敵国王子に一目惚れされてしまった

伊川有子

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番外編

ルイスの初めて※ランス視点

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 紅葉の盛り、葉が黄や赤に染まった時期にグレスデンを訪れた。たまには外に出なよ、と弟のルイスを連れて。

「なんでまたこんな田舎に」
「いいだろー、空気が澄んでて。グレスデンは寒さはそこまで極端じゃないけど雪がすごいんだよなあ」

 ちょっと散歩ついでに様子を見にグレスデンの城へ訪問する。

「これ城なんだね」

 黒っぽい石でできた頑丈な城を見上げながらそんなことを言うルイス。まあドローシアで城と呼ばれるものとはだいぶ違う。

「二重の石造りだ。冬は温かいんだぞー」
「へえ」

 ガヤガヤしている通りを抜けて城の入り口に入った。結構狭いからかルイスはここが本当に入口?とキョロキョロし始める。

「なんで警備いないの、ザルじゃん」
「いなくても誰も勝手に入ってこないんだよ。盗るものもないし、グレスデンは王家を大事にしてるからそもそも盗ろうともしない」
「変わってるね」
「だなあ」

 急な階段を上っていけばようやくたどり着いた執務室。ノックして部屋に入ればグレスデンの陛下がいた。

「こんちはー。例の袋届いたか?」
「ああ、ランス殿下。今年も食料を分けて頂きありがとうございます。もうすぐ民の手に渡る頃です」
「今年の出来はどうだった?」
「よくはありませんね」

 そうか。凶作じゃないだけマシだけどグレスデンは冬ごもりがあるから毎年キツイんだよなあ。

 そのまましばらく雑談していたが急に外が騒がしくなって窓から街を見下ろす。
 グレスデンの城は城壁の中に町があるのですぐに何が起こっているのかわかった。砦の所に農民らしき男たちが鍬や鎌を手に何かを叫んでいる。しかもその手前には女の子が一人で彼らに立ち向かっていた。

 遠目でもわかるあの赤毛はおそらくグレスデンの第一王女。

「えっ、ちょっと、ヤバくないか?」

 辺りを見回しても警備兵らしき姿はない。彼女は一人で対抗するように大声でやりあっていた。勇ましいけど見ているこっちは血の気が引く。城下の民たちも俺と同じ気持ちなんだろう、必死に彼女を説得をしている様子。

 俺の言葉にルイスと陛下も窓辺へ近づいてきて町を見下ろした。しかし陛下は慌てる様子もなく顔色も変えない。

「止めなくて大丈夫か?」
「平気ですよ。民はシンシアを傷つけることはしませんから」

 やっぱ王女なのか、あの子。

 助けに入った方がいいのか迷いながらヒヤヒヤしつつ見守っていたら、突然何を思ったのか、彼女は一目散に男の集団に向かって駆け出した。

 相手は武器を持った大男だぞ!?あっぶねえ!

 最悪の事態を考えて焦ったけれど、突撃する彼女のあまりの剣幕に男たちは大慌てで引き返して行った。
 とりあえず無事に済んだようなのでほっと胸を撫で下ろす。

「陛下」

 今まで静かだったルイスが急に口を開いた。

「あの子僕にちょうだい」
「は?」

 思いがけない言葉に俺の口から間抜けな声が出る。

「おいおいルイス、ちょうだいって・・・」
「いいでしょ、別に。大丈夫、ちゃんと大事にするよ」

 そんな犬を飼うみたいなノリで何を言い出すんだ。陛下も少し困った様子で眉尻を下げる。

「差し上げたいのは山々ですが、あの娘は一応この国の姫ですのでそう簡単には」

 そりゃそうだ。

「どうしたんだよ、ルイス。あの子と会ったこともないのにいきなり」

 一国の王女をくれ、ともなると結婚しか道はない。どっかの金持ちみたいに愛人にしてちょっと囲っちゃおうなんて真似は無理だ。
 確かに彼女は遠目で見ても魅力的だし(特に走りっぷりが)、気が強そうな感じのある綺麗な子だけどさあ。

「だって欲しいなあって」
「そんなショッピング感覚で人を欲しがるなって」

 大丈夫かコレ。まさかの全く違う問題が発生してしまい困った俺はぽりぽりと頭を掻いた。

 陛下はルイスの方を向き、改まって言う。

「あの子はグレスデンにとってなくてはならない存在です。例えルイス殿下でもどのような好条件を得ようとも他所の国にやるわけにはいきません」

 あのクラー王妃の娘だもんなあ。グリゼイン・ヴェイン家の血を継いだ唯一の王族。しかも噂を聞く限りではかなり凄い子だ。どこへ行っても何に対してもいい話しか聞かない。

「じゃあ僕が婿になるよ。それなら問題ないよね」

 マジで?

