43 / 59
番外編
ルイスの初めて※ランス視点
しおりを挟む紅葉の盛り、葉が黄や赤に染まった時期にグレスデンを訪れた。たまには外に出なよ、と弟のルイスを連れて。
「なんでまたこんな田舎に」
「いいだろー、空気が澄んでて。グレスデンは寒さはそこまで極端じゃないけど雪がすごいんだよなあ」
ちょっと散歩ついでに様子を見にグレスデンの城へ訪問する。
「これ城なんだね」
黒っぽい石でできた頑丈な城を見上げながらそんなことを言うルイス。まあドローシアで城と呼ばれるものとはだいぶ違う。
「二重の石造りだ。冬は温かいんだぞー」
「へえ」
ガヤガヤしている通りを抜けて城の入り口に入った。結構狭いからかルイスはここが本当に入口?とキョロキョロし始める。
「なんで警備いないの、ザルじゃん」
「いなくても誰も勝手に入ってこないんだよ。盗るものもないし、グレスデンは王家を大事にしてるからそもそも盗ろうともしない」
「変わってるね」
「だなあ」
急な階段を上っていけばようやくたどり着いた執務室。ノックして部屋に入ればグレスデンの陛下がいた。
「こんちはー。例の袋届いたか?」
「ああ、ランス殿下。今年も食料を分けて頂きありがとうございます。もうすぐ民の手に渡る頃です」
「今年の出来はどうだった?」
「よくはありませんね」
そうか。凶作じゃないだけマシだけどグレスデンは冬ごもりがあるから毎年キツイんだよなあ。
そのまましばらく雑談していたが急に外が騒がしくなって窓から街を見下ろす。
グレスデンの城は城壁の中に町があるのですぐに何が起こっているのかわかった。砦の所に農民らしき男たちが鍬や鎌を手に何かを叫んでいる。しかもその手前には女の子が一人で彼らに立ち向かっていた。
遠目でもわかるあの赤毛はおそらくグレスデンの第一王女。
「えっ、ちょっと、ヤバくないか?」
辺りを見回しても警備兵らしき姿はない。彼女は一人で対抗するように大声でやりあっていた。勇ましいけど見ているこっちは血の気が引く。城下の民たちも俺と同じ気持ちなんだろう、必死に彼女を説得をしている様子。
俺の言葉にルイスと陛下も窓辺へ近づいてきて町を見下ろした。しかし陛下は慌てる様子もなく顔色も変えない。
「止めなくて大丈夫か?」
「平気ですよ。民はシンシアを傷つけることはしませんから」
やっぱ王女なのか、あの子。
助けに入った方がいいのか迷いながらヒヤヒヤしつつ見守っていたら、突然何を思ったのか、彼女は一目散に男の集団に向かって駆け出した。
相手は武器を持った大男だぞ!?あっぶねえ!
最悪の事態を考えて焦ったけれど、突撃する彼女のあまりの剣幕に男たちは大慌てで引き返して行った。
とりあえず無事に済んだようなのでほっと胸を撫で下ろす。
「陛下」
今まで静かだったルイスが急に口を開いた。
「あの子僕にちょうだい」
「は?」
思いがけない言葉に俺の口から間抜けな声が出る。
「おいおいルイス、ちょうだいって・・・」
「いいでしょ、別に。大丈夫、ちゃんと大事にするよ」
そんな犬を飼うみたいなノリで何を言い出すんだ。陛下も少し困った様子で眉尻を下げる。
「差し上げたいのは山々ですが、あの娘は一応この国の姫ですのでそう簡単には」
そりゃそうだ。
「どうしたんだよ、ルイス。あの子と会ったこともないのにいきなり」
一国の王女をくれ、ともなると結婚しか道はない。どっかの金持ちみたいに愛人にしてちょっと囲っちゃおうなんて真似は無理だ。
確かに彼女は遠目で見ても魅力的だし(特に走りっぷりが)、気が強そうな感じのある綺麗な子だけどさあ。
「だって欲しいなあって」
「そんなショッピング感覚で人を欲しがるなって」
大丈夫かコレ。まさかの全く違う問題が発生してしまい困った俺はぽりぽりと頭を掻いた。
陛下はルイスの方を向き、改まって言う。
「あの子はグレスデンにとってなくてはならない存在です。例えルイス殿下でもどのような好条件を得ようとも他所の国にやるわけにはいきません」
あのクラー王妃の娘だもんなあ。グリゼイン・ヴェイン家の血を継いだ唯一の王族。しかも噂を聞く限りではかなり凄い子だ。どこへ行っても何に対してもいい話しか聞かない。
「じゃあ僕が婿になるよ。それなら問題ないよね」
マジで?
