言った。その瞳は真剣そのもので嘘偽りがないことは明白だ。彼女にとって七聖剣になることは自分自身を認めてもらうために必要な通過儀礼のようなものなのだろう。まあ正直なところ面倒だとは思うけどな。
「まあ、そう簡単に諦められないよな」
俺が呟くと彼女は小さく微笑んだ。なんだかんだ言いつつも俺も優しい性格なのかもしれないと思い始めた矢先のことだった。
「そうよ! 七聖剣にならないと認められないのよ! アタシが認められる為には絶対に必要なのよ! お父様に考え直すように言ってくるわ!」
「あっ、ちょっと待て!」
俺は慌ててフローラを制止する。
応接間の二人に動きがあったからだ。
「そこまで仰るなら、私から国王陛下には口添えしておきましょう。──しかし条件があります」
「……何でしょう?」
「この者たちの行方を探していただきたいのです。『リジェネレーション』と『ライフドレイン』という危険なユニークスキルを持った少年少女です」
その言葉にフローラはピクリと反応を示した。俺たちの間にも緊張が走る。やはり、王宮も俺たちを追っているようだ。
「その者たちがなにか?」
「王家の転覆を目論む重罪人です。……どうやら王都を脱出したらしいということは分かっていますが、その後の足取りが掴めていません。もしやどこぞの貴族が匿っているのやもしれません」
「なるほど。その者たちをカロー領内で見つけた場合、捕まえて王宮に移送すればよろしいのですね?」
「ええ、その通りです」
公爵はニヤリと笑って頷いた。その表情には余裕が見て取れた。しかしロザリンドは無表情のまま続ける。
「では、私はこれで。フローラ様の七聖剣の件も含めまた改めて来訪させて頂きます」
「ええ。お待ちしておりますよ」
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