「そうですね。ルイス殿下が婿に来てくださるなら、ドローシアとの関係が改善したならば問題はありません」
「じゃあ決まりね」

 マジか・・・。

 あまりにも話がトントン拍子に決まり不安になる。ルイスがこんなにあっさり運命の相手を決めてしまうなんて。

「あ、でも婚約が決まるまでは内密にお願いするよ。やらなきゃいけないことがあるし」
「それよりもまず彼女に想いを伝えた方がいいんじゃね?」

 あの子の気持ちはどうなるんだよ。

 俺が訊けばルイスは窓から見える彼女の姿を見ながら答えた。

「それは最悪だね。あの子しっかりしてるから僕が言い寄ったって義務的な対応しかしないよ。気を遣われる生活なんて御免だし。
僕は政略結婚がしたいんじゃないんだ」
「じゃあどうすんの?」
「んー、上から目線で偉そうにしたら気が強いから対抗してくるだろうね。素を出させたら接しやすいしそれ以上印象が悪くなることはないからやり易い。うん、それでいこう」
「普通に嫌われると思う」

 大丈夫だろうか、心配しかない。もちろんあの子の。

「身分に格差がある以上は仕方ないさ。大丈夫、距離を詰めるときは上手くやるよ」

 キリッとした顔で言われたけど・・・そうじゃない。

 どうなってしまうんだろうと不安しかなかったが、予想に反してルイスはドローシアに帰ると本格的な下準備を始めた。そこまで本気だったのかと驚いた俺はルイスを応援することにした。
















 ルイスに頼まれて2度目のチョコレートを調達してきた時の話。

 ものすごーくタイミングが悪いことに、俺が城に到着した時にシンシア王女がルイスに抱きついてワンワン泣いている場面に遭遇した。
 あのルイスが惚れ込むわけだ、あんなに気が強くてしっかりした子が真っ直ぐに好きになってくれたら男としては堪らない。チョコレート調達しに使いっぱしりさせられたり、お祝いと称して資産の一部をぶん獲られたりしたけど、よかったねえと素直に祝福する。

 さすがに割って入るわけにもいかず、俺は先にルイスの部屋で帰りを待った。
 ルイスは帰ってくるなり大きなため息を吐きながらベッドにダイブする。

「まあまあ、落ち込むなって。婚約ももうすぐなんだろ?」

 すぐ会えるって、と慰めた俺だが、ルイスは落ち込んでいるというより感慨深そうに物思いに耽っていた。

「どうした、何かあったのか?」
「はあ、どうしよう、最後の最後で手出しちゃった」
「そっかー。まあお年頃だもんな」

 むしろ今まで同じ部屋で寝泊まりしていながら何もなかったのが奇跡じゃね?と思う。ルイスは最初からシンシア王女のことが好きだったわけで、男としては拍手喝采で讃えたいくらいだ。

「これじゃあずっと我慢してた意味ない・・・」
「そう落ち込むなって。別にあっちじゃ普通なんだし」

 グレスデン周辺の北の地域にはドローシアのような処女信仰なんてものはない。男女の関係になるのは何の問題もなかった。

 精一杯励ましたのにルイスは言い訳なのか独り言のようにうだうだと言い始める。

「だってさあ、『死んだ後なら会えるのかな』って言われたんだよ!そんなの反則だよね!?」
「あー、それはクるな」

 死んだ後でもいいから会いたい。そんなことを考えるなんて切なくていじらしくて話聞いただけでもキュンとするわ。そりゃ好きな女に言われたら手も出ちゃうよなあ。

「言われた瞬間頭の中がうわーってなっちゃって!
どうしよう、無責任なヤツとか思われたら!いや、シンシアならいい思い出になったくらいにしか思ってないだろうけど!
しかもさっき泣きながら好きって言われてもうどうしようかと!」

 そう言いながら両手で顔を覆ってベッドの上をゴロゴロゴロゴロ転がりだすルイス。

 とりあえず幸せそうでよかったね。

「で、どうだった?初めての感想は」

 さすがにその質問はちょっと無粋だったかな。枕が凄い勢いで飛んできて俺の顔面に激突した。



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