「そうですね。ルイス殿下が婿に来てくださるなら、ドローシアとの関係が改善したならば問題はありません」
「じゃあ決まりね」
マジか・・・。
あまりにも話がトントン拍子に決まり不安になる。ルイスがこんなにあっさり運命の相手を決めてしまうなんて。
「あ、でも婚約が決まるまでは内密にお願いするよ。やらなきゃいけないことがあるし」
「それよりもまず彼女に想いを伝えた方がいいんじゃね?」
あの子の気持ちはどうなるんだよ。
俺が訊けばルイスは窓から見える彼女の姿を見ながら答えた。
「それは最悪だね。あの子しっかりしてるから僕が言い寄ったって義務的な対応しかしないよ。気を遣われる生活なんて御免だし。
僕は政略結婚がしたいんじゃないんだ」
「じゃあどうすんの?」
「んー、上から目線で偉そうにしたら気が強いから対抗してくるだろうね。素を出させたら接しやすいしそれ以上印象が悪くなることはないからやり易い。うん、それでいこう」
「普通に嫌われると思う」
大丈夫だろうか、心配しかない。もちろんあの子の。
「身分に格差がある以上は仕方ないさ。大丈夫、距離を詰めるときは上手くやるよ」
キリッとした顔で言われたけど・・・そうじゃない。
どうなってしまうんだろうと不安しかなかったが、予想に反してルイスはドローシアに帰ると本格的な下準備を始めた。そこまで本気だったのかと驚いた俺はルイスを応援することにした。
ルイスに頼まれて2度目のチョコレートを調達してきた時の話。
ものすごーくタイミングが悪いことに、俺が城に到着した時にシンシア王女がルイスに抱きついてワンワン泣いている場面に遭遇した。
あのルイスが惚れ込むわけだ、あんなに気が強くてしっかりした子が真っ直ぐに好きになってくれたら男としては堪らない。チョコレート調達しに使いっぱしりさせられたり、お祝いと称して資産の一部をぶん獲られたりしたけど、よかったねえと素直に祝福する。
さすがに割って入るわけにもいかず、俺は先にルイスの部屋で帰りを待った。
ルイスは帰ってくるなり大きなため息を吐きながらベッドにダイブする。
「まあまあ、落ち込むなって。婚約ももうすぐなんだろ?」
すぐ会えるって、と慰めた俺だが、ルイスは落ち込んでいるというより感慨深そうに物思いに耽っていた。
「どうした、何かあったのか?」
「はあ、どうしよう、最後の最後で手出しちゃった」
「そっかー。まあお年頃だもんな」
むしろ今まで同じ部屋で寝泊まりしていながら何もなかったのが奇跡じゃね?と思う。ルイスは最初からシンシア王女のことが好きだったわけで、男としては拍手喝采で讃えたいくらいだ。
「これじゃあずっと我慢してた意味ない・・・」
「そう落ち込むなって。別にあっちじゃ普通なんだし」
グレスデン周辺の北の地域にはドローシアのような処女信仰なんてものはない。男女の関係になるのは何の問題もなかった。
精一杯励ましたのにルイスは言い訳なのか独り言のようにうだうだと言い始める。
「だってさあ、『死んだ後なら会えるのかな』って言われたんだよ!そんなの反則だよね!?」
「あー、それはクるな」
死んだ後でもいいから会いたい。そんなことを考えるなんて切なくていじらしくて話聞いただけでもキュンとするわ。そりゃ好きな女に言われたら手も出ちゃうよなあ。
「言われた瞬間頭の中がうわーってなっちゃって!
どうしよう、無責任なヤツとか思われたら!いや、シンシアならいい思い出になったくらいにしか思ってないだろうけど!
しかもさっき泣きながら好きって言われてもうどうしようかと!」
そう言いながら両手で顔を覆ってベッドの上をゴロゴロゴロゴロ転がりだすルイス。
とりあえず幸せそうでよかったね。
「で、どうだった?初めての感想は」
さすがにその質問はちょっと無粋だったかな。枕が凄い勢いで飛んできて俺の顔面に激突した。
1
あなたにおすすめの小説
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!
らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。
高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。
冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演!
リアには本人の知らない大きな秘密があります。
リアを取り巻く男性陣のやり取りや友情も楽しんでいただけたら嬉しいです。
ひみつの姫君からタイトルを変更しました。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません
綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」
婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。
だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。
伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。
彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。
婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。
彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。
真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。
事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。
しかし、リラは知らない。
アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。
そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。
彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。
王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。
捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。
宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――?
※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。
物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる